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2話 はち切れる修道着

《登場人物紹介》


トラジ(20)

主人公。お気楽関西人。アホ。1日1回ツッコまないと死ぬ縛り(本人はまだ気付いていない)

マヨネーズをこよなく愛し、指先からマヨを出すスキルを持つ。


ラビファー(15)

通称ラビ。うさ耳獣人の少女。

金も住む場所も無い、放浪の野生児。

身体能力、聴力が異常に高い。

マヨネーズ中毒者。


【ラルの町】

 

 記念すべき異世界初めての町だ。

 

 しかしトラジは、蔦のパンツ一丁で全身滝のような汗を流し息を切らす。

 ウサ耳少女ラビは、そんなトラジの背中に覆い被さり、マヨネーズ欲しさに多量のヨダレを垂らしていた。


「はぁ、はぁ……お前、しつこすぎっ」

「だって〜、マヨ美味しいんだもん。ボロじゃない服買ってやるからさ〜、もっと出してくれよ〜」

 ラビは膝を着くトラジの腕を無理に引っ張り急かす。

 

「もう無理……はぁ、ちょっと、ゆっくり歩け」 

 トラジは息を切らしながら、半ば諦めてされるがまま付いていく。

 

 パッと見かなり目立つ二人組ではあるが、この町の人々は特に気にも止めない。

 町中を見渡すと、そこらじゅうに露店が並びかなり活気がある。


 道には馬車が走り、ラビと同じく耳の生えた獣人や、羽の生えた透き通るような白い肌の人々が普通に行き交う。

 栄えた町のようだが、その風景は明らかに現代のものではなかった。 


 (何これ……マジでゲームの世界や)


「ひひ、そんな珍しいか?」

「あ、当たり前やろ! こんなん、大阪じゃあり得へん……」


 声を荒げ、トラジはキャパオーバーしそうな目の前の光景に釘付けになる。


「でも楽しそうだぞ? トラジ」

「えっ」

 ラビに指摘され、トラジは無意識にニヤける自身の口元に触れた。

 

 目前に広がる未知の世界に対する驚きや恐怖よりも、明らかに好奇心がそれを上回る。

 この町に来て、トラジは胸の高鳴りを感じていた。


 トラジに釣られるように、ラビは楽しそうに彼の腕を引っ張る。

「あ! あそこの露店、服が売ってるぞ!」

「うわっ、引っ張んなって!」


 連れて行かれた先は、サングラスに髭を蓄えた見るからに怪しげな店主の露店。

 様々な冒険者っぽい服が吊り下げられているが、どれも装飾の付いた高そうな見た目だ。


「……いらっしゃい」

「ど、ども」

 (わぁ〜……絶対ボラれるやつ。まぁ、金なんか無いけど)


 怪しげな店主から目を逸らし良からぬ事を考えていると、ラビはお構いなしに並んだ服を手に取る。

  

「50万ギル!? うぅ、どれも高すぎて買えん……なぁ、今はアレの実しか無いんだけど、これ売った金で買える服ってどれだ?」

 ラビが取り出したさくらんぼ程の果実を手にした店主は、サングラスを上げてじっとりと見つめる。

 

「アレの実? ほぉ、これは質が良い。そうだな……では、これなんてどうだい?」

 ニヤリと笑った店主は奥に置かれた大きなトランクを開け、一着の服のセットを取り出す。


「おぉ〜、カッコいいじゃん! トラジ、これにしよう!」

「え、まぁいいけど……それも結構高いんちゃう?」


 出された服は、黒を基調に背中に大きな黄色の紋様が付いたフード。

 見た目は悪くないが、これが小さな木の実の金で買えるとは到底思えない。


「心配ご無用。ちゃんと料金内で購入できます。今なら上下セット、靴も付いてますが?」

「ホントか!? じゃあそれ買った!」

「へへ、まいどあり〜」


 ラビは鼻息荒く声を上げ、アレの実と引き換えに店主から服をむしり取る。

 その瞬間、店主のサングラスの奥が僅かに光った事に、トラジたちは気付かなかった。


 ――――


「お、似合うぞトラジ!」

「そうか? けど、オマケでパンツも貰えたし、あの怪しいオッサンに感謝やな!」

 トラジは久々の服に身を包み、満足げに体を動かして自分の体を見る。


「全く、オッサンじゃなくてウチに感謝しろよな? ……うっ」


 腰に腕を当てて不貞腐れていたラビは、少し間を置いてしかめっ面で鼻を摘まむ。


「あぁ? どうしたん?」


 トラジは様子がおかしくなったラビに近づく。

 するとラビはピョンっと後ろに飛び跳ね、物陰に隠れてしまった。


「く、来るな!」

「な、何や急に」

 突然に拒絶され、トラジは訳もわからずラビに歩み寄る。

 すると、ラビは嫌悪感に顔を歪めて呻く。

 

「……く」

「く?」

「くっさーーい! めちゃめちゃ臭い! それ以上近づくな! 鼻が曲がるー!」

「な……何ぃぃーーーー!?」


 (く、臭い!? 女子に、臭いって言われた……俺はガサツやけど、体臭は人一倍気にしてきた。口臭ケアに制汗スプレーは欠かさへん。無理してブランドの香水も付けて……あの努力の日々が、こんなにも簡単に崩れるなんてっ! というか、何で急にそんな悪臭が)


