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6話 新たな目的地

《登場人物紹介》


トラジ(20)

主人公。お気楽関西人。アホ。1日1回ツッコまないと死ぬ縛り(本人はまだ気付いていない)

マヨネーズをこよなく愛し、指先からマヨを出すスキルを持つ。

現在、女人限定で激臭を放つ、呪いの装備に悩まされている。


ラビファー(15)

通称ラビ。うさ耳獣人の少女。

金も住む場所も無い、放浪の野生児。

身体能力、聴力が異常に高い。

マヨネーズ中毒者。

激臭対策で常時ガスマスク着用中。


ガチム(29)

褐色肌のガチムチヒーラー。

魔法を使うと気合いで服が弾け飛び全裸になる。

そのせいで凄まじい裁縫スキルを持つ。

こう見えて貴重な常識人。


アルマ(24)

女騎士。現在はラルの町の駐屯所で町の治安を守っている。

普段は凛とした態度を見せるが、予想外の出来事に弱くギャル口調になる。

不幸にもトラジに一目惚れされ、行動を共にすることに。


 昼の集合時間を過ぎても、ガチムは現れなかった。

 大通りに着いてかれこれ30分以上は経ち、トラジはベンチに座り激しく貧乏ゆすりを繰り返す。


「おい、いつまでここにいるつもりだ? 私も暇ではないのだが」

 アルマは数メートル離れた場所から大声で文句をたれる。

 臭いのせいで近寄れないとは言え、トラジは彼女の態度に軽く舌打ちをした。

 

「うっさいなー、人待っとる言うてるやろ!」

 トラジもイラついたように返事をする。

 

 こいったやり取りは、もう数回続いていた。

 そんな2人のイライラがピークに達しそうな頃、同じくベンチに座っていたラビの耳がピクリと動く。

 

「この足音……トラジ! ガチムのおっちゃんだ!」

 ラビは退屈そうな表情を一変させ、明るくベンチから飛び降りる。

 

「マジか!」

 トラジも慌てて立ち上がり見渡すが、それらしい姿は見当たらない。

 どうやらまだ、彼女の耳にだけ聞こえる物音らしい。


「たぶん、あの通りの方から……あれ?」

「どした」

「何か、知らない足音も一緒だ」

 ラビは路地を見つめながら、不思議そうに首を捻る。

 しばらくして、薄暗い路地からひょっこりとガチムが姿を現した。


「お、ガチムー! こっちや!」

 トラジが声を上げて大手を振ると、それに気付いたガチムも笑顔で手を振る。

「待たせてすまない」

 笑顔のまま歩み寄る彼の手には縄紐が握られる。

 それを辿った先には、腰に縄をつけられた男が俯いて歩いていた。


 (あれ? あの男は……)

 

 長髪でサングラスの怪しい男を、トラジは眉間にシワを寄せて凝視する。

 そして、近づいた男の姿に確信を持つと、ギラリと眼光を光らせた。


「ぅおらぁーーー! この悪徳露店商がぁーーー!」

「ひぃっ!」


 トラジは鬼の形相で両手を大きく振り乱してダッシュする。

 ガチムが連れてきた男は、トラジに呪いの装備を売り付けた男で間違いなかったのだった。

 縛られた男は短い悲鳴を上げるが、トラジの渾身の飛び蹴りが顎に直撃する。


「あがぁっ」

 男は勢いよく崩れ落ち、顎を押さえて(うずくま)った。


「おぉ! 見事だぞ、トラジ」

 ガチムはしっかり縄を握ったまま、感心したように拍手を送った。

 荒い息を整えてから、トラジは冷徹な表情で地面に付いた男の手を踏みつける。

 

