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3話 ガチムチと非モテの呪い

《登場人物紹介》


トラジ(20)

主人公。お気楽関西人。アホ。1日1回ツッコまないと死ぬ縛り(本人はまだ気付いていない)

マヨネーズをこよなく愛し、指先からマヨを出すスキルを持つ。


ラビファー(15)

通称ラビ。うさ耳獣人の少女。

金も住む場所も無い、放浪の野生児。

身体能力、聴力が異常に高い。

マヨネーズ中毒者。


ガチム(29)

褐色肌のガチムチヒーラー。

魔法を使うと気合いで服が弾け飛び全裸になる。こう見えて常識人。


「ど、どうしたのだ少年! 変態? 一体何処にそんな輩がっ!」


「いやお前やお前! 自分の体見てみいや!」


「え?……あ」


 筋肉質の男は自分の姿を見下ろすと、ようやく自身が素っ裸な事に気付いたらしい。


「ははは……すまない。回復魔法を使うと、何故かいつも服が破け飛んでしまってな。少し待っていてくれ」


 男は笑いながら破けた服を拾い上げ、手荷物から裁縫道具を取り出す。

 彼はその凄まじい裁縫技術で、ほんの数秒で修道着をつなぎ合わせてしまった。


「うん。これでよし」


 清々しい笑顔で修道着を纏う男に、トラジは底知れない恐怖を覚えたまま口を開く。


「……アンタ、何者?」


「ん? 俺はガチム。長く放浪の旅をしている修道士だ」


 ガチムは自慢の胸を張り、首に付けていたロザリオを持って微笑む。


 (ガチム……なんとそのままなネーミング。ってか、服パツパツすぎるやろ……そんなんやから毎回弾け飛ぶんじゃ)


 トラジは再びガチムの容姿をじっくりと見つめ、ひとり心の中でボヤいていた。


「しゅ、修道士って?」

「……知らんか? 神に遣えるもの、まぁ簡単に言えば回復魔法が専門の職業だな。ヒーラーと呼ばれることもある」

「あ、あぁ、それやったら何となくわかるけど。ってか、アンタが助けてくれたん?」

「あぁ。騒ぎがあったので駆けつけてみたら、君がバッファローに吹き飛ばされたのが見えてな。ここに運んで治療したわけだ」

「そ、そうやったんや……それは、ありがとう」


 未だガチムに対し不信感を拭えないながらも、助けて貰った事実にトラジは素直に感謝を示した。

 その様子にガチムは満足げに頷くと、少し離れた茂みを見つめて声を掛ける。


「そこにいる娘さんも……怖がらないで出てきたらどうだ?」

「え、娘?」


 すると、茂みはガサガサと揺れ、鼻を摘まんだラビが申し訳なさそうな顔で出てくる。


「ラビ!」

「す、すまんトラジ……助けられなくて」


 二人が知り合いだった事に、ガチムは目を丸くして交互に顔を見る。

「何だ、知り合いか? なら安心して大丈夫。傷はもう治ってるよ」

「ホントか!? ありがとうオッチャン!」

「オッチャンって、これでもギリギリ20代なんだが……ところで、どうして鼻を摘まんでいるのだ?」

「うっ……それは」


 ラビは言葉に詰まりながらも、これまでの事情をガチムに説明していく。


「何? 悪臭で近寄れない?」

「うん」

 説明を聞いたガチムは、腕を組み深く考え込む。

  

「この服を着てから、急に臭くなったみたいで……ってか、ガチムは何ともないのか?」

「……そうだな。話を聞く限り、女にしか効果が無いのだろう」

「なっ!? お、女限定の呪い、やと」

 衝撃の事実に、トラジは顔面蒼白となった。

 さすがに哀れに思ったのか、ガチムは困ったような笑みでポンと彼の肩を叩く。


「ま、まぁそう落ち込むな。呪いを解く方法というのは必ず存在する。とりあえず、俺の知ってる解呪の魔法を試してみよう」

 そう言うとガチムは集中し、何やらブツブツと詠唱を始める。


「え、ちょっと……もしかしてまた」

「……はぁぁ!」

 

