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私と先輩の、恋なんてあまっちょろい、どうしよもなくアホで曲げられない執着の話  作者: コイル@オタク同僚発売中
監督

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7/7

俺と彼女と先輩さんと

「ん……」

 

 初めて彼女とキスした時、唇を離した時に思った。

 俺がキスしたのは、本当に『彼女』なのか?

 顔を離して確認する。

 ……『彼女』だ。でも『彼女』は目を細めて言う。


「……どうしたんですか?」


 その言い方、表情。

 背筋を違和感がゾクリと駆け上がる。

 いや、なんでもないよ。俺は答えて彼女と手を繋いだ。

 あの柔らかさ、甘い香り。それは間違いなく彼女だった。可愛い、もっとしたい、それなのに……俺は未だ彼女を抱けずにいる。

 後輩から彼女になって半年。

 俺は今何をしているかというと、制作に見張られて仕事をしている。



 

「はあ……家に帰りたい……」

「コンテが終ったらですね~~」



 俺の後ろで見張っている制作がケラケラと笑う。

 書きかけのコンテを改めてみて思う。

 違う……違うんだ。

 そしてコンテ用紙をゴミ箱に投げ捨てた。

 全然こうじゃない、こう書きたいわけじゃない。

 でもこう書くしかないのか?

 分からない。

 ただ脚本の面白さを全く表現出来てない事だけは分かるのだ。


 彼女の『先輩さん』が書いてきた脚本は凄まじかった。

 読み終わった時の読後感が凄い。根底に転がる闇が深くて、俺はこれを絶対アニメにしようとコンテ作業に入っていた。

 プロデューサーが「余裕で金持ってくるっス」と言ってくれて、放送先もあっさり決まった。

 そりゃ賞を取った人の初のアニメ作品で、俺も一応監督経験がある。

 書ければ売れるのだが……書けない。

 書いても書いても『こうじゃないことだけが分かる』のだ。違う、違うのは分かるのだが、正解が分からない、道が見えない。


 全然表現しきれてない。でも理由も方法も分からない。


 ここまで自分を無力だと感じた脚本は初めてだった。

 何人も知り合いの監督に読ませたが「ええ……この脚本、難しくない?」と言われた。

 なんなら彼女も先輩さんも「難しいと思います」と言った。

 なんなんだ……どうしたらいいのか、分からない。

 机に倒れこんで頭を抱えいると、トントンと背中を叩かれた。

 振り向くと彼女と先輩さんがほほ笑んでた。

 


「監督、私、先輩の部屋が酷いので買い物行ってきますね」

「……了解」



 彼女は、最近仕事量を減らして先輩さんと楽しそうに遊びまわっている。

 俺と彼女は同居している。最初彼女が仕事で体調を崩してその面倒を見る形で俺が住み着いたのだが、正式に彼氏彼女になるにあたり、広い部屋に引っ越した。

 先日からお互いの資料も持ち込んで、三部屋のうち、一部屋は本だらけ、仕事で使うから……とパソコンこそ出してあるが、段ボールに囲まれた部屋に光るモニター……異様だ。

 先輩さんと遊びまわる時間があったら、段ボールを一つでも片づけたらどうだろう? 椅子と机を買うとか?

 食べ物に執着がなく「冷蔵庫の上から二段目に入っている食べ物は全部腐ってますから食べないでくださいね?」って言ってたけど、だったら全部捨てないか?

 ゆで卵ばかり20個くらい転がっているのだが、あれは何だ?

 古いノートパソコンが5個くらい出てきたけど、あれはどうするんだ? 博物館でもするのか?

 俺たちの部屋も片付いてないのに、先輩の部屋の面倒を見るのか……?


 疑問が頭に浮かぶが、彼女が楽しそうだから良い。

 そんなことより今は仕事だ。

 絵コンテを何とかしないと。

 俺は脚本を前に考え込む。


 彼女が映画祭で言っていたことを思い出す。


「先輩の文章に手を出さないほうがいいです。先輩の文章は表面上普通だけど、裏にとんでもない悪意が潜んでいて、そこが面白いんです。でもそれは映像にするのは地味で映像には全く向きません」


 今それを思い出している。

 さすが俺が育てた最強の演出。

 脚本を見る目は確かだ。

 俺がアニメに適した脚本の作り方をしっかり教えたからな!!