 白目を向いたまま絶望に飲まれるトラジ。

 混乱の中思い当たるのは、どう考えてもコレしかなかった。


「……もしや、この服が」


 思い当たり腕の部分を嗅いでみるが、多少古くさい臭いがするだけ。

 気になるといえば気になるが、これが鼻が曲がるほど臭いとは思えない。


「やだっ、何この臭い! おえぇ」

「あの人じゃない? 全く、何日風呂に入ってないのかしら! 信じられない……絶対モテないわよ」


 考えている間にも、周囲の女性は口々に嫌悪感を示す。

 トラジは挙動不審に辺りを見回し、更なる絶望の谷に突き落とされる。


「うぉぉぉ……く、くそぉ、こんな服のせいでっ」


 泣きわめきながら服を脱ぎ捨てようとするが、何故か体が固まり脱ぐことが出来ない。


「な、何で!?」

 動揺してバタバタともがくトラジに、怪訝な表情で観察していたラビが声を掛ける。


「……それ、もしかして呪いの装備なんじゃ」

「の、呪いやとぉ!?」

「くさっ!? もう、寄るなって!」

 興奮して詰め寄るトラジを、ラビは腕を伸ばし必死に牽制する。


 (くぅ……こんなガキンチョにまで邪険にされてっ)


 トラジは情けなく涙しながらギリギリと歯を食い縛った。


 〈ブルァァァァ!〉


「な、何やこの音!?」

 

 突然聞こえた猛獣の雄叫びのような声。

 それと同時に地響きが徐々に近づいてくる。


「逃げて! 道を開けてー!」


 切羽詰まった叫び声の方を見ると、頭の横に鋭い角の生えた巨大な牛のような動物が猛スピードで迫っていた。

 そしてその後ろには、荷台で牛をコントロールしようと必死で手綱を引く男の姿。

 しかしそんな程度で暴れた猛獣が止まるはずもなく、男は振り落とされそうになっていた。


「おわっ!? ラビ! 逃げるで!」

「いやぁ! 来るな!」

「あーもう! ええから早よ走れ!」


 猛獣から逃げているのか、トラジから逃げているのかわからないが、ラビは喚きながら前方に走った。


 (って、全然アカン! 追い付かれるっ)

 

 あと数メートルと迫った時、突然猛獣の足音が止まる。


 〈……ボォフゥン〉

 

「男、大丈夫か!? 今のうちに離れろ!」

「は、はいぃ!」


 呆気に取られて振り返ると、一人の騎士が剣を手に猛獣の前に立ちはだかっていた。

 騎士の前には赤い揺らぎのような壁が現れ、猛獣はそれにぶち当たり戸惑っているようだ。


「すげぇ……ってか、女?」


 鎧に身を包んでいるが、聞こえたのは女の声。

 それに、後ろに結んだ緑の髪は腰の辺りまで伸びていた。


「君も、早く離れて。出来るだけ遠くに」

「あ……はい」 


 女騎士は後ろを振り返り、立ち竦むトラジに声を掛ける。

 トラジは唖然としつつも、彼女の目を見て返事をした。


 が、それがいけなかった……


「うぅっ!? くっ……」

「えっ……どうしたん」

「くっせーーー! 何この臭い!! うぇぇぇーー、マジ無理〜〜!」

「えぇぇーーーー」


 女騎士はさっきまでの凛とした態度から考えられない口ぶりでその場に崩れる。

 その隙を見逃さず、猛獣はまた迫力を取り戻しトラジに向かい飛び込んできた。


「ぶふぅぅ!」

「と、トラジぃ!!」


 ぶつかられたトラジは、天高く吹き飛ぶ。

 ラビは悪臭のせいで物陰に隠れたまま、ただ彼の名を叫んだ。


 (あぁ……俺また、死ぬんか)


 フワリと宙を舞いながら、トラジは走馬灯を見る。


 小学生の時、好きな子の前で鼻から牛乳を吹き出した事。

 中学の時、初めての遊園地デートで女子に撒かれ、何も知らず閉園時間まで待ちぼうけた事。

 アホな兄の顔、もっとアホな弟の顔……そして、分厚い胸板……


「あぁ? 胸板?」


「少年……少年! 大丈夫か!?」


 低い男の声と、目の前に広がるムワっとした空気と鍛え抜かれた胸筋に、トラジは瞬きを繰り返す。


「良かった! 目が覚めたのだな……今治療してやるから」

「え」


 男はトラジを横たわらせ、目を閉じて両手をかざす。

 何かぶつぶつと小さく唱えた後、男はカッと目を見開く。


「……ふぅん!」 


 〈バリィ!〉


「えぇー!?」


 気合いを入れた瞬間、男の着ていた修道着は弾け飛ぶ。

 一瞬にして全裸になった男に、トラジは露出狂に出会った時のような声を上げた。


「おお! 治ったようだな。念のため、傷の状態を見せてくれ」


 男は褐色の肌に、全身筋肉質。金髪のダンディーな顔立ちだが……全裸だった。

 トラジは木の幹に追い詰められ、ブルブルと身を震わせ悲鳴を上げる。


「キャーーーー! 変態よーーーー!」

 

 

 

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