 〈バリィ!〉


「おぉぉぉ」

「はぁ、やっぱりまた裸に」 

 珍しいものを見て歓喜の声を上げるラビと対称に、トラジは目の前の逞しい筋肉に頭を抱えた。

 

 ガチムは特に気にする様子もなく慣れた手付き服を直すと、ラビに呪いの確認を促す。


「どうだ? まだ臭うか?」

「うーん……臭い! 全然治ってないぞー」

「くっ、辛すぎる」


 まるで糞便でも嗅ぐような動作に、トラジのガラスのハートはひび割れた。

 早速打つ手は無くなったが、ガチムは思い出したように声を上げ、荷物の中を漁る。


「えーっと確か……あった」


 ガチムは黒いガスマスクを取り出すと、それをラビに放り投げる。

「これは?」

「念のため買っておいたガスマスクだ。着けていれば臭いも防げるのではないか?」

「なるほど!」


 話を聞くなり、ラビは嬉しそうに早速マスクを装着する。

「! ほんとだ! 臭いがしない! 臭くないぞトラジ!」

「へーへー、それは良かったですね」


 臭い臭いと言われ続け、トラジはすっかり不貞腐れていた。

 しかし臭いがしないとはいえ、ずっとこのままと言うのはあまりにも不審者すぎる。


「なぁガチム、他に何か案は無いんか?」

「うーん、そうだなぁ……」

 ガチムは悩ましい声で、腕組みをして考え込む。


 考えている間、のどかな原っぱには鳥が囀ずる。

 バッファローというのに吹き飛ばされたトラジは、崖から町の外に落ちてしまっていたようだ。

 穏やかなそよ風。どこからか聞こえる川のせせらぎ。


 ラビはその心地よさに、いつの間にか昼寝を始めた。

 そしてようやく、ガチムはカッと目を見開く。


「無い! 全くわからんな、ははは!」

「無いなら無いで早よ言え! いつまで待たすねん! ラビ寝とるぞ!?」

「いやぁ、すまん。気持ちの良い場所だったので、つい瞑想してしまっていた。あっはは」

「くそ、他人事やと思って」

 豪快に笑っていたガチムだが、ムスっとするトラジを見て明るく声を掛ける。

 

「まーまー、ゆっくりと解決策を探そうではないか! とりあえず、今日はそろそろ日も暮れるし宿に泊まろう。出来るだけ人通りの少ない場所で」

「……うん、わかった」

 ガチムはニヤリと笑うと、本格的に寝静まったラビを呼ぶ。


「おい、起きろ娘。そんなとこで寝たら風邪引くぞ」

「ふがっ!? なんだ、昼寝の時間じゃないのか?」

「ふふ、寝るなら宿に着いてからにしよう」


 二人はガチムに連れられ、再びラルの町を目指す。

 筋肉質な体で、魔法を使うと全裸になること。これさえ除けば、優しい紳士的な男。

 まだよくわからない男ではあるが、トラジはガチムに対し何となくの信頼感を感じていた。


 ◇


「アルマ様、お体は大丈夫ですか?」

「あ、あぁ……別に大したことじゃない。いささか激臭に襲われただけだ」

「げ、激臭? バッファローにそんな特性が?」

「いや、たぶん違うが」


 あの後、女騎士アルマは何とかバッファローの騒ぎを納めていた。

 バッファローは本来暴れるような獣ではなく、物資の運搬の為に普通に町中に存在する。

 それが最近になり、時々こうして暴走し、騒ぎになることが続いていた。


 騎士団として、ひどく頭を抱える事案。

 しかし今のアルマはその事よりも、激臭を放つ少年の事が気にかかっていた。


 (何だったんだ……あの異様に臭い男は)


