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一年の宝物  作者: ゆみ。
29/37

私の時計、あの日から、止まったまま。

新学期が始まってから、もうすぐ一ヶ月。


千景はクラスに馴染んだ。

笑えるようになったし、

みんなとも自然に話せるようになった。


……でも。


翔太と日向だけは、

どうしても距離が縮まらなかった。


二人は人気者だ。

休み時間になれば、

翔太の周りには男子が集まり、

日向の周りには女子が集まる。


千景は、いつも少し離れた場所から

その輪を眺めていた。


(……話したいのに)


胸の奥が、きゅっと痛む。


---


ある日の昼休み。

千景が席でノートを閉じたとき、

近くの女子たちの会話が耳に入った。


**香奈**:「翔太と雫華どうなるんだろ」


**優里**:「もどかしいよね…あとは雫華次第なんだけど」


**香奈**:「ちなみに日向好きな人いるって聞いた。」


千景の指先が、ぴたりと止まった。


(……そっか)


胸の奥が、

ゆっくり沈んでいくような感覚。


翔太も、

日向も。


幼い頃、

自分を守ってくれた二人。


もう、あの頃のことは覚えていない。

そして今は――

自分とは違う誰かを見ている。


千景は、そっと席を立った。


---


学校から少し歩いたところに、

海へ続く細い小道がある。


千景はそこへ向かった。

潮の匂いが、胸の奥の痛みを少しだけ和らげてくれる気がした。


夕暮れの光が海面に反射して、

きらきらと揺れている。


千景は小道のへりに寄りかかり、

そっと目を閉じた。


(……どうして、覚えてないの)


翔太の笑顔。

日向の強さ。

二人の手の温かさ。


全部、千景の中では

昨日のことみたいに鮮明なのに。


(……どうして、私だけ)


風が吹いて、

千景の黒髪を揺らした。


その瞬間、

堪えていた涙が、

ぽろりと頬を伝った。


**千景**:「……たくさん話したかったのに」


声に出した途端、

胸の奥がぎゅっと締めつけられた。


翔太にも、

日向にも。


もう一度、

あの頃みたいに笑ってほしかった。


でも――

二人には、

“ほかに大事な友達がいて、自分のことは忘れてしまっている”


千景の涙は止まらなかった。


海の音だけが、

静かに寄り添っていた。


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