48 お昼寝したらいいわ
「本当に、もう、終わって……?」
おじいさんは、ちょっとぼうっとした感じだった。
「おじいさんがやったことだったのね。こういうのはよくないわ。魔物もかわいそうよ。行きたくないところに行って、剣にされてしまうんだから」
「剣?」
「じゃあ、これからおじいさんを王都に連れていけばいいのよね?」
私が言うと、ガドはうなずいた。
「はい。あとは、あちらでどうにでもしてくれるでしょう」
「そうね。盗賊の人も引き取ってくれたしね」
「なんだと……」
「他の人を巻き込むなんていけないわ」
「信じられん。お前ら、なにを言ってるんだ」
「しょうがないわね」
私は、小屋のまわりを掘り起こした。あの、王都の像にやったようにだ。
「おお、なんだ!」
「浮いているのよ」
私は、壁を切り取って、全部はずした。
代わりに手すりをつける。
「ごめんなさいね。あとで直しておくわ」
浮き上がって、くるりと回転させ、進める。
「村長さんの家の近くを見て。牛小屋の方に、ほら、屋上でくつろいでいる人もいるでしょう? あれは、剣でできていて、魔物が入ることはできないの。だからみんな安全よ。他の町も王都も、だいたいそんな感じで平気なの」
「……」
おじいさんは、手すりをしっかりつかんで、外を見ていた。
「ネズミなら、こうよ」
私は下にいた、何匹かのネズミを剣にしてみせた。
「ああ……!?」
「こうやって、王都も、町も、魔物はもう全部いなくなったわ。あ、また来てるかもしれないから、その場合は、町の人たちががんばっているかもしれないけれど」
「……」
「これでわかってもらえたかしら。じゃあ、これから王都に」
すると、おじいさんが動いた。
キラ、キラ、となにかが光った。
私の近くを風が動く。
私の近くにナイフが落ちた。
ガドがいつの間にか剣を持っていて、私を守るように立っている。
おじいさんが、私をにらんでいた。
「よく動く」
「わかりやすい」
ガドは言った。
見れば、メイの前にもナイフが落ちている。二つも?
「あなた、まさか私とメイを殺そうとしたの? ひどいことするのね!」
「うるせえガキ! 他人がどう死のうかっていうのに、口出しするからだ!」
「ふざけないでください!」
メイが大きな声で言った。
「死にたければひとりで死んでください! わたしたちを巻き込まないで!」
耳が、びりびりしびれそうなくらいの、大きなはっきりとした声だった。
「メイ」
「やめてください……」
「この人は、王都に連れていくからだいじょうぶよ」
「……はい」
「ちっ」
おじいさんは、まだ刃物を持っていた。
「そんなもの、無駄だ」
ガドが言う。
「せっかく、初めて、おだやかな気持ちになれると思ったんだがなあ」
おじいさんは、ぼんやりと言った。
「こんなにいい村で。だが、まあ、第二案ってところか」
おじいさんはそう言うと、くるりとナイフを手の中で回転させて、自分ののどを突いた。
二度、三度と突いていた。
そして咳き込む。
「ゴホ、ゴホゴホゴホ!」
「そんなに突いたら苦しいわよ」
「なにが、どう、なって」
そこまで言って、またセキをしていた。
「危ないから、それを剣でくるんでおいたのよ」
おじいさんは自分のナイフを見て、それから、そこにかぶさっている薄い膜のようなものを見た。
それは、横の手すりに使っている剣につながっていた。
剣の形を変えられるのだから、膜のようにしてかぶせることも、できると思ったのだ。
「彼の考えを読んだのですか?」
ガドがおどろいたように言う。
「いいえ。また刃物を出して、危ないからくるんでみただけよ。できると思ったの」
「なるほど……」
「く、くそ」
おじいさんが歩き始めたので、私は剣で縛って、手すりにくっつけた。
「おい、なにをする!」
「なにって、飛び降りようとしたでしょう?」
「おれが死のうがなにをしようが、勝手だろうが!」
「じゃあ、私が助けてもいいじゃない」
「おれの命だ! どうしようが勝手だろう!」
「知らないの? 人って、いずれ死んでしまうのよ。あせらなくても」
「だから、おれが、いまだと思って死ぬんだ! そんなの勝手だと言ってるんだ!」
「いまが?」
私はおじいさんを見た。
空を飛んでいるのがいいのだろうか。
でも、さっきは飛んでなかった。魔物にやられようとしていた。
やけになっているだけなのだろうか。
それとも、意味があるのだろうか。
そうだ。村がいいと言っていた。この村だ。
「おじいさんは、誰かの前がいいの? 誰かと一緒とか?」
「ああ!?」
「この村を気に入ったんでしょう? みんなで一緒に魔物にやられたかったとか、私たちの前で死のうとしたりとか」
「なに言ってる!」
「もしかして、さびしいのね?」
「なんだと!?」
おじいさんは言った。
それから、もうれつに怒ったような顔になった。
そして、はっとしたような顔。
がっかりしたような顔。
悲しそうな顔。
無表情。
眉間に深いシワをよせた、すこしだけの笑顔。
ほんのすこしの時間で、いろいろな表情が見えた。
「さびしい……」
おじいさんは、ぽつりと言った。
「さびしいときは、お昼寝をするといいわ」
私が言うと、おじいさんはぼんやり私を見た。
「あったかい部屋の、ふわふわのふとんの中でお昼寝をすると、世界がふわふわの中で寝ているような気がするわ。さびしい気持ちもなくなるのよ」
「……ふん」
おじいさんは小さく首を振った。
「これから彼は、冷たい部屋に行きます。お嬢様のような昼寝は難しいでしょう」
ガドが言った。
「でも、寒い日に、窓を開けてお昼寝するのもいいのよ。氷の世界で、私ひとりだけになって、だんだん体が凍りついていくのを想像したこともあったわ」
「ナナ様!?」
「起きたとき、手も、足もすっかり冷えてしまっているんだけれど。うまく夢を見られるとね、すごいところへ行った気になるの。見たこともない場所なのに、見ることができるのよ。寒いかどうかなんて、お昼寝の前では、小さなことよ」
私が言うと、おじいさんは返事をしなかった。
笑ったようにも見えるけれど、どういう笑いかもわからない。そういう顔だった。
「ちゃんと反省して出てきたら、今度こそ平和に暮らしてね。あ、この村はだめよ。みんながこわがるから。自分で村をつくるといいわ」
そのまま王都におじいさんを連れていったけれど、おじいさんは全然動かなくなって、なにも言わず、ただ、外をぼんやり見ていた。




