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25話 賑やかな夜


「マリア、そのお肉食べないのか?」

「え? あぁ、良かったら食べる? ラビちゃん」


 宿の一室。

 ガチムに誘われ同じ部屋に泊まることになったカズキたちは、ラビの提案で皆で食事を囲んでいた。

 

「いいの!? わーい! トラジ羨ましいだろー? マリアが肉くれたー」

「ふん、別に羨ましないわ……ところでマリアちゃん、彼氏とかおらへんの?」

「えぇ?! い、いいいいませんよ!」

「ふーーん。じゃあ俺なんかどぉよ。おもろさには結構自信あるし、退屈はさせへ」


 マリアにくっつこうとするトラジを、カズキは首根っこを掴んで引っ張る。


「ちょ、ちょっと! セクハラはやめてください」

「ぐえ……おま、何すんねん! それにセクハラとは失礼な! これは、ナンパや!!」


 トラジは拳を握り自信満々に大声を上げる。

 その瞬間、彼の脳天にドンと鈍い衝撃が走った。


「いっ……でぇ」


 ガチムに拳骨を落とされ、トラジは大きなたんこぶを腫らしてうずくまる。

 

「堂々と馬鹿を言うな。すまないなマリアさん。この男は、本当に困った奴なんだ」

「そ、そこは、フォローするところちゃうんか……ぐっ」

 トラジは死に際の一言を放ち、そのままパタリと倒れ込んだ。


 三人の旅は突如賑やかなものとなり、カズキは目の前で繰り広げられる一連のコントに呆気に取られていた。

 

 (こいつら……個性がありすぎる!!)


 トラジ一行の濃いキャラ設定に、カズキは軽い目眩を起こしそうだった。

 人見知りの陰キャには到底捌ききれない。そう思ってマリアを見ると、彼女は目に涙をためて笑い転げていた。


「く、味方がいねぇ」


 肉を貪るウサミミ少女と紳士的で筋肉質な修道士、そして床に転がる馬鹿の死体。

 それらを一瞥し、カズキは一人足りない人物をキョロキョロと探す。


「……あの、俺ちょっとトイレに」

「あぁ、ここは部屋の外にあるんだ。案内しようか?」

「いえ、大丈夫です。じゃあ」


 ガチムに声をかけて部屋を出、カズキは廊下を見渡す。

 人の気配を探りながら宿の外に出ると、屋根の上で寛ぐヴィアロの姿が見えた。


 (あいつ、あんなとこに)


 カズキは軽くため息を吐き、大声でヴィアロに呼び掛ける。

 

「おーい、部屋に行かねぇのか?」

「あ? 何だよ……別にいいだろ。こっちのが広いし」

 

 ヴィアロは面倒くさそうにカズキを見下ろし、また夜空を見上げた。 

 彼の協調性の無さにムッとしつつ、カズキは壁に立て掛けてあった梯子を登っていく。


「うわ……結構高ぇな」

「お前さ、怖いなら登らなきゃいいだろ」

 ヴィアロは文句を言いつつ、小鹿のように震えるカズキの腕を引っ張り上げた。

「へへ、サンキュ」

 ひくひくと笑いながら屋根に座る男を、ヴィアロは怪訝な顔で見つめる。


「お前、飯食ってないんじゃ」

「いんや、食ったぞ。あの大男の隙を見てくすねたから」

 当然のように話ながら、ヴィアロは片手に持った果物を噛った。


「……どこまでも犯罪者思考なヤツめ」

「どうせ食わせるつもりだったんだ。何も問題はない」

「へーへー、そうですか」


 カズキは不貞腐れながら空を見上げる。

 半分の月は雲に隠れ、その周囲はぼんやりと明るい。


 (月は……俺の世界のものと一緒なんだよなー)


 ポカンと口を開けるカズキを横目に、ヴィアロは無愛想に話しかける。


「そういや……あの男、お前と同じ転生者ってやつなんだろ?」

「ああ、どうやらそうらしい。妖精くらい珍しいって話だけど、もう他の転生者に出会うとはな……しかも、コテコテの関西人」

「あいつも、お前みたいに変な技使えるのか?」

「知らん。でもあのジジイが転生させたんなら、どうせしょうもない技に決まってる」 

「ふーん」

  

 (あいつだけカッコいい魔法が使えるなんて、考えたくもないね!)


