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5話 マッチョに睨まれたネズミ

《登場人物紹介》


トラジ(20)

主人公。お気楽関西人。アホ。1日1回ツッコまないと死ぬ縛り(本人はまだ気付いていない)

マヨネーズをこよなく愛し、指先からマヨを出すスキルを持つ。


ラビファー(15)

通称ラビ。うさ耳獣人の少女。

金も住む場所も無い、放浪の野生児。

身体能力、聴力が異常に高い。

マヨネーズ中毒者。


ガチム(29)

褐色肌のガチムチヒーラー。

魔法を使うと気合いで服が弾け飛び全裸になる。こう見えて常識人。


アルマ(24)

女騎士。現在はラルの町の駐屯所で町の治安を守っている。

普段は凛とした態度を見せるが、予想外の出来事に弱くギャル口調になる。


 アルマが不幸にもトラジに惚れられていた頃。

 別行動中のガチムは、聞き込みで得た闇商人の情報を頼りに、人気の無い路地を訪れていた。


「ふむ……ここが例の酒場か」

 ガチムはある酒場の前に立つ。

 

〖claw-クロウ-〗

 密集する建物に挟まれた狭い店舗。

 目立つ看板は無いが、ぶら下がっているドアプレートにはOPENの文字と共に店名が書かれていた。

 

 ある商人の話では、ここの店主から闇商人の話を聞いたと言う。

 急がしそうにしていた為、詳しい内容は直接聞けと追い払われてしまった。


 (にしても、こんな昼間から開いているものなのだな)


 酒を飲まないガチムは、呆れながらも重いドアを押し開けるのだった。


 ――――


 昼間にも関わらず、窓の無い店内は薄暗い。

 客の姿はなく、狭いカウンターの中には中年と見られる男が新聞を手に座っていた。

 男はガチムをチラリと見ると、何も言わずまた新聞に視線を落とす。


 (ふぅ……無愛想な男だ)


 ガチムは軽くため息をついてカウンターに腰かける。

「麦酒を頼む」

 

 定番の酒を注文すると、男はようやく立ち上がった。

 ガチムは酒が飲めない訳ではなく、好みではないので自ら進んで飲むことはない。


「……はいよ」


 男は面倒そうにジョッキを置く。

 それを一口飲んだガチムを見定めるように眺め、男は口を開いた。


「その格好、アンタ修道士だろ? こんな明るいうちから飲んでていいのかい?」

「そうだが、案外全うな事を言うのだな」

 ジョッキを置き、ガチムはニヤリと笑い言い返す。

 男は少しムッとした表情をしたが、特に気にはしていないようだ。


「これでも客は選んでる。油断すると怪しい輩の溜まり場になるからな」

「ほう、それは安心した」


 (どうやら、この店自体に問題は無いようだな)


 案外まともそうな店主に、ガチムは内心ホッとしつつ本題を切り出す。


「……実は、少し聞きたいことがあってここを訪ねた」

「あぁ?」

 不審そうに片方の眉を釣り上げる男に、ガチムは闇商人の事と非モテの呪い装備について話した。


「何!? 悪臭を放つ呪いの装備だと?」

「う、うむ。見た目は普通の服なのだが、一度着ると脱げない上、女性に対してだけ悪臭を放つんだ」

「あっはははは! そりゃ、おもしれぇ! 傑作だ!」

 店主は余程ツボに入ったのか、机をバンバン叩きながら大口を開けて笑う。


「ははは……まぁ話だけなら面白いのだが、知り合いが被害に遭ってな。笑ってばかりもいられないんだ」

 乾いた笑いを漏らすガチムに、店主は息を整えて話す。

「はぁ、すまないすまない。で、その露店商の手がかりを探してると」

「そういうことだ。些細なことでもいい、何か知らないか?」

 ガチムは笑いを納め真っ直ぐに見据える。

 店主はしばし考え込むと、ダルそうにタバコを一本咥え、指先から小さな火を灯した。


 (……炎の魔法か)