「ぐあぁ! 痛ぇぇ! は、離して」

「あぁ? ようやく見つけたんや、離すわけないやろ」

 嗜虐的な笑みを浮かべ、トラジは男の手をグリグリと踏みにじった。

 悲痛な声を上げ続ける男を見かねて、ガチムは苦笑いでトラジを宥める。


「トラジ、怒りもわかるがその辺にしておかないか? 肝心の話が聞けなくなる」

「……ふむ。それもそうか」

 ようやく足が離れ、男は体を丸めて縮こまった。


 離れた場所から様子を見ていたアルマとラビは、豹変したトラジに驚きつつ口を開く。

「誰なのだ、あの男は」

「あぁ、トラジに呪いの服を売り付けた露店のオッサンだ。ウチら、ギルドではあいつの事を探してたんだ」

「なるほど」

 アルマは胸の前で腕を組み、厳しい視線を送る。


 ――――


「じゃあ早速話してもらいましょか。この服の呪いの解き方」


 路地の壁に男を移動させ、トラジはしゃがみ込んで至近距離から男を睨む。

 男は少し平静を取り戻したのか、反抗的な目で言い返す。


「し、知らねぇよ。俺はただそれを売っただけ……非モテの呪いなんて知らん!」

「知っとるやないか! 騙してこんな服売り付けやがって、俺がどんな目に遭ったと……」

 激臭のせいで女人から邪険にされた事を思いだし、トラジは悔しそうに拳を震わせる。

 すると男は、フッと小さく鼻で笑った。


「でもあんた、その呪いが発動するってことは……まだお子ちゃまなんだな」

「あぁー!? ぶっ殺す!!」

「あー、待て待て。簡単な挑発に乗るな」

 血管を浮き立たせ男の胸ぐらをつかみ上げるトラジを、ガチムは冷静に引き離す。

 ふーふーと息を繰り返し、虎よりも怒り狂った野良猫のようなトラジを置いて、ガチムが交渉を変わる。 


「お前、なぜ呪いの発動条件まで知っている?」

「さぁ、何となくそんな気がしただけだ」

 男はヘラヘラとし、確実に何かを隠している態度だった。


「おかしいな。俺は解呪の魔法を施して、ようやく理解できたのだ……ただの商人が気付くとは思えないが?」

 穏やかに話しながらも、ガチムはバキボキとあり得ない音で拳を鳴らす。

 その威圧感に怯えた男は、小さい悲鳴を上げて壁に張り付いた。


「お、俺は……ただ頼まれただけだ! この服を売り捌いてくれって……アンタが買ったので最後だったんだよ!」

「頼まれただと?」

「誰にや! もったいぶらんと早よ言え!」

 新たな情報に、調子を取り戻したトラジも話に加わる。


「し、知らない男だよ。ジェロスの町で男から金を貰って、この服を売って回れと頼まれたんだ。なるべく、若そうな男にと」

 男は観念したようで、ついに服を仕入れた経緯を打ち明けた。

 

「ジェロスの町? ここからは少し遠いな」

「絶対そいつが呪いの犯人やろ! そいつ、まだその町におんのか!?」

「それは、わからん。町で売り捌いた客があんたと同じような事になって、そいつに話を聞こうと探したんだが、見つからなかった」

「はぁ!?」


 その時、長く話し込んでいたトラジたちの元に、レザーで鼻を覆ったアルマとラビがやってくる。


「うっ……やっぱ臭いな」

「アルマ」

「少し話を聞かせて貰ったが……ジェロスの町の騒動なら、例の件が関係あるかもしれない」

 トラジの臭いに顔を歪ませながら、アルマは冷静に話を進めた。

 何か心当たりのある様子に、トラジはピクッと眉を上げる。


「何や、例の件って」

「うむ、それについては少し話が長くなるんだが」

 アルマは複雑な表情で、全てを打ち明け不貞腐れる男に視線を向ける。


「この男の身柄を拘束するついでに、騎士団の屯所まで来てくれ。続きは私の部屋で話すよ」


 アルマの言葉に、トラジとガチムは事態を飲み込めないまま顔を合わせ頷く。

 一方ラビは呑気な様子で、男を縄でぐるぐる巻きにして遊んでいた。


「んんーーー!? もがっ!」

「アルマのねーちゃん! これでいいのかー?」

「う、うむ。ちょっとばかり、巻きすぎだ」


 顔が見えない程全身を縄で巻かれた男を見て、アルマは先が思いやられるようにため息を付くのだった。


 ◇


「しかし驚いたな……まさか、騎士団長さんと知り合っていたとは」

「たまたまや。成り行きでな」


 アルマの部屋に通されたトラジたちは、来客用の椅子に座らされた。

 彼女が資料を用意している間、トラジとガチムは落ち着き無く部屋を見渡す。


 壁一面の大きな本棚。暗い赤色を基調とした部屋は、妙に緊張感があった。

 そしてアルマの書斎のそばには、高そうなシルバーの鎧と剣が飾られている。


「なぁなぁー、これ見てみろトラジ! あはは、カッチカチだぞー!」

 部屋に入るなり手当たり次第物色していたラビは、その光り輝く鎧をバシバシと叩く。

「あ、アホか! そんなことしたらっ」

「ん?」


 トラジが声をかけた瞬間、鎧の頭部はぐらりと傾き外れる。

「あ、落ちた」

「わぁー!」

 慌てて立ち上がったトラジは、ギリギリスライディングで頭部をキャッチした。

 