 彼女が入社してきたのは8年くらい前だ。

 最初は典型的な動画志望という感じで、全く話さず、ひたすら絵を書いている子で印象が薄い。

 ただ「面倒なカットを書きたがる子ですね」と動画検査から聞いていた。

 それは今の動画の新人には珍しい事だった。動画というのは一枚いくらという出来高で生活している。

 つまり大変なカットよりキャラの顔がどーん……みたいなカットを好むものだ。

 だけど彼女は最初から違った。エフェクト寄りの面倒なカットを欲しがり、しかも楽しそうに書いていた。

 なによりレイアウトが上手い。

 レイアウトが上手い子は今どき珍しいのだ。


 この子、いいんじゃない?


 監督演出制作陣営の中で「ちゃんと育てようか」という認識になった。

 基本的に動画の新人は一年持たない。

 実家が太いか、頭がオカシイか。その二点しか生き残らないのだ。

 本当にアニメなんかに心血注ぐヤツは変人しかいない。ちなみに俺はSFばかり読んで、最強軍隊を考えて生きてきた生粋の陰キャだ。頭がオカシイジャンルに入れてもらって問題ない。

 陰キャである特性を生かして延々と絵を書き続けたので、その才能が生かされた結果、なんとかアニメ業界で生きているけど。

 ちなみに現代社会で絵が書けるというのはとても貴重なことで、わざわざアニメなんて金にならないことをする必要がない。

 何人もゲームや同人業界に消えていった。当たり前だ、お金もいいし幸せだ。

 アニメはとにかく金にならない。アニメを仕事にする人は「アニメが好きで、アニメじゃないと作れないものを作りたい人のみ」だ。

 3Dじゃない、鉛筆を走らせたい変人の集まりだ。

 何度も言うが俺もその一員だ。俺は俺が考えるロボットアニメをヒットさせて、自分の考えたロボットのプラモが販売されるまで諦めない。


 動画から原画にするときに、うちの会社は師匠をつける。

 その師匠に俺は立候補した。

 ……実の所争奪戦だったのだが、じゃんけん大会に勝利した。

 俺は彼女を育ててみたかったし、彼女の成長を近くで見たいと思ったのだ。


 動画から先に進める時に、絵にセンスがある場合は作画監督ルート。

 それがない場合は総合的に画面を作る演出ルートになる。

 彼女はあまり原画の才能は無かった。

 あれは動きを目で見て書き起こすセンスなのでまた違う世界だ。


 作画監督たちはリアルな爆発を見て「頭1秒10コマから2秒5コマまで枚数少ない。もうちょっと積んで」とかいう変人の集団だ。

 いやいや、目の前で爆発してるものだから、枚数関係ない。

 そして飛んでいる鳥をみて「お前、もっと枚数少なくても飛べるだろ?」とか言う。

 いやいや、目の前で飛んでいるリアルな鳥だから。

 そして会話の半分を擬音がしめる。


「ドーンとして、ガーンとなったらバキーーーンで、ゴキッ。そんな感じでどうかな」

「いや、わかんないスね」


 変人しかない。

 ちなみに俺も演出側の人間だ。絵は書けるし、テレビシリーズなら作監経験もある。

 でも劇場クラスの天才たちには勝てないし、天才たちは仕事を頼める距離にいた。


 彼女が持っていたのはコンテを書く能力……つまり演出家としての能力だった。

 ここに引き上げるためには、原画は最低限書ければいい。

 その最低限の能力を彼女は3年程度で身に着けていた。

 やがてテレビアニメのコンテを一本任せてみたら、それは見事に書き上げてきた。

 曰く「昔からよくやってました」。コンテを書いていたのか? と聞いたら「尊敬する先輩の文章を絵にしてました」と。

 その時はよく分からなかったが、あの先輩さんの本を絵にしていたのだから、それは素晴らしい練習だ。

 

