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私と先輩の、恋なんてあまっちょろい、どうしよもなくアホで曲げられない執着の話  作者: コイル@オタク同僚発売中
先輩

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6/7

彼女の中に住みたい


「映画化?」

「素晴らしい原作だと思います。頑張って作りますので、よろしくお願いします」


 デビュー作の小説が映画になるという話に私は驚いたが、有名監督から頼まれて断る理由もなく快諾した。

 ただ自分で言うのも何だが、私の小説は静かに感情が降り積もるような話で、映像には向かないと思っていた。

 実際に仕上がった映画は、やはり残念な事になったが、それをきっかけに彼女に再会できた。

 私はそれだけで嬉しかった。


「先輩!」


 そういって涙を流す彼女は相変わらず可愛かった。

 彼女がつくったアニメ作品は本当に素晴らしくて心の奥底から嫉妬した。

 文章にしか出来ないことを私はしてきたけれど、アニメというイチから作り出せる世界なら『私の話も100%のカタチになるかもしれない』。

 希望を感じて、上京を決めた。


 私はずっと発掘調査に関わり、群馬の山奥に住んでいた。

 日の出と共に土に向かい、少しずつ事実と向き合う生活。

 欠片を見つけて、検証。そして世界を繋ぐ。

 驚くほど星が美しく見える山荘で、夜は小説を書いた。

 店が遠くて月に一度しか買い出しに行けないので、毎日一杯ずつ大切にコーヒーを飲んだ。口をつけると真っ黒な闇は、深く溶けた。

 毎日を気に入っていたが、そこから出て東京に行くことにした。

 教授に伝えたら「そうか」とシンプルな返事。

 最後まで目の前の事実にしか興味がなくて笑ってしまうが、私は縄文土器や民俗学を嫌いになったのではない。

 むしろ考古学を学ぶことで生まれ変わった。

 それには本当に感謝していた。

 ここに来なかったら、今も見えない真実に苦しめられて、本当に気が狂っていたし、彼女に再会することも無かっただろう。

 私は自分が発掘した土器の欠片を手に、嬉し涙を零した。




「え? 荷物は、それだけですか?」

「パソコンくらいしか無いのよ」


 高校時代から寮にいて、大学も寮を選んだ。そのまま発掘調査に関わるようになり、そこも山奥の山荘。

 家を出てから家電製品は一度も買っていなかったし、全ての本は電子化してあり、iPadに入っていた。

 私の荷物はノートパソコンとiPad、そして少量の服だけだった。

 あまりの荷物の少なさに彼女の会社のプロデューサーさんは驚いたが、私の希望通り、監督さんと彼女の近くに部屋を借りてくれた。

 なぜ近くなのかと問われたら、彼女が好きだから。

 もう私に迷いは無かった。

 

 住み始めた東京は星が地上に移動しただけで、刺激的で楽しかった。

 色んな人種に、夜中も開いている本屋に映画館、私は彼女と毎日出かけた。

 昔のような時間が戻ってきた……と思いたかったが、彼女は夜遅くなると「監督が心配するので、帰ります」とか言うのだ。

 私はそれを聞くたびに苛立った。

 

 

 君は私のことが一番好きだったよね?

 恋人? 知らないと思うけど、それ楽しくないよ。

 私といるほうが楽しいわよ?



 今までは持った事がなかった、彼女への執着が生まれた。

 彼女は監督さんを支えていたし、監督さんも彼女を大切に思っているようだった。

 二人がキスしているのを見た時から、本格的に心の奥がザワザワした。


 まさか結婚して『普通になるつもり?』

 私が消し去った、それでも心の奥にあり続ける『普通』。

 今も一番わからない、遠いもの。それが『普通』。

 彼女がそうなるなんて信じられなかった。

 私の唯一のライバルなのに、第一線から退くつもりなのか?


 逃さない、絶対に。

 私は久しぶりに狂ったように文字を打った。

 私にはその力があるはず。

 そう分かっていたし、今本気にならないと一生後悔すると分かっていた。


 机と椅子しかないシンプルな部屋で、私は愛用のノートパソコンをひたすら叩いた。

 朝日が昇り、日中の日差しに喉の渇きを感じて水道水を飲み、暗くなり電気をつけて。

 悩んだら、ノートパソコンを抱えて歩けるところまで歩き続けて、始発を待って電車に乗り、終点まで行ったら、知らない街を歩いて、考えて考えて書いて書いて書き続けた。

 思いついたら地面に座り込んで書いた。書く速度が間に合わなくてスマホの音声に入力したら、泣き声しか入ってなくて叫んだ。

 書くことでしか彼女を繋ぎ留められないと知っていた。


 仕上がったのは普遍的な家族の話だった。

 裏テーマは娘が売春をしていることを絶対に許さない母親の話だったが。

 私は彼女を部屋に呼んだ。




「完成したわ、読んでみて」




 原稿を渡すと、彼女は「ふう……」と深く息を吐いて「拝見します」と表情を引き締めた。

 何もない私の部屋で、彼女は相変わらず身じろぎ一つせず、背筋をピン……と伸ばして私の文章を読み始めた。

 久しぶりで震えた。

 彼女を初めてみた美術室に引き戻される。

 ああ、この横顔を見たかった。

 迷いなく私の文章に引き寄せられる美しい輪郭と眼差し。

 でも私も彼女も年を重ねて、間違いなく進化した。

 それなのに彼女は私の横で変わらぬ姿勢で私の文字を追ってくれるのね、その目で。

 実に5万字越えの文章を彼女は背筋を伸ばして読み切り、大きくため息をついた。


「……私、まだ監督とエッチしてないんですけど」

「監督と君のことだけ考えて書いたわ」

「せんぱーーーーいーーーーやめてくださいよお~~~こわーーーい~~~」


 彼女はちゃんと私が欲しい感想をくれて、原稿用紙を部屋中にぶちまけて床に転がった。

 文章を読みながら、ころころしている姿が可愛くて、私は彼女に覆いかぶさる。


「……先輩はこれだからイヤなんですよ」


 下から彼女が睨んでくる。

 ああ、震えるほど可愛い。

 でも私は彼女と恋人にならない。

 それは副会長として『面白くない』と知っているもの。

 そんな安いものに私は興味がない。


 私は文章で彼女の中を掻きまわしたい。

 男のアレなんて全然届かない場所を。

 それが最高に気持ちが良いって、私も彼女も知っている。

 ずっとずっと彼女の奥に居たい。


「……先輩、今ろくでもないこと考えてますよね」

「君の中に住みたいなあと思って」

「もう私、普通に恋とかして生きていきたいんです、先輩に浸食されるのはお断りです、体調崩しますし!!」

「いじわる、いじわる~~!! 入れてよ~~~!!」


 私は彼女に抱きつこうとしたらあっさり逃げられた。

 そして原稿を持って彼女は言う。


「これを監督がコンテにするのか~いや~楽しみだな~。さ、会社行きましょう」

 

 書けるのかしらね。

 書けないと思いますけどねえ~。

 私と彼女は手を繋いで会社に向かった。

 私と彼女は永遠の同志で共犯者。

 ずっと一緒。

 ここから退くつもりは一ミリもない。


 君の身体も精神も、すべて私のもので離すつもりはない。

 私は彼女で、彼女の中には私がいる。

 

『先輩』はこれで終わりです。

明日、監督の部分をUPして完結します。

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