反省文と、温度差と
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週が明けた月曜日。
翔太は、教室のドアを開ける前から胃が痛かった。
(……絶対、まだ言われる。あいつら絶対忘れてねぇ)
深呼吸して教室に入ると、案の定、颯がニヤニヤしながら寄ってきた。
**颯**:「おっす翔太。週末どうだった? “反省文”ちゃんと書いたか?」
**翔太**:「……書くわけねぇだろ。あれは理人の悪ノリだっての」
**理人**(メガネを光らせながら):「提出期限は今日の放課後だ。逃げられると思うなよ」
**翔太**:「お前、教師かよ……!」
周囲が笑いに包まれる中、翔太はそっと教室の後ろを見た。
雫華が、いつも通りの明るい笑顔で友達と話していた。
――そう、“いつも通り”だった。
(……なんでだよ。なんで普通でいられるんだよ)
翔太が勝手に意識しているだけで、雫華はまるで何もなかったかのように自然体だった。
**雫華**:「あ、翔太。おはよー!」
手を振ってくる雫華。
その笑顔は、事件前と何一つ変わらない。
翔太は一瞬固まった。
**翔太**:「……お、おう。おはよ」
(なんで普通に話せるんだよ……! 俺だけバカみたいじゃん……!)
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休み時間。
翔太が机に突っ伏していると、雫華がプリントを持って近づいてきた。
**雫華**:「ねえ翔太、これ今日の課題だって。先生が配ってたよ」
**翔太**:「あ、ああ……サンキュ」
雫華はひょいっと翔太の机に身を乗り出す。
**雫華**:「ねえねえ、今日の放課後さ、図書室で一緒にやらない? 数学わかんないとこあるんだよね〜」
翔太は一瞬で固まった。
(近い……! いや、近いって……!)
しかし雫華はまるで気にしていない。
**雫華**:「あ、そうだ。昨日さ、家で問題解いてたらさ――」
翔太の心臓はバクバクなのに、雫華は完全に“平常運転”だった。
そこへ香奈が通りかかり、呆れたように言う。
**香奈**:「雫華、あんたさ……もうちょっと距離感ってものをだね……」
**雫華**:「え? なんで?」
**香奈**:「……いや、なんでもないわ。うん、天然は強い」
翔太は机に突っ伏したまま、心の中で叫んだ。
(なんでだよ……! なんでお前は平気なんだよ……!)
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放課後。
翔太は渋々、理人に呼び出されて廊下に立たされていた。
**理人**:「反省文は?」
**翔太**:「……書いてねぇよ」
**理人**:「なら今から書け。図書室で監視する」
**翔太**:「監視ってなんだよ!」
そこへ、雫華が走ってきた。
**雫華**:「翔太! 図書室行こ! 数学の質問あるって言ったじゃん!」
翔太は一瞬で顔が熱くなる。
**翔太**:「お、お前……そんな大声で……!」
**雫華**:「え? だって一緒にやるんでしょ?」
雫華は本当に“何とも思っていない”顔で、にこっと笑った。
理人は腕を組んでため息をつく。
**理人**:「……雫華。お前は本当に無自覚なのか、それとも確信犯なのか判断に迷うな」
**雫華**:「え? なにそれ?」
翔太は頭を抱えた。
(……俺だけが意識してるのかよ……!)
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図書室の静かな空気の中、翔太は反省文を書きながら、ちらちらと雫華を見る。
雫華は真剣に数学の問題を解いている。
昨日のことなんて、本当に気にしていないように。
(……なんだよ。俺だけがバカみたいに意識して……)
雫華がふと顔を上げる。
**雫華**:「翔太、これ教えて?」
その笑顔は、事件前と同じ。
距離も、声も、仕草も、全部。
翔太は胸の奥がきゅっと締めつけられた。
(……なんでだよ。なんでそんな普通でいられるんだよ)
でも、言えない。
言ったら、今の関係が壊れそうで。
翔太はペンを握り直し、反省文に書き始めた。
『自分の感情の整理ができていないことが最大の問題である』
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