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神鬼狂乱~女子高生陰陽師広報・安倍日月と荒覇吐の神~  作者: 杜宮みやび


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第七話:陽翔のアパート

 放課後の校門を出ると、空はすでに橙色に染まっていた。


 日月が先に立って歩く。

 陽翔はその半歩後ろをついていく形になった。

 教室を出る前に白虎と玄武は星形の髪飾りに戻り、今はほかの青・赤の髪飾りとともに日月の三つ編みの髪に結ばれていた。


 

 昨日の今頃はカッパに襲われていた。

 それを助けてくれた少女と二人で帰宅することになるなんて、一日で世界がずいぶん変わったものだ。


「陽翔君って、なんで仙台に来たの?」


 日月が前を向いたまま聞いた。


「高校生で岩手から一人で越してくるって、珍しいじゃない。こっちに親戚でもいるの?」


「いないですよ」

「じゃあなんで」


 陽翔は少し考えた。

 本当のことを言うと、うまく説明できない。


「……なんで、ですかね」

「え?」

「自分でもよくわからないんですよ、正直」


 日月が初めて振り向いた。


「仙台の学校を調べていたら、なんかここがいいって思って。理由は特にないんですよね。でもなぜか、ここじゃないといけない気がして」


 日月が何かを考えるように、少し目を細めた。

 また前を向いて歩き出す。


「そう」


 それだけ言って、続きはなかった。

 でも何かを納得したような、短い「そう」だった。


 川沿いの道に出る。昨日と同じ遊歩道だ。

 学校までの道はここを通るのが最も近道なのだが、カッパに襲われた恐怖から一人の時は少し遠回りをして住宅街の中を通って学校に通っていた。


 今はあの時と同じように夕陽が川面を照らしている。だが、日月が一緒にいてくれるためか、カッパだけではなく他の妖怪の姿も見ることはなかった。


「日月先輩は、なんで陰陽師になったんですか」


 ふと気になった疑問を口にしてみる。 

 聞いてから、少し踏み込みすぎたかと思った。

 でも日月は足を止めなかった。


「生まれた時からよ。うちは代々の陰陽師の家系だから」

「京都の?」

「そう。物心ついたときからずーっと京都よ。実は私もこっちに来たのは去年からなの」

「俺みたいに高校受験で仙台に来たんですね」

 てっきり地元なのだと思い込んでいた陽翔は日月の回答に親近感を感じた。


「ううん、私は昨年の年末から」

「え?ずいぶん中途半端な時期ですね」

「そうね、陰陽寮の占いで『仙台に行くべし』というお告げが出たの」

 少しためらうように日月が語る。


「じゃあ、自分で選んだわけじゃないんですね」

 陽翔は自分と共通するのかと思ったが、微妙に違うようだ。占いの指示で学校を変わらなくてはいけないとは、陰陽師と言うは大変だ。


「そうね。――ねえ、安倍晴明って知ってる?」

 立ち止まってふりかえり、日月が尋ねてくる。


「知ってます。平安時代の陰陽師ですよね、あれ、安倍ってもしかして……」

「そのひとの末裔なの、私」

「……え、マジですか」

「本当よ。だから苗字があまり好きじゃないって言ったでしょ。有名すぎて、先入観で見られるから」

「それは……確かに」

「まあ、でも安倍晴明の子孫なんて陰陽師業界では結構たくさんいるから、私が特別ってわけでもないのよ」

 さらりと答えたが、その声に何かが混じっているような気がしたが、陽翔には、それが何かうまくはわからなかった。


「楽しいですか、陰陽師って」

「楽しいわよ」

 間髪を入れず答えが返ってきた。


「即答ですね」

「それはそうでしょ。妖怪ってすごく面白いのよ。それに悪い妖怪を退治するって人の役に立っている気がするじゃない。それに……」

 夕日を雲が隠し、世界が一瞬で闇に飲まれた気がした。


 日月が少し間を置いて呟く。

「陰陽師でいれば、いつかは出会えるはずだもの……」

「え、なんですか?」

 独白にも似た日月のつぶやきは、陽翔にはよく聞こえなかった。

 

「陽翔君は、ご家族がいるのなら大切にした方がいいわよ」

 その声が、少しだけ違う色をしていた。

「……はい」

 

 日月が背を向けて再び歩き出した。まるでこの話題から逃げるように、日月の背中が小さくなっていく。


 陽翔は慌てて日月を呼び止めた。


「日月先輩!」

 びくりと体を震わせて振り向く。

「何よ、大声出して」

 日月は複雑な表情で陽翔をにらんでいる。


「いえ、この角で曲がります」

 陽翔はカーブミラーが立つ細い路地を指さす。

「もう!もっと早くいってよね!」

 一人先に進んでいた日月が恥ずかしそうに駆け戻ってきた。



          *



 陽翔の住むアパートは、学校から徒歩十分ほどの場所にある。

 アパートは木造二階建ての古いアパートだった。一階と二階にそれぞれ3部屋しかない小さな物件だ。外壁はくすんでいて、鉄製の外階段は雨のたびに錆が滲んでいる。昭和の時代に建てられたかなり年季の入った建物で、家賃の安さだけしか利点がない。


「つきました。ここの2階の一番奥の部屋です」

「ここ?」

「はい。安かったんで」

「……なるほど、えーっと、レトロで素敵な建物ね」

 日月が建物を上から下まで眺めた。

 続けて何かを言いかけて、やめた。やさしさだろう。


「無理にほめなくてもいいですよ。ぼろいのは自分でもわかっていますから」

 苦笑しながら言った。


「陽翔君て、ほんとに一人暮らしなんだね。家族は岩手に?」

「両親と妹がいます。向こうの高校に受からなかったことにして、こっちに来ました」

「受からなかったことに……」

「嘘ついたわけじゃないですよ。岩手の志望校を受けなかっただけで」

「それは、さっきの話と繋がってる?」


 鋭い。

「そうですね。七北田高校以外に岩手の高校を受かっていたら、仙台で一人暮らしなんて許してもらえなかったでしょうからね」


 あの時の感情は、今もうまく説明できない。でも確かに、あの時は「行かなければ」という感覚があった。


「ふうん」


 日月がまた何かを考えるような顔をした。

 でも今度は何も言わなかった。


「じゃあさっそく結界を張りましょう。私の式神たちに手伝ってもらうわ」


 気持ちを切り替えるように、日月が三つ編みから髪飾りを外し始めた。

 赤・青・白・緑

 今日月の手の中には四色の五角形をした髪飾りが握られている。確か五芒星という安倍晴明が好んで用いたシンボルだったはずだ。


「私の式神たちはすごいわよ。なんて言ったって京都を守護するあの四聖獣なんだから。みんな、お願いね!」

 

 手の中の髪飾りを宙に投げると、両手で印を結び、力ある言葉を発する。


「東の青龍、西の白虎、南の朱雀、北の玄武。

天地四方のことわりをもって、

いま契約者・安倍日月が命ずる。

顕現せよ!」

 

 四つの髪飾りがそれぞれの色の光を放つ。

 光の中から日月の力ある言葉に応じて彼女の使役する式神たちがその姿を現した。

 

神鬼狂乱~女子高生陰陽師・安倍日月と荒覇吐の神~


スタートします。

ブシロード小説大賞応募予定のため、7月19日までに完結予定。原稿はすべて書きあがっているので、最終話まで一気に駆け抜けます!


少しでも気に入ってもらえたら、作品フォローと評価、なにとぞよろしくお願いします!

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