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一年の宝物  作者: ゆみ。
28/37

懐かしい記憶。

新学期が始まってから、もうすぐに週間。

季節はゆっくりと夏の名残を手放し、

朝の空気には少しだけ秋の匂いが混じり始めていた。


千景はというと――

転入当初の静かな雰囲気が嘘のように、

クラスにすっかり馴染んでいた。


---

最初は控えめだった笑顔も、

今では自然にこぼれるようになった。


**香奈**:「千景ちゃん、その髪留めかわいい! どこで買ったの?」


**千景**:「え、これ? えっと……お母さんが選んでくれたの。似合うかな」


**香奈**:「似合う似合う! 透明感すごい!」


そんなやり取りが、毎日のように聞こえてくる。


体育の時間には、

ボールを追いかけて転びそうになりながらも笑っていて、

その姿がまたクラスの空気を柔らかくしていた。


千景は、

“美人で静かな転入生”から、

“ちょっと天然でかわいい人気者”へと変わっていった。


---


そんな千景の変化を、 一番近くで見ていたのは日向だった。


日向は昔から強かった。

幼稚園の頃から、男の子に混じって走り回り、

泣いている子がいれば真っ先に助けに行く。


そして――

強いだけじゃない。


**日向は、小さい頃からおしゃれだった。**


髪を結ぶゴムの色にこだわったり、

お気に入りの靴を自慢したり、

小さなポシェットを肩にかけて歩いていた。


今もその名残はある。


今日の日向は、

ポニーテールに小さな星のヘアピンをつけていた。


**颯**:「日向ってさ、なんか昔からおしゃれだよな」


**日向**:「え、そう? まあ……好きなんだよね、こういうの」


照れながらも、どこか誇らしげに笑う。


千景はその姿を見て、

ふっと懐かしそうに目を細めた。


(……変わってないな、日向ちゃん)


幼い頃の記憶が胸に蘇る。


砂場で泣いていた自分の前に、

小さなポシェットを揺らしながら駆け寄ってきた日向。


**日向(幼)**:「泣かないで。大丈夫だよ、あたしがいるから」


その言葉は、今でも千景の心に残っていた。


---


千景は誰とでも話すようになった。

笑うようになった。

明るくなった。


……なのに。


翔太の前に立つと、

ほんの一瞬だけ、表情が揺れる。


**翔太**:「黒瀬さん、これノート返す」


**千景**:「あ……ありがとう、翔太くん」


その声は、

他の誰に向けるよりも柔らかかった。


翔太は気づいていない。

けれど、日向は気づいていた。


(……千景、翔太の前だと雰囲気変わるな)


胸の奥が、少しだけざわつく。


---


放課後、千景は校庭の隅にある桜の木を見上げた。


(翔太くんも、日向ちゃんも……覚えてないんだね)


幼稚園の頃、

三人はいつも一緒だった。


翔太は優しくて、

日向は強くて、

そして――

二人とも、千景を守ってくれた。


千景はそっと微笑んだ。


**千景**:「……また、仲良くなれたらいいな」


その声は、

少しだけ切なくて、

それでも温かかった。


---


記憶は消えても、

心の奥に残った“感覚”が、

三人を再び引き寄せていく。


---

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