君に届け
夏休み最終日の午後。
自習室が閉まったあと、雫華は女子たちに教室の隅へと連れていかれた。
**香奈**:「雫華、あんたちょっと座りなさい。今日は大事な話がある」
**雫華**:「え? なになに? なんかあったの?」
雫華は本当に“何も気づいていない”顔で首を傾げる。
そこへ、恋愛好きでおしゃれな日向が腕を組んで前に出た。
**日向**:「まず言わせて。
夏休み最終日の自習室で翔太が言った“特別だった”って言葉……あれ、ほぼ告白だからね」
**雫華**:「えっ!? どこが!? だって勉強の話してたよ?」
日向は額に手を当て、深いため息をついた。
**日向**:「雫華……“特別”って言葉はね、恋愛では超重要なの。 少女漫画なら3ページでキスしてるレベルよ」
**香奈**:「あんたの恋愛アンテナ、地中に埋まってるのよ」
**優里**(控えめに):「翔太くん、すごく緊張してた……声も震えてたよ?……」
雫華はぽかんとしたまま。
**雫華**:「え、そうだった? 全然気づかなかった……」
日向は雫華の肩を掴んだ。
**日向**:「だから言ってるの! 翔太くん、夏休みずっと雫華ちゃんのこと見てたよ。 今日中にちゃんと気づいてあげて」
雫華は胸に手を当て、小さく息を吸った。
**雫華**:「……わかった。
今日、ちゃんと翔太くんのこと見てみる」
女子たちはほっと息をついた。
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夕方。
校舎の廊下で翔太とすれ違う。
雫華は、女子たちの言葉を思い出しながら、
そっと翔太を見つめた。
(……翔太くん、こんな顔してたっけ)
翔太は雫華の視線に気づき、耳まで真っ赤になる。
**翔太**:「な、なんだよ……?」
**雫華**:「う、ううん……なんでもないよ」
雫華は慌てて目をそらした。
胸が少しだけざわついた。
(……なんか、変な感じ)
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夕焼けが校舎を染める頃。
翔太は、雫華を屋上に呼び出した。
**翔太**:「……雫華。ちょっと話がある」
雫華は緊張した顔で頷く。
**雫華**:「うん。聞くよ」
翔太は深呼吸し、拳を握りしめた。
(今日こそ……ちゃんと言う)
**翔太**:「夏休み……ずっと一緒にいて…… 俺、お前のこと……好きになった。 友達とかじゃなくて……ちゃんと、好きだ。 だから……俺と、付き合ってほしい」
雫華は目を丸くした。
風の音だけが響く。
雫華は胸に手を当て、小さく息を吸った。
そして――
**雫華**:「……ごめん。 翔太のこと、嫌いじゃないよ。 でも……“そういう好き”は、まだわからない」
翔太の心臓が、静かに沈んだ。
**雫華**:「翔太は大事だよ。 でも……今の私じゃ、ちゃんと返せない。 嘘ついて付き合うのは、もっと違うと思うから……ごめん」
翔太は、ゆっくりと笑った。
**翔太**:「……そっか。
言ってくれて、ありがとな」
雫華は悲しそうに眉を下げた。
**雫華**:「……これからも、友達でいてくれる?」
翔太は少しだけ迷ってから、頷いた。
**翔太**:「ああ。
……でも、ちょっとだけ時間くれ」
雫華は静かに頷いた。
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クラスメイトたちが、息を呑んで見守っていた。
**日向**:「……ふられた、か」
**香奈**:「雫華、悪気はないのよ。
あの子、恋愛のスタート地点にまだ立ってないだけ」
**優里**(涙目):「翔太くん……頑張ったのに……」
**理人**:「結果はどうあれ、告白したこと自体は評価すべきだ」
**颯**:「翔太……飲みに行くか……いや未成年だったわ……」
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翔太は帰り道、夕焼けの残り香の中で空を見上げた。
(……ふられたけど、言えてよかった)
胸は痛い。
でも、どこか少しだけ軽くなっていた。
一方、雫華は自分の部屋で、胸に手を当てていた。
(……翔太くん、そんなふうに思ってたんだ)
まだ答えは出ない。
でも、確かに心が揺れていた。
夏休み最後の夜。
二人の距離は、少し離れたまま、静かに次の季節へ向かっていった。
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