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13話 炸裂ゆるキャラ戦法

前回のあらすじ


非モテの呪いの元凶、アスモデウス7世と対峙するトラジたち。

苦戦の末追い詰めたと思った矢先、アスモデウスに魅力された女たちが立ちはだかる。

頑丈なマスクを付けた女たちに、トラジの激臭は通じない。

完全復活したアスモデウスを前に、トラジは打つ手なく膝をつく。

そんな時、能天気な天然うさ耳少女が彼の肩を叩いた。




「だから、ウチならねーちゃんたちのマスク、すぐに外せるって言ってんの!」


 ポカンと口を開けていたトラジに、ラビは少しイラッとしたように念を押す。

 その声に、トラジの瞳はみるみる輝きだした。


「ふ、ふふふふ……」

「ど、どうした? おかしくなった?」

 俯いて含み笑いを漏らすトラジに、ラビは怯えた様子で声をかける。

 すると、トラジは勢いよく顔を上げ、女たちに向け指先を突きつけた。


「やってまえラビ! あの女人どものマスクを全部剥ぎ取るんや! ひとつ残らず!」

 威勢のいい命令に、ラビは嬉しそうにニヤリと笑う。


「アイアイサー!」


 ラビは満面の笑顔で敬礼し、トントンとその場で足を鳴らす。

 一瞬腰を低く屈めると、風を切るように猛スピードで駆け抜けていった。


 ラビの姿はほぼ肉眼で追うことは出来ない。

 残像のような影だけが、取り囲む女たちの間をすり抜けていく。


「きゃっ! 何!?」

「マスクが!?」


 わずか数秒後、次々に聞こえる女たちの悲鳴。

 現場はあっという間に大騒ぎになった。

 そして次の瞬間、女たちの前に立ちはだかったトラジによって、その悲鳴は嘔吐に変わる。


「うげぇぇーーー!! くっさ!!」

「おろろろろろろ」

「み、皆! 一時撤退よーー!」


 蜘蛛の子を散らすように逃げていく女たちに、アスモデウスは一人狼狽えていた。

 

「な、なんで急に!? 待ってよ皆ーー!」

 アスモデウスは一人になった途端、挙動不審にあたりを見渡す。


「ふっ、邪魔者は去ったな」

「お前……泣いてないか?」

 腰に手を当て堂々と立つトラジの後ろ姿を見つめ、ガチムは冷ややかに呟くのだった。


 自身の作り出した呪いによって、窮地に陥ったアスモデウス。

 その頭の上に、ラビが飛び乗り両角を握る。


「くっそ、何だ貴様!! 邪魔だどけぇ!!」

「トラジ、あの新しい技をやってみろ!」

「あぁ! 危うく忘れるとこやったわ!」


 ラビの呼び掛けに、トラジは思い出したように両手を突き出し構える。

 そのまま神経を集中させ、これまでのアスモデウスの挙動を考察していく。 


 (あのクソデブ! あんな陰キャ丸出しの身なりと喋りのくせに、女人に囲まれやがって羨まし……いや、待てよ? そう言えばあいつ、女人と全然目を合わせてなかったな。こんなハーレム作っとるのに、妙な距離感があると言うか違和感が……) 


 その間わずか数秒。トラジはカッと目を見開く。 


「見えた!! ゆるキャラネーム……ド陰キャCherry魔神ーーー!!」


 トラジの叫びと共に、両掌からは眩い閃光が放たれた。

 閃光がアスモデウスに当たる直前、ラビはヒラリと飛び降りトラジのもとに戻る。


「よっと」

「ギャーーーーー!!」

  

 アスモデウスは光に包まれ、下劣な叫び声を上げる。

 そして、その巨体なシルエットは、みるみるうちに小さく縮んでいく。


「や、やったのか!?」

「やめろやガチム、それはやってないフラグやぞ?」

「あ、見て見て! 何か出てくる!」


 〈ピロリロリーン〉


 光が晴れると同時に、トラジの服から突然軽快なリズム音が鳴る。


「な、何や今の音」 

「見ろトラジ! ヤツの姿が!」

「あぁ? いや、なんか俺の服がさぁ」

「はーやーくー!」

「あぁ! もう引っ張るなって!」


 ラビに引っ張られて行くと、そこには30センチほどの姿になったアスモデウスがちょこんと座っていた。

 その姿はまるで、棚に飾られたぬいぐるみのようだ。


「な、ぬぁ……何じゃこりゃーーー!?」

 いつか見た刑事ドラマの殉職シーンさながら、アスモデウスは目を見開き悲鳴を上げた。


 紫色のボディはそのままに、丸く分厚い眼鏡に申し訳程度の金髪と角。 

 こぢんまりとしたフォルムのせいか、でっぷりと突きでた腹すら何故か愛らしい。

 しかしそれは、誇りあるアスモデウス7世にとって大層屈辱的な姿であった。


「すげぇ! ほんまにぬいぐるみ……いや、絶妙にクオリティーの低いゆるキャラや」

「あははは! 面白い顔ー」

「うーん、信じられん。このような術は初めてだ!」


 興味津々の3人に囲まれ、アスモデウスは唇を震わせながら恨めしそうに見上げた。


「くそ、貴様! ボクチンにいったい何をした!」

 アスモデウスはバタバタと短い手足を必死に動かす。

 激怒する声も元の姿の時よりトーンが高く、小物感が漂っている。


「ふん、可愛らしいゆるキャラにしたったんや。感謝してもらいたいくらいやなぁ」

「ゆ、ゆるキャラ!? 何だ、それは」


 その時、困惑し汗を流すアスモデウスの元にぞろぞろと足音が近づく。


「ここどこ? 私たち、何でこんなとこにいるんだろ?」

「さぁ……それより私、早く帰って旦那のご飯作らなきゃいけないのにー」

「私も! というか、今何時?」

「暗くてわからないわ。それに異常に湿っぽいというか」


 トラジの激臭に逃げていった女たちは、それぞれ不満を口にしつつ歩いてくる。

 彼女たちの様子は先ほどとは違い、戸惑ってはいるものの自然な表情だ。

 

