懐かしい記憶。
新学期が始まってから、もうすぐに週間。
季節はゆっくりと夏の名残を手放し、
朝の空気には少しだけ秋の匂いが混じり始めていた。
千景はというと――
転入当初の静かな雰囲気が嘘のように、
クラスにすっかり馴染んでいた。
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最初は控えめだった笑顔も、
今では自然にこぼれるようになった。
**香奈**:「千景ちゃん、その髪留めかわいい! どこで買ったの?」
**千景**:「え、これ? えっと……お母さんが選んでくれたの。似合うかな」
**香奈**:「似合う似合う! 透明感すごい!」
そんなやり取りが、毎日のように聞こえてくる。
体育の時間には、
ボールを追いかけて転びそうになりながらも笑っていて、
その姿がまたクラスの空気を柔らかくしていた。
千景は、
“美人で静かな転入生”から、
“ちょっと天然でかわいい人気者”へと変わっていった。
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そんな千景の変化を、 一番近くで見ていたのは日向だった。
日向は昔から強かった。
幼稚園の頃から、男の子に混じって走り回り、
泣いている子がいれば真っ先に助けに行く。
そして――
強いだけじゃない。
**日向は、小さい頃からおしゃれだった。**
髪を結ぶゴムの色にこだわったり、
お気に入りの靴を自慢したり、
小さなポシェットを肩にかけて歩いていた。
今もその名残はある。
今日の日向は、
ポニーテールに小さな星のヘアピンをつけていた。
**颯**:「日向ってさ、なんか昔からおしゃれだよな」
**日向**:「え、そう? まあ……好きなんだよね、こういうの」
照れながらも、どこか誇らしげに笑う。
千景はその姿を見て、
ふっと懐かしそうに目を細めた。
(……変わってないな、日向ちゃん)
幼い頃の記憶が胸に蘇る。
砂場で泣いていた自分の前に、
小さなポシェットを揺らしながら駆け寄ってきた日向。
**日向(幼)**:「泣かないで。大丈夫だよ、あたしがいるから」
その言葉は、今でも千景の心に残っていた。
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千景は誰とでも話すようになった。
笑うようになった。
明るくなった。
……なのに。
翔太の前に立つと、
ほんの一瞬だけ、表情が揺れる。
**翔太**:「黒瀬さん、これノート返す」
**千景**:「あ……ありがとう、翔太くん」
その声は、
他の誰に向けるよりも柔らかかった。
翔太は気づいていない。
けれど、日向は気づいていた。
(……千景、翔太の前だと雰囲気変わるな)
胸の奥が、少しだけざわつく。
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放課後、千景は校庭の隅にある桜の木を見上げた。
(翔太くんも、日向ちゃんも……覚えてないんだね)
幼稚園の頃、
三人はいつも一緒だった。
翔太は優しくて、
日向は強くて、
そして――
二人とも、千景を守ってくれた。
千景はそっと微笑んだ。
**千景**:「……また、仲良くなれたらいいな」
その声は、
少しだけ切なくて、
それでも温かかった。
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記憶は消えても、
心の奥に残った“感覚”が、
三人を再び引き寄せていく。
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