「ふぅ……グッジョブだ、トラジ」

「ふ、ふふふ」

 青白い顔で親指を立てるガチムに、トラジは生気の抜けた笑い声を返すのだった。


 一方アルマはそんな騒ぎを気にすることもなく、淡々と書類に目を通す。

「……待たせたな。ジェロスの町の資料が見つかったぞ」


 何事もないように分厚い資料を手に、アルマはガチムの向かいに座る。

 トラジはそんな彼女の姿を、シラっと冷めた目で見つめていた。

 それもそのはず、屯所に戻ってからの彼女の顔には、ラビと同じガスマスクが装着されていたからだ。


 (臭い対策とはいえ……コイツらなんで普通にガスマスクつけれんねん)


 ふとした疑問にツッコミを入れつつ、トラジは鎧の頭を持ったままガチムの隣の席に腰かけた。


「見てくれ……これがジェロスの町の〈婦女子大量魅了事件〉だ」

 アルマはテーブルに資料を広げ、二度聞きしたくなるような言葉を並べる。


「はぁ? 何やその魅了事件って」

「確かに聞いたことの無い事件だな。その魅了と言うのは、魔法か何かなのか?」

 ガチムの指摘にアルマは静かに頷く。


「恐らくそうだ。数週間ほど前、町の女性が一斉に出ていくという事件が起こった。それも、自らの意思でな」

「あぁ? それやったら、魅了されてへんのじゃ」

 トラジの疑問に、アルマは首を横に振る。

「それが、不自然なのだ。夫婦仲が良く評判の婦人に、親孝行だった娘。それがある日突然、愛想を尽かせたように人が変わったとの報告があった。同時期にそんな事が起こるなんて、何かの魔力が働いているとしか思えない。実際、町には僅かに魔物の気配が残っていたからな」


 アルマの説明に、トラジは腕組みをして難しい顔で唸る。

「その事件のことはわかったけど、それが俺のくっさい呪いの服と関係あるんか?」

「まだわからないが、どちらも同じ町で起こったことだ。そして、ちょうど時期も被る」

 

「なるほどな……二つの事件が同じ者の仕業と考えているわけか」

「そうだ」

 ガチムの言葉に、アルマは強い口調で頷いた。

 しかしなぜかその後、目を逸らして口ごもる。

 

「だが……ちょうどその頃から、色んな町で家畜のモンスターが暴れ出す事件も頻発していて、騎士団はそちらに掛かりきりになっているんだ」

「もしかして、昨日のバッファローの暴走も?」

「そうだろうな。被害が明確で危険度も高い為、魅了事件よりも今はそちらの方が優先されている」

 アルマはばつが悪そうに話すと、俯いて黙ってしまった。


 話を黙って聞いていたトラジは、俯く彼女の顔を見つめてニヤリと口角を上げる。

 そして、テーブルに置かれた資料の上に、バンと勢いよく手を叩きつけた。


「はっ、それだけ聞けたら上等。そのジェロスの町の事件、俺らに任せとけや!」

「……トラジ」

 不適な笑みを浮かべるトラジを、アルマは感心したように見上げる。


「いい心意気だ。トラジ、なかなか男らしいじゃないか」

 拍手を送るガチムだったが、次の言葉にその手を止めた。


「ただーし、条件がある!」

「じょ、条件? あぁ、報酬ならもちろん支払わせてもら」

「そんなんは当たり前や! それとは別に」

 トラジは目を細めてニヤリと微笑む。

 その笑顔から漏れでるよからぬ企みを察知して、アルマはさっと身構えた。


「事件が解決したら……俺の、彼女になってください!」

 トラジは勢いよく立ち上がると、深く頭を下げ、アルマへ真っ直ぐに手を差し出した。

 

 それから、いったい何分間の沈黙が訪れていただろう。

 カチコチと時計の音だけが鳴り、アホな男に突き刺さる皆の冷たい視線。

 トラジだけがその事に気付かず、ただ期待に胸を踊らせていた。


「なぁなぁ、そのジェロスの町って、食べもんはうまいのか?」

「あ、そうだな……確か、名物の肉料理があったぞ」

「ははは、それは楽しみだ。では、早速明日には出発するとしようか」

「本当に助かるよ。良ければ今日は、ここに泊まっていってくれて構わない」 

「いいのか!? ウチまた探検してくるー!」

「あ、ラビ! 勝手に出歩くんじゃない」

「ふふ。大丈夫、私が案内するよ」


 トラジという男などまるで存在しないように、皆はそれぞれ穏やかな会話を繰り広げ、部屋を後にしていく。

 一人残されたトラジは、まだ手を差し出したまま固まる。

 体はプルプルと震えだし、ついに沸騰しそうな赤い顔を上げた。


「そこまで無視する!? ってか置いてくなやーーー!」


 トラジは鎧の頭を抱えたまま、半泣きで部屋を飛び出し皆の後を追うのだった。


 


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