第五十四話:加茂誓詞の策略
二本角に捕まえられた健太と弁太郎はそのまま階段を引きづられていく。
「お、おい、健太、しっかりするのである!」
弁太郎は目をつぶされた二本角の大蛇の頭の上でぐったりする健太に声をかける。
「あ、ああ、ベートーベンさん、花子さんたちは大丈夫でしたか……」
「大丈夫だ、だからお前もしっかりするのである」
「ちょっと……今回はもう、だめかもしれませんね」
「しっかりするのである!せっかく人化の術を使えるようになったのに、まだ国分町でも遊んでいないのである。こんなところで消滅するわけにいかないのである」
「ははは、ベートーベンさんらしい……や……」
二本角が二階の踊り場を曲がったところで健太は意識を失った。手の力が緩み階段に投げだされる。
目をつぶされた二本角は自分の頭から零れ落ちたボロボロの健太の体を咥え、先に弁太郎を連れ階段を下りきった二本角に続いた。
二人を咥えた蛇の頭が校舎を出る。
二本角の目指す先には、体育館の残骸の上にとぐろを巻く超巨大な赤黒い蛇がいる。その頭は、はるか上空から地上に向けて長い二本の下をちょろちょろと揺らしている。
巨大な口だけの頭は、シュルシュルと音をたてながら舌を出し入れしていた。眼の無い大蛇はその舌を触角のように使って周囲のわずかな霊気の動きを感じ取っていた。
今も、近くに隠れていた妖怪の気配を感じとったみたいだ。打ち出される弾丸のような速度で舌を長く伸ばし、がれきの陰に潜んでいた妖を捕らえた。
「ほほほほほ、ほっといてくれよぉ~」
逃げ遅れた人面犬が長い舌にまき取られ、大きな口の中に飲み込まれた。
二匹の二本角は、まだ餌をもとめて体をくねらせる大蛇の前に歩み寄ると、供物をささげるように弁太郎と健太を献上した。
「や、やめるのである。私を食べても美味しくないのである」
何とか逃れようともがくが、挟まれた足は全く動かない。妖を拘束する力があるのか絵画の姿に戻って逃げることもできなかった。隣で同じように体を咥えられた健太も人の姿のままぐったりとしたまま動かない。
遥か頭上から口だけの頭が迫ってくる。赤黒い蛇の口から長い舌が伸び二人を巻き取ろうとするその瞬間。
二人を拘束している二本角の首が一瞬にて刈り取られた。
健太と弁太郎の体は二本角の首とともに地面に転がる。
そこに空から黒いたてがみの獅子が風のように舞い降りると、背にまたがった薄紫の式服の少女が二人をつかみ獅子の背に乗せ飛び去った。
二本角の首をはねたのは顔に蝦夷の戦士の紋様を浮かべ阿弖流為の力を宿した陽翔。
健太たちを助けたのはもちろん日月と獅子の姿となった猫神だった。
「しっかりして二人とも!」
赤い髪飾りから召喚された朱雀が、二人の体を癒す。
「あ、部長、やっと来てくれたんですね……」
うっすらと目を開いた健太が日月を見た。傷はふさがったとはいえ、健太のダメージはまだおおきい。
「大丈夫、健太君……ってなんかずいぶんイケメンに進化したわね、ベートーベンも?」
人化した二人に初めて顔を合わせた日月が驚く。霊気の波長で妖怪を識別できる日月が見間違えることはないが、あまりの変化にさすがに驚く。
「そうなのである。これでこれからは堂々と部活に参加できるのである。ちなみに私は米戸弁太郎と名乗っているのである」
ひとまずの災難が去ったことで、弁太郎が雄弁に語る。
「弁太郎って……、それはまあいいわ。それよりやっぱり復活してしまったのね」
「部長、あの巨大な蛇のこと知っているのであるか」
日月はふりかえり、体育館の残骸の上に巨大なとぐろを巻いて鎮座する赤黒い大蛇を見て言った。
「あれは、蝦夷の神、荒覇吐神の怒れる魂。荒魂よ」
猫神の背で日月は簡単に今の状況を伝えた。
*
「おやおや、やっとお出ましですか」
煙草の先から立ち上る煙の中には、赤黒い巨大なヘビとそれに立ち向かう獅子に乗った陰陽師の少女の姿が浮かぶ。
「あの土蜘蛛を倒すとは、日月ちゃんの評価を少し見直さなくてはいけないかもしれないな」
本塩釜駅の喫煙ボックスの中で、加茂誓詞は一人、この周辺にはなった式神から送られてくる映像を眺めていた。
ジャケットはアラハバキの神域に脱ぎ捨ててしまっていたので、今はシワだらけのワイシャツ一枚という姿だ。
ガラス窓から見える本塩釜駅のターミナルは龍脈からの霊気で活発化した妖怪で溢れ、そこかしこで人間が襲われていた。
龍脈にほど近いこの周辺は特に妖怪が活性化している。人の集まりの多い駅前ということで一段と妖怪を集めやすい環境が出来上がっていた。
逃げ惑う人々の様子を横目に、さらに煙草をふかし煙のモニターを複数同時に表示させる。
画面のなかではどこも同じように、妖怪に襲われ逃げ惑う人々の姿が映る。
誠司は興味なさそうに次々と画面を切り替えていった。
メインの映像では、今も日月と陽翔が果敢に巨大な蛇に立ち向かい、激しい戦闘が続いている。
まだ完全体ではないとはいえ、古代の荒ぶる神、荒覇吐神の荒魂と互角に渡り合っている日月たちの技量は相当のものであるのだが、誓詞としてはまだまだ不満の残る思いだった。
「せっかく荒覇吐と戦ってるんだ。日月ちゃんにはもっと本気を出してもらわないと面白くないな」
日月の真の力を引き出すきっかけが欲しい。手っ取り早いのはやはり怒りの感情だろう。
いくつか式神の映し出す光景をめくっていた誠司だったが、一つの映像を見つけ手を止めた。
誓詞は妙案を思いつき、怪しい笑みをこぼす。
そこには、七北田高校に向かう途中で警備の警官に止められた赤いRX8と、抗議を叫ぶ玲愛の姿が映し出されていた。
神鬼狂乱~女子高生陰陽師・安倍日月と荒覇吐の神~
ブシロード小説大賞応募予定のため、7月19日までに完結予定。原稿はすべて書きあがっているので、最終話まで一気に駆け抜けます!
少しでも気に入ってもらえたら、作品フォローと評価、なにとぞよろしくお願いします!




