「今」伝えなきゃ。
夏休み最後の自習室が終わり、校舎には夕方の光が差し込んでいた。
翔太は、緊張で手汗をかきながら、雫華に声をかけた。
**翔太**:「……ちょっと、話したいことがある。屋上、来てくれないか」
雫華は一瞬だけ驚いた顔をしたが、すぐにいつもの笑顔に戻った。
**雫華**:「うん、いいよ。なんか大事な話?」
翔太は返事をせず、ただ頷いた。
---
夕焼けの光が差し込む屋上。
風が吹き抜け、二人の間に静かな空気が流れる。
雫華はフェンスにもたれながら、首を傾げた。
**雫華**:「で、話って?」
翔太は深呼吸し、心臓の音を抑えようとした。
(ここで言わなきゃ……絶対後悔する)
**翔太**:「……夏休みさ。いろいろ一緒に勉強したり、話したりして……
俺、気づいたんだよ」
雫華は真剣に聞いている。
だが、その表情には“恋愛的な予感”は一切ない。
**翔太**:「お前といる時間……俺にとって、すげぇ大事だった。
他の誰といる時より……ずっと」
雫華はぱちぱちと瞬きをした。
**雫華**:「へぇ……そうなんだ。
翔太くん、友達思いだね」
**翔太**:「……いや、友達っていうか……もっと、その……!」
雫華はにこっと笑う。
**雫華**:「“勉強仲間”としてってことでしょ?
翔太くん、教えるの上手いし、私も助かったよ」
翔太は頭を抱えた。
(なんでだよ……! なんで伝わらねぇんだよ……!)
---
実は、屋上の扉の影にはA組の面々がこっそり集まっていた。
**日向**(小声):「ちょっと待って……あれ、完全に告白じゃん。なんで伝わってないの……?」
**香奈**:「雫華の恋愛レーダー、壊れてるんじゃない?
あの子、恋愛の“れ”の字も理解してないわよ」
**颯**:「翔太……がんばれ……! もうちょいだって……!」
**優里**(祈るように):「翔太くん……負けないで……!」
**理人**(冷静に):「……翔太の表現が曖昧すぎる。
“特別”や“大事”などの抽象語では、雫華には伝わらない」
**日向**:「いや普通は伝わるでしょ!? あれは雫華が鈍すぎるの!」
**香奈**:「あの子、恋愛耐性ゼロだからね。
“好き”って言わないと絶対伝わらないタイプ」
---
翔太は、覚悟を決めてもう一歩踏み込んだ。
**翔太**:「……雫華。
俺は、お前のこと……その……」
雫華は期待ではなく、純粋な好奇心で首を傾げる。
**雫華**:「ん? なに?」
翔太は顔を真っ赤にしながら、言葉を絞り出した。
**翔太**:「……お前のこと、特別に思ってるんだよ。
他の女子とは違うっていうか……!」
雫華は一瞬考えたあと、明るく笑った。
**雫華**:「ああ、なるほど!
私、女子の中では“質問しやすいタイプ”ってよく言われるしね!」
**翔太**:「違ぇよ!!」
屋上に翔太の叫びが響いた。
扉の影で見ていたクラスメイトたちは、全員そろって頭を抱えた。
**全員(小声)**:「伝わってねぇ……!!」
---
雫華は本当に悪気なく、ただ純粋に笑っていた。
**雫華**:「でも、翔太くんがそう思ってくれてるなら嬉しいよ。
これからも、いっぱい勉強教えてね!」
翔太は膝から崩れ落ちそうになった。
(……俺の夏休みの勇気、どこ行ったんだよ……)
しかし、雫華の笑顔は眩しくて、責める気にはなれなかった。
夕焼けの中、二人の温度差だけが、静かに残っていた。
---




