47 終わり
「銅像はどこにある。どういうものなのか知っているな?」
ガドが言うと、おじいさんは首をかしげた。
「なんの話だか」
「知らないというのならそれでもかまわない。これから我々は、お前を捕まえて、しかるべき場所に引き渡す」
「ガド?」
「おいおい、あんた、なんの権利があってそんなこと言ってんだ?」
「我々には、一定の、王都からの信頼があると考えてもらっていいだろう。捕まえることが可能だ」
「そんなこと言われても困るな! おかしなやつが、自分には捕まえる権利がある! なんて言いながら誰かを捕まえる? そんなことが許されるのかねえ!」
「あなたは、これまで、そういうことをしてきた側では?」
ガドは言った。
おじいさんは、ガドをにらみつけた。
「とにかく、勝手に人の家に入ってきて家を壊して、捕まえようなんて言われても認められん。銅像? 知らねえな」
おじいさんが言うと、ガドは、ふところからなにかを取り出した。
「わたしは王都と交流がある。あなたを拘束し、王都に連れていくことは、当然の権利とはいえないが、それ自体は、とがめられるようなものではない。もちろん、まちがいなら、わたしが罰される可能性はあるが、低いだろう」
「やめときな」
「この小屋に、不自然に魔物が集まっていた。……あなたなら、これの真贋がわかるのではないか?」
ガドはおじいさんに、なにかコインのようなものを投げる。
受け取ったおじいさんはそれを見て、投げ返した。
「関係者というのは本当らしいが。だが、わからんな」
おじいさんは言った。
「あんたはおれを悪人だと思ってるようだが、本当にそう思ってんなら、なにも言わずにおれを取り押さえたほうがいいんじゃねえのか? おれに準備をさせないうちに。こんなむだ話をするのが悪手ってこともわからないのか?」
「ドアが閉じられていた」
ガドは言った。
「あ?」
「ドアが、釘と板で厳重に閉じられていた。これはおかしい。単純に、村に魔物を呼ぼうというのなら、各家に銅像を置くのはわかる。だが、ここは、中からではなく外からも釘を打たれていた。誰か仲間に頼んだ、ということか。なぜここに閉じこもる。ここに魔物が来ることはわかっているのに。それでは、逃げられないではないか。見たところ、特別な小屋ということもないようだが。大きな魔物が来れば、壊されるのではないか?」
ガドが言うと、おじいさんは、しばらくガドを見ていた。
「バカじゃあないみたいだな」
おじいさんは、ゆっくり床に座った。
「そうだ。おれはここで、村に魔物を集める」
「魔物を?」
私が言うと、おじいさんはゆっくりうなずいた。
「そんなことしたら、村が大変じゃない」
「そうだ。村を壊す」
「なにいってるの? そんなことしたら、いけないじゃない」
私が言うと、おじいさんは笑った。
「お嬢さんの頭は平和だな」
「そうよ」
私が言うと、またおじいさんは笑う。
「この村はいい村だ。いままでおれは、いろいろな村や町に行ったが。平和で、おだやかで」
「そうね」
「おれはそういう村や町から、たくさんのものを奪った」
「あなたは盗賊なのね?」
おじいさんは私を無視して続ける。
「そんな中でも、ここはのどかで。人がいい。それに、大したものがない。盗むほどのものがない。盗んだところで、盗まれたというより、なくなった、と考えるんだ。こんな村で生きられたらいいと思ってきた。ここで人生を終えたい。そう思っている」
「じゃあ、私と一緒にお手伝いをする? そうしたらいいんじゃない?」
おじいさんはまた笑う。
「お前も、この村に合ってそうだな」
「そうね」
「でもなあ。いい村が、いつまでもいい村ってわけじゃない。人間には、ろくでもないやつがいる。おれみたいにな。そういう人間がいるかぎり、どうにでも変わっていくんだよ。そりゃあ、どうしようもないのさ。この村だって、いつまでしあわせかは、わからん」
