簡易裁判
「ハッ、ジュリア紅団長。こちらの暴行犯を連行しようとしていたところでして」
「ああ、それで?彼は、そのカバンが自分のものだと喚いているが」
「ですが、こちらの彼が自分のものだと…」
「窃盗というのは、窃盗犯も所持者も『自分のものだ』と言い張るものだ。所持者を明確にする最もわかりやすい方法は中身の確認だが、それは行ったのかね?」
「それは…いえ」
「なぜ?」
「そちらの彼が、今にも殴りかかりそうでしたので。目の前の事件の解決を優先させました」
おい。たしかに上にのしかかりはしたけど、それは自分の荷物を奪い返すためだぞ。
「…彼はこう言ってるが、君はどうなのかね?」
「…正直、返す気がないなら多少の暴力もやむなしと考えていた節は否定しません。自分は国籍を持たない旅人なので、現地のそういう機構には頼りにくいのです」
「ほう?」
正直、ここは全部バカ正直に言ったほうがいい。印象は悪くなるだろうが、逆に言えば嘘をついていない印象を与えることができる。
「それに、見ての通り私は杖を持っていますので。得物があるのにわざわざ拳は使いません」
「…ふむ」
「ですがジュリア紅団長、ヤツが街中を派手に駆け回っていたという証言もあるのです」
「ほう?」
「たしかに迷惑はかけましたが、そうでもしなくては犯人を見失うところだったのですよ」
彼に見られて、私が答える。
一つ唸って、ジュリアさんはひったくり犯からカバンを取り上げた。
「このカバンの持ち主の精査がまだだったな。それで?中にはいったい何が?」
くるり、と私とひったくり犯、両方を眺める。ひったくり犯が私を見て、せせら笑うように言った。
「言ってみろよ、『持ち主』なんだろ?まあ言えないと思うがな」
…なんとなく予想できたけど、私の言ったことをそっくりそのまま言うつもりだなコイツ。見事に性根が腐ってやがる。
でもまあ、何も言わないと周囲の一般市民や一般警官から「やっぱこいつ犯人じゃね?」的な扱いされそうだし、素直に言っておくか。
「…私のペットですよ。ふわふわの白い毛皮と赤い目が可愛いんです」
「なに?なんでお前が中身を知ってやがる!中にいるのは俺のペットだ!」
ほーれ言わんこっちゃない。案の定同じことのオウム返しだ。
ジュリアさんは一つ頷いて、カバンを開けた。
ぴょこりとゆきうさが顔を出す。
「ふむ…言い分は同じか。でも特徴をよく捉えている点は、そちらの白い彼のほうが優勢かな?」
「なっ…!」
へえ、存外良く聞いてるんだね。「白い」とは言っても私のこと色眼鏡で見ないし、もしかしてこの人デキる人?
「ちなみに、もう少し何か言い分はあるかね?二人とも」
「それは、だって、それは俺のだよ!!」
「それは聞いている。もっと客観的なことはないのか?」
「じゃあ、もっとよく見てみろよ、中身を」
なんでこいつ余裕綽々なんだろ。
そうぼーっと思ってたら、ゆきうさとカバンの隙間から、何かカードが出てきた。
は?何あれ。私の冒険者カードじゃないな。
「ホラ見ろ、俺の市民証だ!!」
おっとまずいな。逃げてる途中で入れたのか?こいつ、意外と頭回りよる。
…まずいな、周囲の空気が私不利な方向になり始めた。
「ふむ…たしかに、役所に行けば確認は取れるだろうな。それで?」
「はい?」
「白い君は、何か反論は無いかと言っている」
「……」
ちょっとまって、今証明方法考えてるから。
「何もないなら、君を窃盗犯兼暴行犯として逮捕するが」
「…この街の、出入り記録」
「うん?」
「あ?」
周囲の人の目がみんな点になった。ジュリアさんの眉毛がピクリと動く。
「本日未明、私はここ、クライシェンカに到着しました。その時、ここ、王都に入る際、私の手荷物や身元の確認をした職員を呼んでください。今日の担当は何人もいるでしょうが、私は見てのとおり目立つので、強烈に印象に残っているかと」
「ほう…」
ひったくり犯が息を呑む。周囲の人がざわめくのを、肌で感じた。
「また、私はマルキアという街にしばらく滞在していました。あそこは小さい街ですので、街中の人が私と、そのペットが共に行動しているのを見ているはずです」
「そんなの、」
「口裏を合わせればどうにでもなる、と?しばらく滞在した街の人々はともかく、今日会って、事務的な内容のみを話した職員とも?」
「ッ……」
ひったくり犯が顔をしかめる。
ざまあみやがれ、即席の言い訳としては割と完璧じゃない?
「…では、この身分証は?君はどう説明する?」
「さあ?逃走中にでもカバンの中に放り込めばいいんじゃないですか?」
「それで?…君は、他に反論はあるかね?」
そう、ジュリアさんがひったくり犯に問いかける。そいつは顔を真っ赤にしてブルブル震えるだけだ。
と、思えば、こっちを指さして怒鳴り散らかしてきた。
「お前、嘘ついてんじゃねーよ!その荷物は俺のだっ、そのカバンは俺のだ!!どんなにベラベラ喋ったって、結局、物的証拠は一つもねーじゃねえか!!」
「あのねえ、」
「たしかに彼の根拠は、現段階だとかなり弱い」
「ちょっと???」
私を遮ってジュリアさんが何か言うから、どんな擁護をしてくれるのかと思ったら、おい。
「だが、彼の言った全員と辻褄が合えば、それは強固な証拠となり得る。彼が言ったこと以外に辻褄が重なる部分があれば、なおさらだ」
「そういえば、今日は冒険者ギルドにも立ち寄りましたねぇ」
「なるほど?応対した職員にも話を聞いても?」
「どうぞ?私は困りませんので」
手錠を揺らしてどうぞと両手を開く。
てかいい加減外してくんないかな。容疑だいぶ晴れてるでしょ?
「いい加減にしろッ、デタラメもいいとこだ!!」
「彼は随分論理的に話している。これがデタラメなら、我々は犯罪組織の存在を疑わなくてはいけない」
「ああ、それと」
そうだ、忘れてた。とっておきの、カバンの持ち主の証明方法。
「そのカバン、今は魔法を切っていますが、『無限収納』の効果を持ってるんですよね」
その飾りの部分、場所を変えたら誰でも魔法が発動できてしまうので、扱うならば丁重にお願いしますよ。
ダメ押しの証拠、最後の一押し。
ここまで証拠を積み重ねた上で、更に持ち主でしか知らないであろう情報の提示。
誰から見ても、どちらが持ち主かは、もう明らかだろう。