 長い息と共に煙を吐き、店主は目を逸らして話を切り出す。


「その呪いの装備とやらかわからんが、昨夜ここに来た男がやけに上機嫌に話していたな。『厄介な商品がようやく売れた』って」

「本当か!? そ、その男の特徴は?」

 身を乗り出したガタイの良いガチムの迫力に負け、店主は思わず身を引く。


「そ、そう興奮するな! 確か黒髪の長髪で、店内でもずっとサングラスを掛けていたな」

 店主からの情報にガチムは目を見開く。

 見た目だけなら、トラジから聞いた話と一致していた。


「その男はどこに!」

「よ、寄るな暑苦しい!」

 店主に怒られ、ガチムは我に返り腰を下ろした。


「すまん、つい」

「ふん、まぁいい」

「その男は、闇商人だったのか?」

 ガチムの問いに、店主はピクリと眉を動かす。


「確かにここには、闇商人が取引に来ることもあるが……見ない顔だったな」

「そうか」


 店主が顎の髭を触った時、左腕のずれた服の袖から火傷の痕が見えた。

 火傷はまだ新しく、中心部は僅かに滲出液(しんしゅつえき)で潤んでいる。


「……火傷か?」

「ん? ああ、うっかり自分の魔法でヘマしちまって」

 特に気にする素振りもなく店主は話す。

 ガチムは軽く傷を観察してから立ち上がった。


「その腕、こちらに出してくれ」

「あ?」

 店主は戸惑いながらも腕を伸ばす。

 ガチムは腕に掌をかざし集中する。店主の左腕は青白い光に包まれていった。

 そして……

 

「はぁぁ!」

「おぉ、治った! 痕すら残ってねぇ、すげぇなアンタ……」


 〈……パリィィン〉


 店主が嬉しそうにガチムに目を向けた瞬間、彼の服は綺麗に弾け破れた。

 今回は脱げるまでにタイムラグがあったようだ。


「って、裸じゃねぇか!?」

「ははは、すまん。すぐに直す」


 特に動じることもなく笑顔で裁縫を始めるガチムを、店主は呆れた顔で見つめる。


「……許可証」

「ん?」

 思い出すように呟いた店主の言葉に、ガチムは袖を通しながら彼の顔を見る。

 

「ギルドの許可証だよ。そう言えば、ヤツはそれを見につけてなかった」

「じゃあ、やっぱり」

「あぁ、闇商人だ。確か昨日の話だと……今日は3番通りの方で店をやると言っていた」

「本当か!?」

「嘘などつかん。治療してくれた礼だ」

 店主は綺麗に治った左腕を見せてニヤリと笑った。


「ふ、情報感謝する。今度またゆっくり来るよ」

 そう言うと、ガチムは少し多めの代金を置いて足早に店を後にした。


 ◇


 3番通りは〈claw〉から近い。

 時刻は昼を回っていたが、ガチムはトラジたちと落ち合うのを後にして、先に例の商人のもとに向かうことにした。


 一方、トラジたちが調べを進めるギルドでは。


「何で!? 何でこんな臭いのーー!?」


 アルマはトラジの呪いの激臭を間近に嗅ぎ、吐き気を催し大混乱に陥っていた。


「う、うぅ、ひどい……服の、この服のせいやのに」

 トラジは一目惚れしてしまったアルマに最速で嫌われ、ショックからしくしくと涙する。

「……え、服?」

 顔に巻いていたレザーを押さえつけ、アルマはトラジの言葉に反応した。

 ちょうどその時、ラビが受付から戻ってくる。


「トラジー、全然ダメだ。見つからなーい」

 ラビは手ぶらで、商人についての情報は得られなかったようだ。

 そして、しっとりと泣いているトラジと膝をつくアルマを見て不思議そうに首を傾げた。


「なんで泣いてるんだ? そのねーちゃんに苛められたのか?」

 トラジはアルマの方を恨めしそうに見つめ、コクリと頷く。

「……うん。臭いって言われた」

「なっ、苛めてなどいないぞ!? ただ、多少……いや強烈な臭いがだな」

「ほら、また言うた」

 じっとりとした目で睨まれ、アルマはぐっと言葉を飲んだ。


「あはは! それは仕方ないぞ! ウチもこのマスクつけてないと無理だもん」

「お前なー! ちょっとは気ぃ遣えや!」

「そう言えば、すごいマスクだな」

 キレるトラジを放っておいて、アルマはラビのガスマスクに興味を示す。


「ガチムのおっちゃんがくれたんだ! トラジが呪いの装備で臭くなって困ってたから」 

「呪い? この強烈な臭いは呪いによるものなのか!?」

 アルマは驚き、目を丸くしながらヨロヨロと立ち上がる。

 

