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神鬼狂乱~女子高生陰陽師広報・安倍日月と荒覇吐の神~  作者: 杜宮みやび


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第六十四話:堕鬼

 陽翔は急に荒魂の攻撃が弱まったことに疑問を感じた。


 今まで的確に襲い掛かってきた触手の精度が急に変わったのだ。今も繰り返されているが、その攻撃は単調でむやみに振り回しているだけにも見えた。


 その原因は地上にあった。

 龍脈の台座で儀式を行っていたはずの誓詞が戦闘に加わっていた。

 しかも先ほどまで武御雷が相手をしていた荒魂の頭部が目標を変えて誓詞に向かっている。


 陽翔も追いかけたかったが、自分を乗せてくれている猫神がそろそろ限界だった。明らかに回避精度が落ち、致命傷こそないが体中に細かい傷が増えている。


「猫神様、なんかおかしい。いったん離れましょう」

「ぜーぜー、了解にゃ」

 荒い息を吐きながら、陽翔を乗せた猫神は触手の範囲外まで一度退避する。すると、同じく異変を感じた武御雷も陽翔の横に並んだ。


「やはり龍脈の封印は失敗したようだな」

 武御雷の言葉に陽翔もチラリと地上を見やると、大音響で流れていた祝詞は静まっており、漆黒の黒穴は今も変わらず濃厚な霊気を垂れ流し続けていた。


 はなから期待していなかったのか、武御雷の反応は薄い。それよりも地上で荒魂に対峙する誓詞の姿を見つめ続けている。


「あ……」

 それは一瞬の出来事だった。


 武御雷神と陽翔が見守る中、荒魂の頭と対峙していた誓詞の体が赤黒い大蛇の口のなかに消えた。

 陽翔には何が起こったのか理解できなかった。今まで誓詞が立っていた場所には不自然に折り曲がった誓詞の足だけが転がっている。


「愚か者が、力もないのに人間風情がでしゃばるからそういう目に合うのだ」

 武御雷は冷たく吐き捨てる。


 誓詞が倒れたことで、荒魂の進行が始まると警戒した武御雷神が身構えるが、その必要はなかった。

 倒れた誓詞の後を継いで、日月が荒魂に攻撃を仕掛けていた。


 日月は人間離れした跳躍で一気に間合いを詰めると、恐ろしく長く伸びた自らの爪で荒魂の頭を引き裂く。傷跡から青い炎が上がり、荒魂はたまらずゼリー状の体の中に頭を引き戻す。代わりに何本もの触手が日月を襲った。


 それを防いだのは白銀の体に黒い縞を描いた凛々しい虎、今までのデブ猫ではない。陽翔のイメージする四聖獣の白虎その姿だった。

 一気に荒魂を追い詰める日月。その周囲には彼女を守る四体の聖獣の姿がある。今まで見慣れた丸まるとしたゆるキャラではない。白虎と同じくそのどれもが伝説で語られる本物の守護獣の姿に変貌を遂げていた。


「す、すごい……」

 陽翔は一人で荒魂を抑え込む日月の姿に感動を覚える。今までも彼女の戦いはすごかった。しかし、今の日月は別格だ。

 創世の神々ですらてこずった古代の荒ぶる神をたった一人で制圧している。


 荒魂の体はすでに小さくしぼみ、今は初めに見た十メートルほどの赤黒い大蛇の姿に戻っていた。これでも十分巨大ではあるのだが、今までが奇怪な化け物であったため陽翔は落ち着きすら感じていた。

 しかし、武御雷の表情はいまだ真剣だ。


「危ういな」

 確かに、このままでは荒魂は消滅してしまうだろう。しかし、あのまま荒魂を暴れさせ続けるほうがよっぽど危ないのではないだろうか。


「でも、あのまま放置するわけにはいかなかったですよ。消滅させるのも致し方ないんじゃないですか?」

「違う。危ういのはあの娘のほうだ」


「え?」

 武御雷のいう意味が陽翔にはよくわからなかった。戦いはどう見ても日月が優勢に見える。このままなら荒魂を完全に祓うのも時間の問題のように思えた。


 突然、陽翔の持つスマホが着信を告げる。慌てて画面を確認すると、それは麗子からの着信だった。

 地上に目をやると、麗子がスマートフォンを握り締めて空中の陽翔を見つめている。いぶかしげに思いつつも通話ボタンを押す。通話口に出たのは麗子ではなく、荒覇吐神だった。


「陽翔よ、早く日月を止めるのじゃ」陽翔の耳に間髪を入れず声が飛び込む。

「荒覇吐神様?いったい何が……」

 電話口の荒覇吐神の声には焦りの色がにじむ。


「日月は力に魅入られておる。彼女の額を見よ。角が生えてきておる」

 陽翔は目を凝らして日月の顔を見た。


 彼女は笑っていた。円筒形の結界の中で打ち上げ花火のように次々爆発が起こる。そのたびに踊るように荒魂の体が悶える。地上から上がる炎を上空に逃れようとすれば、上からは容赦なく雷が落ちる。

 その様子を見て日月は満面の笑みを浮かべていた。そしてその額には両方の瞳の上あたりに、確かに十センチほど伸びた金色の角が生えていた。


「あ、あれは何なんですか。まるで、あれじゃ鬼じゃないですか」

「人が心を奪われ鬼に落ちる話は昔から数多く語られる。特に力に魅入られた術師が鬼になることはよくあることじゃ。今、日月はまさに鬼に変わろうとしておる」

 すでに弱り切った荒魂をいたぶり愉悦の笑みを浮かべる彼女に、陽翔の知る日月の面影はない。


「急ぐのじゃ陽翔、あの角が伸び切ったとき、日月は完全に鬼に飲み込まれる。何としてもその前に日月を正気に戻すのじゃ」

 今も白虎の背にまたがり、苦しむ荒魂の姿に高笑いをする日月。上空を長い尾をくねらせる青龍と、大きな炎の翼を広げた朱雀が舞う。そうしている間にも日月の角は伸び続け、すでに二十センチにも迫ろうとしている。もう時間がない。


「彼女を正気にもどせるとしたら陽翔、おぬしだけじゃ」

 地上の荒覇吐神は祈るように陽翔を見つめている。スマホを抑える麗子も、ジャケットを羽織り座り込む玲愛も陽翔のことを見つめていた。


 陽翔はすぐに行動に移る。

「俺が、絶対に先輩を人間に戻します」

 電話を切ると陽翔は、虫をいたぶり無邪気に遊ぶ子供のように攻撃を続ける日月の姿を見つめた。





神鬼狂乱~女子高生陰陽師・安倍日月と荒覇吐の神~


ブシロード小説大賞応募中!!


残り4話。


6月19日完結予定です。

最終話まで一気に駆け抜けます!


少しでも気に入ってもらえたら、作品フォローと評価、なにとぞよろしくお願いします!

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