第五十三話:二本角襲撃
天まで上るほどの赤黒い大蛇の周りを、何匹もの角のある蛇の群れが絡み合う。
いつの間にか光の柱は収まっていた。
赤黒い柱がゆっくりと弧を描き、上空から地上の蛇を見下ろす。
「あの蛇、顔が、ない」
八千代の声は震えていた。無理もない。頭上から見下ろすその顏は人の根源的な恐怖を呼び起こす容貌をしていた。
赤黒い巨大な蛇の頭の先端には口しかなかった。大きく開かれた顎からは先端が二股になった長い舌が二本、まるで触手のようにうごめいている。
一枚一枚がタイルほどの大きさを持つうろこが擦れ合い、弁太郎たちの元に金属がきしむような不快な音として響いた。
しかし、そんなおぞましい姿もこの後の光景に比べればどうということはなかった。
大きく顎を開いた赤黒い大蛇は、主の復活を体で表現するかのようにうごめく角のある蛇に食らいついた。
自らの太さよりも大きく開いた赤黒い大蛇の口が電信柱のように太い蛇たちを丸のみにしていく。
角のある蛇も十分に巨大なのだが、赤黒い大蛇の太さが尋常ではないため相対的に小さく見えた。
絡まったスパゲッティのように大蛇の周囲をうごめいていた蛇たちだったが、仲間が捕食されたことに驚いたのか散り散りになって周囲に逃げていく。
しかし、その巨体からは考えられない速度で首を振るった大蛇は、その大口で逃げ惑うすべての蛇を飲み込んでしまった。
残ったのは他の蛇とは違い、離れた位置からその光景を観察していた2体の蛇だけとなった。その個体は頭に二本の角を抱いていた。
「生贄に仲間を捕食させたのか」
一瞬の出来事に、逃げることも忘れてその光景に目を奪われていた弁太郎だったが、次の瞬間。残った角のある蛇がこちらを見たことでやっと現状を把握した。
「逃げるのである!」
まだ呆ける八千代を抱きあげ一気に校舎に駆け込む。
その動きを察した二本角が体をくねらせて弁太郎たちを追った。
「な、なにするんですか!」いきなり抱き上げられた八千代が驚きの声を上げる。
「口を開くと舌を噛むのである!奴らは私たちを食べるつもりなのである」
おそらく二本角があの巨大な赤蛇の新鋭隊長のようなものなのだろう。主を復活させ、衰えた体を回復させるために自らの仲間を差し出した。
主たる餌を食いつくした大蛇に与える餌に、弁太郎たちに狙いを定めたのであろう。
体育館からの連絡口から校舎に飛び込む。
すぐ後ろを二本角が追いかけてきた。校舎端にある階段を弁太郎は駆け上る。
お姫様抱っこ状態の八千代を抱え一気に三階まで登り、教室の並ぶろうかを曲がるとすぐに科学室のプレートが目に飛び込んだ。
ひとまずあそこまで逃げ込めば時間は稼げる。
安堵の気持ちが一瞬の油断を生んだ。あとほんの数メートルという所で弁太郎は躓き、抱かれていた八千代は投げ出されるように廊下を転がった。
転んだのではない。追いついた角のある蛇が弁太郎の左足にかみついていた。
「うわっ、離すのである!」
足にかみついた二本角の頭をポカポカと殴るが、蛇は気にする様子もなく弁太郎を階段にひきづりおろしていく。
「弁太郎さん!」
床にはいつくばったまま八千代が手を伸ばすが、引きなされた弁太郎には届かない。
「私のことはいい。早く科学室に!」
騒ぎを聞いて科学室の扉が開いて中から花子が顔を出した。
「ベートーベンさん」
「私のことは良いから先生を避難させるのである」
弁太郎の指示を受け八千代を招き入れる。
「私も戦います」
「ダメなのである。君はみんなを守るのである」
弁太郎は床を引きずられながらも、科学室を出ようとする花子に命令する。
「で、でもぉ……」
目の前でずるずると引きづられていく弁太郎を見捨てることができず、花子は扉を開いたまま立ち尽くしていた。その時、弁太郎を咥えた蛇の横からもう一匹、二本角の大蛇が階段を上ってきた。獲物を連れ去る一匹目と入れ替わるように、開け放たれた科学室に向かってくる。
「早く閉めるのである!」
弁太郎の声が飛ぶ。しかし二本角の動きも早かった。二本角が開け放たれた教室の中をのぞいた。科学室の中から避難している生徒たちの悲鳴が響く。
花子の目の前に二本角の巨大な口が開く。
食べられる。花子がそう覚悟した時聞きなれた声が響いた。
「やらせませんよ!」
それはテケテケを倒し中央の階段を駆け上ってきた健太だった。
健太は肩を押さえ苦しそう息を切らしていたが、それでも花子が襲われそうになっている状況を瞬時に判断し二本角に向かって駆けだした。
制服のシャツを引きちぎるように開くと、そこは花子も見慣れた内臓が詰まった人体模型の胴体だった。
ただいつもと違うのは胸部を守る肋骨がきちんと内臓がこぼれないように抑え込んでいる。健太はそのろっ骨を両手で一本ずつ外し手に握ると、二本角の背後からとびかかりその目に突き立てた。
シャーと言う怒りとも悲鳴とも言えない叫びをあげ、頭に健太を乗せたまま狭い廊下を二本角はのたうち回った。壁に打ち付けられながらも健太は必死に耐える。
やみくもに壁に衝突したことで二本角にも相当のダメージはあったが、突き立てた肋骨につかまったまま振り回された健太はさらにひどい状態だった。制服はズタボロになりむき出しになった体にはいたるところにひびが入っていた。肩関節は完全に破壊され、かろうじてつながっているような状態だ。
両目をつぶされた二本角は、さすがにたまらず健太を乗せたままするすると外へ退散していく。
逃れようと必死に抵抗していた弁太郎も、力及ばすすでに階段の踊り場へ姿を消していた。
「健太さん、ベートーベンさん!」
廊下に飛び出し二人の名を呼ぶが、その声はひしゃげた廊下の壁にむなしく響くだけだった。
花子は、床に転がった健太の肝臓を拾いあげ胸に抱き、二人を思って涙を流した。
神鬼狂乱~女子高生陰陽師・安倍日月と荒覇吐の神~
ブシロード小説大賞応募予定のため、7月19日までに完結予定。原稿はすべて書きあがっているので、最終話まで一気に駆け抜けます!
少しでも気に入ってもらえたら、作品フォローと評価、なにとぞよろしくお願いします!




