自習室での事件と、無自覚な君と。
進学校の夏休み。自習室の空気は、エアコンの音とペンが走る音で重苦しく沈んでいた。
そんな静寂を破ったのは、雫華の伸びやかな声だった。
「ん〜! もう限界! 翔太、ちょっとお外の空気吸いに行こ?」
強引に翔太の腕を引いて中庭へ連れ出す雫華。残されたメンバーは呆れ顔だ。
**理人**:「……やれやれ。あいつの集中力は、翔太が絡むと極端に落ちるな」
**香奈**:「っていうか、確信犯でしょ。……あ、でも雫華のことだから本気で何も考えてない可能性も高いわね」
中庭の木陰。雫華は「あ〜、涼しい」と言いながら、翔太の目の前でいきなりブラウスのボタンを二つ外した。
**翔太**:「ぶっ!? お、お前、何してんだよ!」
**雫華**:「え? 風通し良くしてるだけだよ? 翔太、私の首筋に保冷剤の冷たいところが当たるように、ちょっと押さえててくれない?」
そう言って背中を向ける雫華。うなじから背中にかけて、真っ白な肌が眩しい。翔太が震える手で保冷剤を当てると、彼女は「あはっ、冷たい……。翔太の手、なんか熱いね?」と、無邪気に翔太の手を自分の肌に押し当てた。
**翔太:「(こいつ、マジで天然か……!? 脳内どうなってんだよ!)」
その時。校舎の二階、自習室の窓から日向の悲鳴に近い叫びが響いた。
「誰か! 先生! 理人くん、優里ちゃんが……っ!!」
一瞬で空気が凍りつく。雫華はボタンも直さず、翔太の手を引いて走り出した。
「翔太、急いで!」
自習室に戻ると、そこは地獄絵図だった。
優里が机に突っ伏し、荒く息をしている。その周りを、パニックになったはるかと、冷静に状況を判断しようとする理人が囲んでいた。
**はるか**:「優里ちゃん! 嘘でしょ、さっきまで数学の難問解いて笑ってたのに!」
**理人**:「……熱中症、それと過労だ。この一週間、彼女は睡眠時間を削ってまで暗記ノートを仕上げていたからな」
優里の机には、空になった栄養ドリンクの瓶が3本と、文字で埋め尽くされたノートが積み上がっていた。
ここからのA組は速かった。
**理人**:「**颯**、**健斗**! 職員室から氷嚢を、事務室から経口補水液をダッシュで取ってこい!」
**颯**:「了解! 健斗、どっちが早いか勝負だ!」
**健斗**:「不謹慎だぞ! ……でも、行くぜ!」
**香奈**:「はるか、日向! 優里のネクタイとベルトを緩めて。風通しを良くするわよ!」
**日向**:「う、うん! わかった!」
**はるか**:「優里ちゃん、頑張って……!」
雫華は、先ほどまでの「天然モード」を完全にオフにし、キリッとした表情で優里のそばに膝をついた。
「翔太、あなたは保健室の先生を呼んできて。私はここで優里ちゃんを冷やすわ」
雫華は手際よく、自分のハンカチを水で濡らし、優里の額や首筋を拭う。
翔太が先生を連れて戻ってきた頃には、優里は雫華の膝の上で、うっすらと目を開けていた。
**優里**:「……私、また……みんなに、迷惑を……」
**雫華**:「いいのよ。迷惑をかけ合うのが、A組のやり方でしょ? ほら、もう大丈夫」
雫華が優里の頬を優しく撫でる姿は、まるで聖母のようで、翔太はまた別の意味でドキリとしてしまう。
夕暮れ時。優里は保健室で一晩休むことになり、他のメンバーは校門で解散することになった。
**理人**:「……お前ら、今日はもう帰って寝ろ。特に雫華、お前もだ」
**香奈**:「そうよ。雫華の看病が一番の特効薬だったみたいだけど、あんたも顔真っ赤よ?」
**雫華**:「えっ、そう? 私は元気だよ。ねえ、翔太?」
みんなと別れ、二人きりの帰り道。
雫華はまた、翔太の袖をぐいっと引っ張って、顔を至近距離まで近づけてきた。
**雫華**:「ねえ、翔太。さっきの中庭の続き、明日もやってくれる? 保冷剤、今度はもっと冷たいやつ持ってくるから……」
**翔太**:「……お前な。少しは恥じらいとか、そういうのを学べ!」
**雫華**:「え〜? 翔太が相手なら、恥ずかしくないよ?」
小首を傾げる雫華の天然な殺し文句に、翔太は夕焼けよりも赤い顔をして「バカ!」と叫び、走り出すしかなかった。
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