 何でも楽しそうに学ぼうとする姿勢と、華やかさはないが、奥ゆかしい可愛さにどんどん惹かれて、俺は師匠になって1年くらいで告白してしまった。

 彼女は戸惑いながらも、嫌がっているようには見えなかった。

 もう一押し? なんて思った頃に先輩さんが小説デビューしたのだ。

 あの小説を読んでから、いい意味でも悪い意味でも彼女にギアが入った。

 こうなったら恋愛どころじゃないな、俺はサポートに入った。

 伸びる子はこういう時期がある。

 壊れるほど仕事をして何かを掴む時期。

 そこで売れるか、消えるか、俺は楽しく見守った。

 結果、俺より売れてしまったわけだが……。




 だから俺はこの脚本で彼女より売れたい。

 売れたい……。売れたいなあ……。





「大丈夫ですか? 顔が土色ですよ? はいドーナツ12個」

 いつの間にか彼女が買い物から帰ってきていた。渡されたのはドーナツ箱入り。

「……多くないか?」

「一箱かったら、一箱サービスとか言われちゃって、配りますね」


 彼女はドーナツの箱を持ってスタジオを歩いて配った。

 そして疲れたから、一緒に夕飯行かないかと聞いたら「ドーナツでお腹いっぱいです」と言われた。

 もう一箱は先輩さんと食べきったらしい。なんという崩壊した食生活。

 しかし崩壊した食生活で仕事が出来ることがアニメで生きていくために一番必要な気がする。

 今日初めて口にする食べ物がドーナツ……俺はわりと普通の食事を好むので、なかなか辛い。

 彼女はカバンからゴソゴソとスープの温めれば飲めるものを取り出した。


「監督にはこれも買ってきましたよ」

「お、ありがとう」


 可愛い。好きだ。

 彼女は俺がゴミ箱に捨てたコンテを読んで苦笑した。


「難しいから、止めた方がいいって言ったじゃないですか。先輩の沼は深いですよ」

「いや、俺はこの沼を味わっている!! 沼の水は美味しいなあ!!!!」

「もうやけくそになって……。じゃあ先輩沼13年の私が最大限のアドバイスをしますね。まずこれ、何の話か分かってます?」

「家族の話だろう」

「0点です。これは先輩が私と監督がセックスするのを待っている話です」

「ごぽーーーーーーー」

 

 俺と周辺でドーナツ食べながら聞いていたやつらが全員むせた。

 おいおい、何を言ってるんだ、その前に俺たちまだセックスしてないし。したいけど!! いやいやそうじゃなくて。


「こんな基本的なメタファーにも気が付かずに先輩の沼に入るなんて無謀ですよ。えっとですね、このお母さん……毎日朝ごはんを女の子に作ってますよね。それは同じメニューです、卵焼き。優しく卵を割ってボウルに入れている。でも読んでください。女の子が初めて売春をした日の朝ごはんは、目玉焼きなんです。フライパンに直接卵を落としている」

「それに何の関係が……」

「卵を片手で簡単に割ってフライパンに落とす……と書いてあるのが分かりますか。自分の卵……つまり自分の分身、娘を片手で割って焼いてるんですよ。片手! 普通できないし、しないですよね。全部余裕で知っているというメタファーです」

「ええ……?」

「先輩の話はこういう小さなメタファーの連続です。このお弁当を準備するくだりもそうですね。娘の好物のごぼうを包丁の……つまり自分が持っている一番鋭利な部分の、しかも横で押しつぶしてるんですよ。体重のせて、見下ろして! 怖すぎます」

「ええ……??」

「晴れていても降り出す雨、歩いていたのに、ページまたぎで自転車に乗ってますね……しかもここは突然の裸足……靴どうしたんですかね。朝だったのに気が付いたら夜の構成。ここなんてラブホの中なのに星が見えてますよ。死んでしまったお父さんですね。8割がメタファーで、それ自体を示してません。ただその重さが結末に向けて面白さを増す。だから読後感が凄まじい。それが先輩の文章です」

「俺全然読めてないわ……」


 愕然とした。

 俺はただ脚本を読んでいるつもりだった。

 そこに書かれた文章だけを読んでいた。

 これは文学なのだ。脚本の真逆にあるものだ。それを理解してなかった。

 彼女は「私なら諦めまーす」とトコトコと帰って行った。ああ無情。

 このあと先輩さんの家で豚肉のしゃぶしゃぶをするらしい。

 なんだよそれ、そんなの一緒に食べた事ない。てか料理出来るの?? ゆで卵しか作れないって言ってたじゃん? てかさっきお腹一杯って言ったじゃん??