「ふがっ!? 魅了が解けてる! 何で!?」


 ひとり慌てふためく姿に、ガチムはハッと何かに気付く。


「そうだ。確か神は、何も出来ないただのマスコットに変える魔法だと……トラジ、やったぞ!」

「あぁ?」

 声を弾ませ振り向くガチムに、トラジは間抜けな返事を返す。 

「非モテの呪いは、たぶんもう解けているはずだ!」

「なっ……マジか!?」


 ガチムの意見を肯定するように、女たちが近づいても何のリアクションもない。

 それどころか、一人の女はトラジに声をかけてきた。


「あ、すみません、ちょっとお聞きしたいんですが」

「えっ……お、俺ぇ?」

「ん? えぇ、何か変な事言いました?」

 トラジの挙動不審な様子に、女は怪訝な表情を浮かべる。

 そんなことなど関係なく、トラジは一人喜びを噛み締め、一筋の涙を流していた。


「うぅ……やっと、普通に戻れたっ」

「えっ、何で泣いてるの?」

「ま、まぁまぁ。こちらのことだ、気にしないでくれ」


 困惑する女に、ガチムはそれとなく事情をごまかした。

 紳士的な修道士の存在に安心したのか、女は表情を和らげる。


「皆さんの事は、俺たちが町まで案内しますよ。しばらく歩きますが、付いてきてください」

「まぁ嬉しい! それは助かります!」


 ガチムは女たちをエスコートするように手を差し出す。

 不安な表情を一変させ、女たちはホッとした顔でガチムに続いて歩き出した。


 トラジは呆然とし、女たちの集団を静かに見送っていた。

 その時、突然後ろから何かが勢いよく飛び付いてくる。


「わぁ!?」

「トラジーー!!」 

「ら、ラビ!? ちょ、なんやねん! 重たっ」


 トラジの背中に抱きついたのは、ガスマスクを外したラビだった。

 ラビは嬉しそうに頬擦りをしながら、手足をガッチリとトラジの体に絡める。


「にゃはは! 変な臭いしない! 汗くさいだけだーー」

「あ、汗くさいの!? まぁ、風呂も入れてないしな」

「へへへ、トラジの匂いだー」


 無邪気に首筋の匂いを嗅ぐ少女に、トラジは頬を赤らめそっぽを向く。

 トラジは恥ずかしそうに口を尖らせながらも、少女の体を振り払おうとはしない。

 まるで子供をあやすように、なすがまま、しばらくユラユラと体を揺らしていた。


「……ふん、ガキ」

「トラジ、何か言った?」

「別にー? ってか、いい加減離れんかい!」

「痛い! もう、放り投げるなよー……ってあれ?」

「先行くでー」

「あぁ! 待てよトラジーー!」 


 トラジはラビを振り落とすと、アスモデウスの頭を鷲掴みにし駆けていく。

 その背中を追うラビは、追いかけっこを楽しむように時おり嬉しそうに跳ね回っていた。

 

「こ、コラ! どこを掴んでいる!? 離せぇーー、小僧ーー!」 


 ギャーギャーと騒ぐ『ド陰キャCherry魔神』の声は誰にも響くことはなく、湿った地下道に吸い込まれていくのであった。


 ◇◆

 

「……くだらん」


 男は玉座で呟いた。

 青年のようだが、その声からは暗く、淀んだ空気が醸し出されている。


「あの技も、所詮はジジイの悪あがきか……あんな見るからにアホそうな男にやられるとは、ヤツも大した男ではないな」


 立ち上がった男は長く垂れるマントを翻し、月明かりが差す窓に近づく。

 巨大な城から見下ろす景色は、男にとっては見慣れた漆黒の世界。

 配下の魔物たちが働く姿を、男は心底退屈そうに視線で追う。


「魔王様、失礼いたします」

「……なんだ」

 魔王と呼ばれたその男は、無表情で声の方を振り返る。

 

 腰まで伸びる長い髪。黒く染まり、瞳は赤く鋭く光る。

 地獄の底のような暗い空気を纏う男は、今この異世界を支配しようとする魔王と呼ばれる存在そのもの。


「あ、アスモデウスの魔力が感知できません! どうやら、何者かにやられ」

「知っている。いちいち騒ぎ立てるな」

「も、申し訳ありません」


 魔王は玉座に座り直すと、報告者を静かに見下ろす。


「ヤツがどうなろうと、大した問題ではない」

「ですが、アスモデウスの能力は……モンスターの暴走に不可欠でして」

 報告者の魔物は、畏れながらも意見する。 

 

「代わりはいくらでもいる。それと、ヤツの能力はもう――コピー済みだ」


 魔王がパチンと指を鳴らすと、報告者は突如表情を変えて立ち上がる。


「……失礼いたしました」


 魔物は何かに操られたように無表情になると、静かに王の間を後にした。


「そろそろ……ピスティス(大陸)の方が気になるな」


 玉座で足を組み、魔王はひとり顎を擦りながら意味深な言葉を口にしていた。

 信仰心の強い地方、ピスティス大陸。

 魔王の次なる目的は、どうやらそこにあるらしい。



 


 

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