「そーいうことや。呪いの大本を何とかせんと解けんらしくて、売り付けた商人の手がかりを探しに来たの」

 すっかり涙が引っ込んだトラジは、ダルそうに頭を掻きながら事情を説明する。


「そうだったのか……そうとは知らず、すまない事をした」

 申し訳なさそうに謝るアルマの姿を、トラジは上から下までじっくりと観察する。

「うーん」

「な、なんだ」

 不審に思ったアルマは鼻を押さえたまま後ずさる。


「その格好……アンタ、お仕事は?」

 トラジは掛けていない眼鏡を上げるような仕草で問い詰める。

「え、エレフセリア王国の、騎士団長を勤めているが」

「え、えれ? そのなんちゃら王国は知らんが……ふーん、騎士さまか」

 聞きなれない国名に多少混乱したトラジだが、すぐにニヤリと意地悪げな笑みを浮かべる。


 (騎士ってことは、権力とか持ってそうやし……何とか協力させれんかな〜、結構かわいいし)


 よからぬ事を考えながら、トラジはフッと目を閉じる。


「どしたトラジ? 腹でも痛いのか?」

「うっさい、黙って見とけ」

 口を挟むラビに、トラジは小声で言い返す。

 そして、スイッチが入ったように感情を込めて話を始めた。


「俺は、突然この世界に放り込まれた転生者なんや」

「転生者!? まさか、君がか」

 食いついたアルマの様子に、トラジは一瞬ニヤリと笑う。


「そうや。もとの世界で死んだ俺を、神がこの世界に転生させたらしい。そやけど、右も左もわからんのに、いきなりこんな呪いの装備まで……うぅ、俺は、どうしたらいいんや。はぁ、こんな可哀想な一般市民を助けてくれる、心優しいお方がどこかにおらんかなぁ……チラ」


 迫真の演技で言い終えたトラジは、これ見よがしにアルマに視線を送る。


「い、いや……不憫には思うが、私には他にもやるべき事が」

「はぁ、やっぱり。世の中そんな上手いこといかんよな……無一文のウサ耳少女と同じく無一文の俺。こんな二人で、どうやってこの先」

「あぁ! もういい! わかった、協力するからそんな目で見ないでくれ!」

「ほんまか! いやあ、そう言うてくれると思ってたわ! さすが、騎士団長さま! 頼りになります!」

 トラジは態度を一変させ、手を揉みながら笑顔で話す。


「何か腑に落ちないが、まぁいいだろう」

 にこやかなトラジと対照的に、アルマはげっそりと疲れた顔でため息を吐くのだった。


「ところで、その商人とやら……ここで見つからないのなら、闇商人なのでは」

 現状を考えながら話すアルマを、元気なラビの声が遮った。

「トラジ、トラジー! そろそろ集まる時間だぞ?」

「お、そうや忘れとった。すまんが話は移動しながらや。えっと……」

「ん? まだ何かあるのか?」

 何か言いたげなトラジに、アルマは不審そうな顔を向ける。


「名前、教えて? ちなみに俺はトラジで、こいつはラビ」

「あぁ、私はアルマ」

 少し拍子抜けした顔でアルマは答えた。  

   

「アルマちゃんね。じゃ、これからヨロシクー」

「な、ちゃん付けはやめろ!」

 軽いノリでさっさと出ていくトラジに、アルマは慌てて言い返す。

「あはは! 早く行こ、アルマのねーちゃん!」

「おい、引っ張るんじゃない」

 ラビに手を引かれ、アルマはギルドを出てトラジの後を追う。

 

「あ、アルマ様!? どこへ」

「すまんが急用が出来た! 後の巡回は任せる!」

「は、はぁ」


 引っ張られるアルマを見送り、兵士たちは口を開けたまま唖然と返事をするのだった。


 ◇


 3番通りの路地。

 建物の影になった場所に、その男はひっそりと露店を広げていた。

 

「いらっしゃい」

 前に立ったガチムを見上げ、男はサングラスの中からニヤリと微笑む。

 

「服をくれないか? 女が寄り付かなくなるような、そんな服がいいのだが」

「は? 悪いがそんなものは無いね。そんな臭い服、うちには取り扱ってないよ」


 (ふっ、やっぱりコイツか)


「おかしいな。俺は臭いなど一言も言ってないのだが」

 ガチムの言葉に男は顔色を変える。


「ちょっと、話を聞いてもいいだろうか」


 にっこりと笑う筋肉質の大男に睨まれ、商人はピクリとも動けず滝のような汗を流すのだった。 

 



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