 カズキの嫉妬に近い決めつけは、だいたい正解だった。


 同じ頃、宿の部屋では満腹になったラビがベッドの上で大きなイビキをかいていた。


「ふふふ……気持ち良さそうに寝てる」


 ドアの隙間から寝室を覗き、マリアはクスクスと声を上げる。


「マリアさんも、疲れているなら休んでいいぞ」

「いえ、私はまだ」

「そうか」


 ガチムは食事の片付けをしながら穏やかに微笑む。

 マリアは彼の身なりをじっと見つめ、おずおすと口を開く。


「あ、あの……ガチムさんはピスティス出身なんですか?」

「ん? そうだよ。あ、もしかして服でわかったかい?」

「えぇ。有名な教会のものでしたから」


 話ながら、マリアは椅子に腰かける。

 片付けを終えたガチムも、気まずそうな笑みを浮かべて腰を下ろす。


「戻るつもりはなかったのだがな……少し事情が出来てしまって」

「そうなんですか」

 マリアは彼の表情を察し、それ以上聞くことをしなかった。


「ふっ、気を遣わないでいいよ。それより、マリアさんも教会の方なのかな? シスターだよね、その服」

「あはは、まぁ……田舎の小さな教会で、お父さんが始めたんです」

「そうなのか。でも、信仰に大きい小さいもないよ。どれも誰かを支える、尊いものだからね」

「はい、ありがとうございます」


 ガチムの言葉に、マリアは頬を赤らめ恥ずかしそうに微笑む。

 穏やかな空気が漂う中、一人の男がゆらりとガチムの背後に迫った。

 

「ガチム……お前、人のこと殴り付けて自分だけいいところを」

「なっ、トラジ!? あはは、目が覚めたか」  

「目が覚めたかちゃうわ! 毎回人の頭をポンポンポンポン叩きやがって」


 トラジは目をつり上げて頭頂部のたんこぶを擦る。

 二人は苦笑いを浮かべ、怒れる虎を必死でなだめた。


「だ、大丈夫ですか? そうだ! 私、紅茶淹れましょうか?」

「それはいいな! ほらトラジ、座って座って」

「む……まぁ、そんなに言うなら」


 トラジはポッと頬を赤らめ、目を逸らしながら椅子に座る。


「……ふ、単純なヤツめ」 

「あぁ? 何か言うた?」

「い、いやぁ? はははは」 

 

 まだ微妙に不機嫌なトラジの前に、マリアは用意した紅茶を置く。

 ふわりと香る湯気を全て吸い込み、トラジは満面の笑みを浮かべた。


「いい匂い……あいがとう! マリアちゃん!」

「い、いえ、どうぞ……」

「いっただきまーす!」

 トラジはタコのような唇で紅茶を啜る。

 ちょうどその時、がちゃりと部屋のドアが開いた。


「……ただいま」

「あ、カズキにヴィアロ……もう、遅かったじゃない!」 

「すまん、こいつのこと探してて」


 ヴィアロはふてぶてしい様子で部屋を見渡し、トラジの顔を見てあからさまに表情を曇らせた。


「おい、何だあの気持ち悪い男は」

「うっ……唇やべぇな。あんま見ないようにしようぜ」


 ヒソヒソと小声で話しながら、二人はトラジをチラチラと見る。


「はぁ〜、おいちかった! ん? 何や、見せんもんちゃうぞこら」

「み、見てませんってば……」


 トラジは怪しげな視線を送り、品定めするようにカズキにガンを飛ばした。


「お前……ちょっと面貸せや」

「えぇ!? な、何でですか」

「えぇから、来い!」

「ひぃぃ」


 トラジに首根っこを掴まれ、カズキはズルズルと引きずられ部屋の外に消えていった。

 おろおろと見つめるマリアをよそに、ヴィアロは大口を開けてあくびを溢す。


「ふぁぁ〜、俺もう寝るわ」

「えっ、ちょっと! カズキは?!」

「知らね。お前も早く寝ろよ〜」


 後ろ手にヒラヒラと手を振り、ヴィアロは寝室に消えていった。

 ガチムはポンとマリアの肩に手を置き、彼女に哀れみの目を向ける。

 

「大変だな、お互い」

「うぅ……」 


 ほんの数時間でどっと疲れてしまったガチムとマリア。

 倍に増えてしまった個性的なキャラに振り回され、二人は何ともいえない不安に駆られるのだった。

 

  

 

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