 アルマは思い出して身震いをすると、切り替えてまた凛とした態度で歩く。

「屯所に戻り次第、事案の報告を行う……あと、すぐに風呂に入る」

「はっ!」

 アルマと配下の兵士達は倒されたバッファローを移送しながら、ラルの町にある駐屯所に戻っていった。


 ◇


「三名様ですね……ところで、お連れさんのそれは」

「あ、あぁ、気にしないでくれ。彼女は少しばかりその、そと空気に敏感なんだ」

「そうですか。では、こちらの鍵を」

「ありがとう」


 宿屋の主人は年配の男性一人で。

 寂れた雰囲気のためか、他の客の姿はなかった。

 それも、今のトラジにとっては都合が良い。


「ちょうどいい宿があって良かったな」

「まぁな。メイドさんとかおったら終わってたで」

「はは、違いない」


 部屋の中は意外と広く、ちょうど1LDKほど。

 寝室にもドアが付いるので、男女でも問題なく泊まれそうだ。


「広い部屋だなー! ウチいつも野宿だったから、宿に泊まるなんて初めてだ!」

 ラビはくるくると回ったりとび跳ねたり、初めての宿にはしゃいでいる。


「野宿とは……娘さんにはかなり危険なのでは」

「大丈夫だ、コイツはかなり野性的やからな」

「そ、そうなのか」

 さらっと説明するトラジに、ガチムは戸惑いつつも納得した。

 

 それからトラジ達は、途中で買ってきた食料を広げ、食べながらお互いの事を話していく。


「転生者!? まさか、本当に出会えるとは」

 ガチムは転生者であるトラジを珍しげに見つめ、驚いたように口を覆う。

 

「ラビにも同じようなこと言われた。妖精くらいレアなんやろ?」

「あぁ、言い伝えレベルの話だ。でもだからか、その妙な話し方……前の世界の言葉なのだな」

「これはまぁ、関西弁ってゆーか……それより、ガチムは何で旅を?」

「ん? うーんそうだな……特に、これと言った目的はない。強いて言えば、世界を見て回るため、かな」

 ガチムは複雑な表情を浮かべ笑っていた。


「あ、ウチと同じだな! ウチも色んなとこ旅してきたぞ? お陰でもう金は無い!」

 離れた場所で鼻を摘まみながら食べていたラビは、ひょっこり顔を出して会話に入る。

 

「お前は……自信満々に言うことちゃうやろ」

「はは、ラビは底抜けに明るい性格だな」


 パンやら何かの肉を焼いた物やら、あらかた食べ終えた頃。

 ラビは満腹になったのか、早々にベッドで寝てしまった。

 

 トラジと二人になったのを見計らい、ガチムは改めて話を切り出す。


「トラジ、さっき解呪を試みた時のことだが」

「ん?」

「呪いは解けなかったのだが、呪いの正体は知ることが出来たんだ」

「の、呪いの正体?」


 ゴクリと息を飲むトラジに、ガチムは気まずそうな顔で答える。

「それを着ることで、女にだけわかる悪臭を放つ。非モテの呪いと言うらしい」

「ひ、非モテぇぇ!?」

 不名誉な呪いの正体に、トラジは打ちのめされた。

 その様子に、ガチムはまだ何か言いにくそうに口を開く。

 

「あ、あぁ……それとな」

「まだ何かあるんか!?」

 食いぎみに身を乗り出すトラジに、ガチムは冷や汗を流す。


「その……発動条件があるのだ」

「条件……」

「うむ。それは……童貞にしか効果がないのだ」


 恥ずかしそうに答えるガチムに、トラジは言葉を失った。

 スンと感情を失ったような顔は、みるみるうちに真っ赤に染まり、その瞳は怒りに燃えていく。


「非モテ……童貞……」

「と、トラジ?」

 ブルブルと拳を震わせ呟くトラジに、ガチムは恐る恐る声を掛ける。

 

「シバく!! あの露天のオッサン……見つけ出して絶対にシバく!! ほんで、地獄の底に突き落としたるんや!!」


 立ち上がりテーブルを叩きつけるトラジは、すっかり復讐の鬼と化していた。


「お、おう……出来る限り、協力するぞ?」

「当たり前じゃ! これは……どうて、じゃない男のプライドを懸けた戦い! 絶対に負けられへん。明日朝イチで情報収集行くからな!」


 童貞の逆鱗に触れたガチムは、ただ怯えたまま首を何度も縦に振った。

  

 

 


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