私の時計、あの日から、止まったまま。
新学期が始まってから、もうすぐ一ヶ月。
千景はクラスに馴染んだ。
笑えるようになったし、
みんなとも自然に話せるようになった。
……でも。
翔太と日向だけは、
どうしても距離が縮まらなかった。
二人は人気者だ。
休み時間になれば、
翔太の周りには男子が集まり、
日向の周りには女子が集まる。
千景は、いつも少し離れた場所から
その輪を眺めていた。
(……話したいのに)
胸の奥が、きゅっと痛む。
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ある日の昼休み。
千景が席でノートを閉じたとき、
近くの女子たちの会話が耳に入った。
**香奈**:「翔太と雫華どうなるんだろ」
**優里**:「もどかしいよね…あとは雫華次第なんだけど」
**香奈**:「ちなみに日向好きな人いるって聞いた。」
千景の指先が、ぴたりと止まった。
(……そっか)
胸の奥が、
ゆっくり沈んでいくような感覚。
翔太も、
日向も。
幼い頃、
自分を守ってくれた二人。
もう、あの頃のことは覚えていない。
そして今は――
自分とは違う誰かを見ている。
千景は、そっと席を立った。
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学校から少し歩いたところに、
海へ続く細い小道がある。
千景はそこへ向かった。
潮の匂いが、胸の奥の痛みを少しだけ和らげてくれる気がした。
夕暮れの光が海面に反射して、
きらきらと揺れている。
千景は小道のへりに寄りかかり、
そっと目を閉じた。
(……どうして、覚えてないの)
翔太の笑顔。
日向の強さ。
二人の手の温かさ。
全部、千景の中では
昨日のことみたいに鮮明なのに。
(……どうして、私だけ)
風が吹いて、
千景の黒髪を揺らした。
その瞬間、
堪えていた涙が、
ぽろりと頬を伝った。
**千景**:「……たくさん話したかったのに」
声に出した途端、
胸の奥がぎゅっと締めつけられた。
翔太にも、
日向にも。
もう一度、
あの頃みたいに笑ってほしかった。
でも――
二人には、
“ほかに大事な友達がいて、自分のことは忘れてしまっている”
千景の涙は止まらなかった。
海の音だけが、
静かに寄り添っていた。