「そうならないように、気をつけたらいいじゃない」
「まあ、そういう考え方もあるな」
「他にもあるの?」
「そうさ。いま、この、一番いいときを、ずっと、そのまま残す」
「どうやって?」
「おれのものにする」
「村を? 村を壊して、村長さんになるってこと?」
「いいや。村と一緒に死ぬんだ」
おじいさんは言った。
なにを言っているのかわからない。
メイを見る。
やっぱり、どこか、変な顔をしておじいさんを見ていた。
「死んでしまったらおしまいよ」
「そうだ。終わるんだ。この村が、変わらないうちに。おれは、一番いい村の中で、人生を終えるんだ。そうすれば、この村と一緒に死ぬ。最高のときに死ぬんだ。やりたいことはもうやった。残りのことはやつらに任せた。仲間も、喜んでくれたぜ。最高の計画だってな。この村だけじゃない。近くの町、そして、なんといっても」
おじいさんは、くっくっくっ、と笑った。
「王都すら巻き込む大計画だ。もう、仕込みは終わってんだよ。いやそうじゃねえな。仕込みだけじゃない、実行に入ってる。いまさらお前らがなにかしたってどうってことはない。そろそろ逃げろ。もう、時間がないぞ。これから、お前らが想像もしないことが起きる」
「想像もしないこと?」
「そうだ。まずは、各地の町が魔物によって、本格的に襲われ始める。銅像のことは知ってるようだな。その銅像が置かれた町や村に、それぞれが体感したことのない規模で魔物がやってくる。だが、王都からの助けは来ない。どうしてだと思う?」
おじいさんは、うれしそうに私たちを見た。
「その対処に向かおうとした王都が、信じられない数の魔物に襲われるからだ。それが同時に起きるからだ。もう、起きているかもしれない。そうやって、どうしようもなくなったころ、最後に、この村が襲われる。この、特別な村に、決して誰もじゃまに入らない、そのときにだ。最初はネズミがやってくる。村で、ちょっとしたさわぎになってるだろう? それから、もっと大きな魔物が近づいてくるんだ。だが、助けは来ない。それぞれの町はそれぞれでいっぱいだからな。ふふふ。もう、囲まれてるかもしれないな」
おじいさんは得意げに言った。
「どうしようもないんだよ。どうやら、お嬢ちゃんたちは、特別なことができるみたいだな。人を助けるための力を持った、特別な人間だ。そういうやつはいったい、どこを助けるんだ? ああ? この村を助けるか? 王都はどうする? 他の町は? あっちこっちで家が壊れて、動物が死に、人が死ぬぞ。どうする。せっかく、ひっそり、全部終わるところだったのに、わざわざお前らは苦しむことになるんだ。これからあっちこっちに行って、どこでももれなく苦しんで来いよ。まあ、この村も救えないだろうがな! いっそ、安全に逃げるか? おい」
「あ、私の家を忘れていたわ」
私は、家のまわりに壁ができるところを想像した。
「これでいいかしらね。たぶん、あそこには行かないと王都の人が言っていた気がするけれど」
「立地として、魔物は優先しないでしょう」
ガドは言った。
「中に銅像があれば別ですが、屋敷に残っている人間が対処しているでしょう」
「ならいいわ。あと、この村のまわりもなんとなく囲んでおくわ。きっと、いまなら誰もうろうろしている人はいないでしょうし」
「おい、なんの話をしてるんだ」
おじいさんがいらいらしたように言った。
「もう、その話は終わったわ」
「なに?」
「王都も、他の町も、ここも、もうだいじょうぶよ。全部、銅像を集めて、魔物は来ないようにしてあるもの」
「なにを言ってるんだ」
「ええと、村の分はここにあるわ。他の町の分は、王都の近くにあるわよ」
「強がりもいいとこだ」
私は、村長さんの家の近くに置いておいた、剣の箱をこっちに飛ばした。
箱がやってきて、家の前に置かれる。
「な……」
中にある銅像を確認したおじいさんは、息を止めてそれを見ていた。