 俺は淋しさをドーナツとスープを押し込んで脚本に向かった。

 そして見えてきたのは、おびただしい量のメタファーだった。

 これは確かに……というか、先輩さんは、俺の彼女を好きなんだな。愛してるんだな。

 いや、絶対渡さないけど。

 渡さないけど……この愛はすごいな……愛というか執着? 早くコンテ書かないと、いや変なコンテ見せたら失笑されて「彼女は貰います」になるぞ、これ。

 ひょっとしてこれも作戦の一部? そんな気がしてきた。

 先輩さん、怖い。


 俺は今までの知識をすべてぶち込んでコンテを……いや、この本を脚本として使うために構成を一から練り直した。

 なんと三か月かけて、俺はコンテを書き終えた。

 待ってくれた全ての人たちに感謝だ。

 それを読んだ彼女は「おお」という声を出して喜んでくれた。




 結局俺は先輩さんから頂いた文章をすべて『話の中で使う話』に変更した。

 簡単にいうと、本の中に出てくる本にしたのだ。

 設定は今の世界が核戦争でほろんだ500年後の世界。

 この世界は子どもが「すべて双子で産まれてくる」。


 主人公は女の双子。

 

 その双子の女の子は「滅びた言葉を使って、物語を生み出す力を持っていた」という設定だ。

 双子は最初生き別れているが、お互いの存在を「感覚で伝わってくる言葉のみ」で知っている。

 そしてお互いに「滅びた文章の交換をしている」。

 双子が交換している物語に、世界を救う秘密が隠されている……という冒険活劇だ。


 メタファーにはメタファーを返してやる!

 コンテにしながら思ったけど、彼女と先輩さんが10年間してきたことって、結局これだろ?

 文字と絵で魂の交換。

 俺はそう理解した。

 

 先輩さんは絵コンテをみて薄くほほ笑んだ。


「あら、上手に料理しましたね」

「あはは……すいません……これが限界でした……」

「いえ、予想よりちゃんと理解して頂けて嬉しいです」

「彼女に教えて貰いました……」

「まあそうでしょうね」


 先輩さんには笑われたが、仕方ない。

 この作戦は功を奏して話はそれなりに売れて劇場まで決まった。

 延々とモノローグで流れる先輩さんの文章は、声にして聞くと破壊力がすごくて中毒者が続出した。

 文字で読み上げて、映像でそれがメタファーだと知らせる。

 そして別のラインでその話を必要とするストーリーを流す。

 売れた、勝った!……が、俺は二度と先輩さんの文章を脚本にするのは辞めると誓った。

 恐ろしく映像に向いてない。

 でも映像と共に流れる先輩さんの話は本当に素晴らしくて、同じ脚本を実写映画にしたいのです! と持って行った会社は爆死していた。

 怖い……俺も彼女のアドバイスなしではああなっていた……。







「おつかれさまでした」

「本当に疲れた……」


 俺は家のソファーに転がった。

 仕事で忙しくしていた二年の間に俺たちの部屋はかなり整っていた。正直忙しすぎて、せっかく同居したのに、ただ眠るために帰ってきていた状態だった。

 その前二年間は彼女が忙しくしていたし……二人で合計四年間仕事し続けた事になる。

 打ち上げも終わり、次の劇場の打ち合わせも始まったが、本格始動はかなり先だ。

 半年くらいのんびりできそうだ。


 本当に疲れた。


 彼女は俺の仕事を手伝いながら、以前よりゆったり生活していて、体調も良さそうだ。

 家の冷蔵庫の二段目に腐った食べ物が溜まっていることは無くなり、開けば食べ物がそれなりにある。


「今日はゆっくりしましょう。おいしい鍋作れるようになりました。先輩と料理教室通って遊んだんですよ。魚が無駄にさばけるようになりました」

「ええ……? 料理なんて全然しなかったのに。君は先輩さんとならどこでもいくね……」

 

 言い方が完全に拗ねていたのに、彼女が気が付いた。

 俺の横にストンと座って、頭を優しく撫でてくれた。

 俺のほうが5歳年上なのに、完全に立場が逆転してる。……気持ちいいから甘えるけど。

 膝枕にゴロンと転がる。彼女が俺の髪の毛を優しく撫でてくれる。


「先輩とは12歳からの付き合いで、もう10年以上戦ってきたんです。やっぱり先輩といるのは楽しいです」

「まあそうだよね……」


 今回脚本を渡されて、どうにも出来なかった負い目もある。

 あの人ほんと凄いわ……彼女が夢中になるのも理解できる。

 ただ男女として絶対付き合えないけど。

 なんだろう……先輩さんは女の方というより、先輩さんという生き物だ。生きている次元が違う。


「でも珍しく先輩が、監督の作品を誉めてましたよ。先輩は監督の実力が知りたくて、わざと難しい脚本を渡したんだと思います」

「うん……まあそうだね……今考えるとそうかも知れない」

「その中で監督は最善のことをしたと思います。それにあれは私と先輩の話です。勝ちも負けもない。私たちを丁寧に描いてくれてありがとうございます。『あれは素晴らしかったです』」

