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一年の宝物  作者: ゆみ。
25/37

「今」伝えなきゃ。

夏休み最後の自習室が終わり、校舎には夕方の光が差し込んでいた。


翔太は、緊張で手汗をかきながら、雫華に声をかけた。


**翔太**:「……ちょっと、話したいことがある。屋上、来てくれないか」


雫華は一瞬だけ驚いた顔をしたが、すぐにいつもの笑顔に戻った。


**雫華**:「うん、いいよ。なんか大事な話?」


翔太は返事をせず、ただ頷いた。


---


夕焼けの光が差し込む屋上。

風が吹き抜け、二人の間に静かな空気が流れる。


雫華はフェンスにもたれながら、首を傾げた。


**雫華**:「で、話って?」


翔太は深呼吸し、心臓の音を抑えようとした。


(ここで言わなきゃ……絶対後悔する)


**翔太**:「……夏休みさ。いろいろ一緒に勉強したり、話したりして……

俺、気づいたんだよ」


雫華は真剣に聞いている。

だが、その表情には“恋愛的な予感”は一切ない。


**翔太**:「お前といる時間……俺にとって、すげぇ大事だった。

他の誰といる時より……ずっと」


雫華はぱちぱちと瞬きをした。


**雫華**:「へぇ……そうなんだ。

翔太くん、友達思いだね」


**翔太**:「……いや、友達っていうか……もっと、その……!」


雫華はにこっと笑う。


**雫華**:「“勉強仲間”としてってことでしょ?

翔太くん、教えるの上手いし、私も助かったよ」


翔太は頭を抱えた。


(なんでだよ……! なんで伝わらねぇんだよ……!)


---



実は、屋上の扉の影にはA組の面々がこっそり集まっていた。


**日向**(小声):「ちょっと待って……あれ、完全に告白じゃん。なんで伝わってないの……?」


**香奈**:「雫華の恋愛レーダー、壊れてるんじゃない?

あの子、恋愛の“れ”の字も理解してないわよ」


**颯**:「翔太……がんばれ……! もうちょいだって……!」


**優里**(祈るように):「翔太くん……負けないで……!」


**理人**(冷静に):「……翔太の表現が曖昧すぎる。

“特別”や“大事”などの抽象語では、雫華には伝わらない」


**日向**:「いや普通は伝わるでしょ!? あれは雫華が鈍すぎるの!」


**香奈**:「あの子、恋愛耐性ゼロだからね。

“好き”って言わないと絶対伝わらないタイプ」


---



翔太は、覚悟を決めてもう一歩踏み込んだ。


**翔太**:「……雫華。

俺は、お前のこと……その……」


雫華は期待ではなく、純粋な好奇心で首を傾げる。


**雫華**:「ん? なに?」


翔太は顔を真っ赤にしながら、言葉を絞り出した。


**翔太**:「……お前のこと、特別に思ってるんだよ。

他の女子とは違うっていうか……!」


雫華は一瞬考えたあと、明るく笑った。


**雫華**:「ああ、なるほど!

私、女子の中では“質問しやすいタイプ”ってよく言われるしね!」


**翔太**:「違ぇよ!!」


屋上に翔太の叫びが響いた。


扉の影で見ていたクラスメイトたちは、全員そろって頭を抱えた。


**全員(小声)**:「伝わってねぇ……!!」


---


雫華は本当に悪気なく、ただ純粋に笑っていた。


**雫華**:「でも、翔太くんがそう思ってくれてるなら嬉しいよ。

これからも、いっぱい勉強教えてね!」


翔太は膝から崩れ落ちそうになった。


(……俺の夏休みの勇気、どこ行ったんだよ……)


しかし、雫華の笑顔は眩しくて、責める気にはなれなかった。


夕焼けの中、二人の温度差だけが、静かに残っていた。


---


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