彼は名奉行…名奉行?
結局、お縄になったのはひったくり犯だけ。
私はいろいろと迷惑をかけたけど、さっき私が言った旅人云々の言い訳が効いて、多少の注意のみで無罪放免。
まあ、実際手錠までかけられたわけだしね。連行寸前だったし。
「ほら、取れたぞ」
「ありがとうございます」
わぁい、手首が自由だあ。
…できれば二度と味わいたくない感覚だわ。非常に不愉快。
「…本当に、ありがとうございます」
「うん?ああいや、部下の不祥事だからな」
「いえ…この見た目ですからね、あのようなこともよくあります」
改めて、人種差別の根深さを知った。アメリカとかで警官が黒人を殺したりっていう事件もあったしなあ。治安を守る警察官が差別を持ってると、こういう厄介な事例が出てくるのよね。
「ジュリアさん、と言いましたか?何かお礼を…」
「いや、むしろこっちがお詫びをしなくてはいけない。部下が勝手なことを、申し訳なかった」
「いえ、そんな!」
頭まで下げてくれるの!?すごい、こんな人もいるんだなぁ…
いや当たり前か。日本人にいろんな人がいるように、この街にもいろんな思想の人がいて当たり前だわ。誰もが当たり前にあたたかいマルキアが特例なだけで。
「さっきも言いましたが、こんな見た目なので、色眼鏡で見ないほうが珍しいんです。私も、ペット惜しさに誤解を招くようなことをしてしまいましたし…」
「いや、ペットに愛情があるならあそこまでして当たり前なんだ。人によっては家族同然なものだし…不当に奪われたなら、頭に血が上っても仕方ない」
おお、本当にいい人だ。
「…まあ、ほぼ確定ではあるが、裏付けのため証言を記録したい。だから、先程挙げた名前をもう一回お願いしてもよろしいだろうか?」
しかもしっかり者だ。
私がゆっくり考えながら挙げた名前を、手元のメモ帳に書き込んでいく。
ちなみに、彼が私を担当している理由は、部下に任せるとまた私に偏った態度をするかもしれないからだって。現地に来ている担当員の数は(窃盗っていう軽犯罪なのもあって)少ないし、平等に接することができるのが彼しかいないらしい。
なんか、私の見た目が白すぎて不気味なんだって。正直は美徳だけど、上司の前、私本人の近くでそこまではっきり言うかね。
「他にはギルドの人と、あと…あの、すいません。こら、ぶん回されて気が立ってるのはわかるが、そんなにぶつかるんじゃない」
犯人との追いかけっこでぶん回され、私が押し倒した影響で地面に叩きつけられ、ゆきうさはちょっとご機嫌ナナメ。まあこれも簡単なプログラミングの一部だから、要望通りに撫でてあげてればすぐに機嫌は直るだろうけど。
でも今お話中だから。足にもふもふぶつかるんじゃない。
…ってゆきうさを撫でながら話しかけてたら、なんかあたたかい視線。そちらを見やると、ジュリアさん。
「…あの」
「いや、すまない。本当に大切にしているのだなと思って」
「あのねえ……あっ!?」
「!?」
あることに気づいて、ガバっと立ち上がる。ジュリアさんはビビったようで、肩を揺らした。
「ま、まずい…どうしよう」
「え、なんだ、どうした?」
「私、今晩の宿のチェックインを済ませていません!!」
***
「…もう、この街の宿は全部埋まっているそうだ」
「そうですか…」
だよなあ…。
これが他の街なら、待遇最悪のお宿くらいなら空いているかもだけど、ここは王都クライシェンカ。多くの人が観光で、仕事で、学業で行き交うこの街で、空いてるホテルがそうそう見つかるわけがない。東京と同じよ、うん。
てか、空いてるにしても私のこと見たら叩き出すだろうなっていう謎の確信がある。「うちはペット禁止です」とか理由つけて。
「どうしますかねぇ…野宿でもしましょうか…」
「公園で寝たら法律違反でしょっぴくからな」
「さすがに街の外でしますよ」
「もうこんなに暗いのにか?」
「火をつければ幾分か明るくなりますし、森での野宿は何度もしてます」
今は、警察(この国では治世騎士団というらしい)の詰所でお世話になっている。
部下の不始末のせいで私が宿を取りそこねたと知って、ジュリアさんが部下を走らせてくれたのだ。悪いですよと言ったら、「部下の不祥事を黙っててくれるなら安いもんだ」とだけ。野次馬は多かったしそっちから届く声もあるだろうに、本当にいい人だ。こういう警察官はぜひ生き残ってほしい。
「…いや、やはりだめだ。夜の森は危険だし、そんなところに行かせるわけにはいかない」
「じゃあ朝まで酒場で時間を潰しますかね」
「寝ないつもりか?」
「それ以外にどうしろと」
ああ言えばこう言う。そこまで言うなら代替案くらい出してくれよ。
と、思ってたら、思わぬ発言が飛び出した。
「今日は詰所に泊まっていけばいい」
「…はい???」