 

 そう言ってほほ笑む顔に違和感を感じ、慌てて彼女の膝まくらから逃げ出す。

 彼女は「どうしましたか?」とほほ笑んでいるが、俺は違和感の理由を見つけた。

 初めてキスした時にも感じた違和感。


「……君の中に先輩さんが住んでるよね」

 

 彼女は「あら」と驚いた表情を見せる。


「……監督すごい。そうですね、15年くらい前でしょうか、私の中に『先輩をインストールしたのは』。それに気が付いたのは監督が初めてですよ、さすがですね」

「初めてキスした時から思ったんだ、何か変だって!! 君はたまに中にいる『先輩さん』が顔を出す。今日俺は絶対君とエッチしようと思ってたけど、君とエッチするってことは、君の中に住んでいる先輩さんともエッチすることになるんじゃない?!」

「出さないように気をつけますが」

「いや、出てるよ、よく出てる!! だからいつもしおしおになってたんだ!!」


 あ、私の魅力が足りなかったわけじゃないんですね、良かった。

 彼女はほほ笑む。それを聞いて2年間手を出せなかった事を彼女がそれなりに気にしていたことに気が付いた。

 慌てて否定する。


「ごめん違うんだ、好きで好きでエッチしたいんだけど……というか、そりゃそうだよ、先輩さんなんて絶対エッチできないよ、怖すぎる、無理でしょ!!」

「もう監督は、何を言ってるんですか。私は私ですよ?」


 彼女はソファーに笑いながら転がった。

 ああ、可愛い、この彼女を抱きたい。

 ずっとこのままの彼女なら抱ける。



 でもきっとキスして触れた瞬間に『先輩さん』が顔を出すんだ、俺は知っている。

 いや、逆に『先輩さんが中にいると俺が知っているから、無理なのかもしれない』。

 そしてこれ自体が『先輩さんが仕掛けた罠』だと気が付く。



 中に先輩さんが住んでいる彼女に気が付いたら、俺が手を出せるはずがないと知っていて、脚本を渡してきたんだ。



 ここまで全てテストだったのだ、そしてこれからも。

 俺は先輩さんに勝つまで彼女を安らいで抱くことができないのだ。




「……俺、次も先輩さんの脚本で頑張る。次は逃げない。入れ子にしない。ちゃんと向き合って、勝つ。そんで君とらぶらぶエッチする」

「ええ? 私先輩に並ぶのに10年かかりましたよ。あ! でも私も手伝いますから5年で勝てるかもしれません。神作監も召喚すれば更に半分? 一緒に頑張りましょうか」

「手伝ってくれる? パート演出に入ってくれる?」

「コンテは書きませんよ、死んじゃいますから」

「俺のことかーーー!! 俺が死ぬのかーー!!」

「でも手伝います。監督と一緒に先輩と戦うなんて最高にワクワクします。作監にLINEします。先輩が得意な家族モノより、監督と私が得意なロボットに持って行きましょう。あ、先輩が初めて書いた小説読みます? 全部写メってあるんです、怖いですよ。最強のホラーです」

「すごく気になる……」


 俺たちは先輩さんの文章を読みながら恐怖に絶叫して部屋に転がり、鍋を食べてお酒を飲んで企画を考えた。

 そしてLINEで召喚された作監たちも集まってきて、夜遅くまで会議をした。



 これは俺が才能あふれて美しく気高く、そしてエンタメの世界に上り詰めていく女二人に挟まれて、嬉しいやら悲しいやら苦しいやら泣きながら続く日々の最初の頃。

 それがずっと続くなんて思っても居なかった日の話。




 




 終わり




 女の中に女が住み着き、才能で殴りあう。

 その女に勝たずに抱ける男などいない……ここまで含めて最強の百合だと思うのですが、どうでしょうか。

 理解者は少ない……ですかね……。


 完結したので、感想欄開けます。

 わりと妙な話になったと思うのですが、どうでしょうか。

 評価と共に、一言頂けたら嬉しいです。

 

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