記憶を呼び覚まして
夕暮れの海風が、千景の涙を乾かすようにそっと吹き抜けていく。
理人は千景の隣に立ったまま、
急かさず、問い詰めず、ただ静かに待っていた。
その優しさに、
千景の胸の奥の“固く閉じていた部分”が、少しずつほどけていく。
しばらくして――
千景は小さく息を吸った。
千景:「……あのね、理人くん。
私……翔太くんと、日向ちゃんと……幼稚園の頃、一緒だったの」
理人は驚いたように目を瞬かせたが、
すぐに柔らかい表情に戻った。
千景は続ける。
千景:「二人は覚えてないみたいだけど……
私、ずっと覚えてるの。
翔太くんは優しくて、日向ちゃんは強くて……
いつも守ってくれたの」
風が、千景の黒髪を揺らす。
千景:「卒園の日にね、言ってくれたの。
“ずっと大好き”って。
“どんなにはなれても、一番の友達だよ”って」
その言葉を思い出した瞬間、
千景の声が震えた。
千景:「……でも、二人は忘れちゃった。
それに……好きな人もいるみたいで……
私なんて、もう……」
言葉が途切れ、
涙がまたこぼれた。
理人は、ゆっくりと千景の方へ体を向けた。
理人:「そうだったんだ…」
理人は少しの沈黙ののち、続ける。
理人:「でも必ず思い出すと思う。忘れているんじゃないと思う。きっと、なんかの拍子ですぐ思い出す。人間てそんなもんだろ。俺も協力する。二人にほのめかしてみるか。」
真剣に悩む理人。
千景は、涙で濡れた目を細めて微笑んだ。
千景:「……ありがとう、理人くん」
海風が、二人の間を優しく通り抜けていった。




