第五十二話:荒覇吐神荒魂の復活
「彼女たちに手を出させるわけにいかないんですよ」
健太は腸を鞭のように振るい、バランスの悪そうなテケテケの手首を狙う。
しかし狭い廊下では壁に阻まれ鞭本来の力はいかせない。行動範囲を気にして振るった健太の攻撃は簡単に避けられてしまう。
鞭の攻撃を軽く避けたテケテケはそのまま垂直にジャンプし天井につかまる。無表情に見えたテケテケの表情に笑みが浮かぶ。
「イ、イ、イイイ、イケメン、テケケ」
テケテケは長い腕で天井に張り付き雲梯のように体を揺らしながら健太に迫る。その顏には愉悦の笑みが浮かんでいた。
健太も腸の鞭を振るうが、本来鞭はたたきつける武器だ。上空に向けての攻撃には向いていない。
何度も振るわれる甘い攻撃は、軽々と片手で天井からぶら下がるテケテケにつかまれてしまう。
「ツ、ツカマエタ、テケケ」
掴まれた腸を取り戻そうと引くがびくともしない。逆に、テケテケはすごい握力で腸を健太ごと自分の方へ引き寄せた。
バランスを崩した健太の上にテケテケが覆いかぶさるように襲い掛かる。
「くそっ」
健太は逃げる間もなく、天井から襲いかかったテケテケに両肩を抑え込まれる形で床に倒れた。
両肩にテケテケの長く細い指が突き刺さり、すごい力で押さえつけられていた。
「ススス、ステキナ、男ノコ、テケケケ、ワタシノコイビト、スル」
「や、やめてください、ぼくはあなたなんか趣味じゃないです!」
テケテケの無表情な顔が迫る。青白い唇が健太のファーストキスを狙っていた。
何とか逃れようと顔を左右に振るが、いくらもがいてもテケテケの戒めから逃れることはできそうになかった。
ふたりの距離があとわずかとなった時、健太は言った。
「あなたは本当の僕を知っても恋人にしてくれますか?」
健太は人化の術を解いて半分表情筋がむき出しになった正体を明かす。
「ケケケ?」
突然の変化にテケテケがひるむ。
その隙を逃さず健太は力いっぱい頭突きをかました。強化プラスチックの頭蓋骨による一撃はテケテケに強力な一撃を与えた。自身の体を支える両腕こそ怪力を有するテケテケだが、それ以外の部分は人間の強度とそう変わらない。
脳に激しい振動を受けたテケテケはそのまま意識を失った。
「いててて、ひどい目にあいました」
肩に突き刺さるテケテケの指を抜き、ゆっくりと立ち上がる。何とか動けるがテケテケの爪が肩の関節にまで食い込んでいたため、今までのように腕を振るうことは難しそうだった。
「花子さんたちは大丈夫でしょうか」
人化の術で顔を戻した健太は、肩を押さえながら、先に科学室に向かった花子たちを追って階段を上った。
*
健太に託され、バトミントン部の女子生徒を誘導して階段を上る花子の元に電話が入った。
日月から託されていたスマートフォンは画面操作ができない健太に変わって花子が預かっていた。
「ああ、部長~よかったですぅ」
日月からの着信をとった花子が啼きそうな声で電話に出た。
「え?花子さん、健太君はどうしたの?」
「今は学校を襲ってきた妖怪から私たちをかばってくれて、下で戦ってます」
「ああ、それでスマホを花子さんに預けたのね」
「いえ、そうじゃなくて。健太君の指だと画面が反応しなかったんで私が預かってました」
健太の強化プラスチックの指ではタッチ画面操作ができない。日月もさすがにそれは想定外だった。
「あ、ああ、それは盲点だったわね。それで、花子さんは大丈夫なのね、ベートーベンは?」
花子がバドミントン部の生徒に尋ねると、銀髪の男性が助けてくれたということだった。しかし、自分たちが出た後すぐに、体育館は蛇の化け物につぶされ、顧問の八千代ともどもどうなっているのかはわからないということだった。
「そう、夜刀神は体育館を襲ったのね。ということは荒魂もそこに……」
電話の向こうでは少し考えるような間があった。わずかな間をおいて日月からの指示が伝えられる。
「わかった、科学室の結界はそう簡単に破られないと思うから判断は間違っていないわ。私たちもすぐ行くから、学校のみんなを守ってあげてね」
それだけを伝えると通話は切られた。
*
屋根が落ちた体育館には電柱ほどの太さをくねらせる大蛇が集まっていた。
頭上の角を使い何かを掘り返す蛇たちの姿を八千代はしりもちをついたまま、ただ眺めていた。
逃げなければと心がいくら命令しても、体は全くいうことを効いてくれない。
異様すぎる光景に、脳が理解することを拒んでいるようだった。
「何してるんです。急いで逃げるんです」
その声にハッとする。
すぐわきには先ほど自分を助け、代わりに屋根につぶされたはずの銀髪の男性が心配そうにのぞき込んでいた。
「え?弁太郎さん、さっきつぶされたんじゃ……」
「あれぐらいの隙間があれば絵画に戻れば……いえ、そ、そう、間一髪のところで逃げられたんですよ」
慌てた手ぶりで弁解する。
「それより今のうちに逃げますよ。立てますか」
「は、はい何とか」
弁太郎に肩を借りて八千代は立ち上がる。
震える足を叱咤して何とか足をすすめる。
「あの蛇は何なんですか?」
「私もわかりません、ですがここにいたら危険なのは確かです」
八千代をささえ体育館をあとにしながら弁太郎は振り返る。
まるで何かを探しているようだ。
今も巨大なヘビは体育館の床をはがし地面を掘り進めていた。
「さあ、行きましょう」
幸い蛇たちは何かを探すことに夢中で自分たちの存在には気づいていない。逃げるには今しかない。
屋根がつぶされたことでひしゃげた扉を無理やりに開き、何とか脱出経路を確保する。
「さあ、早くここから……」
一人がやっと通れるほどの扉の隙間から出るように八千代を促したその時だった。
体育館の床下を掘り進めていた蛇たちの動きが止まった。
同時に、そこから赤黒い光の柱が立ち上がる。
その光は深く、暗い、闇の赤。
ゴゴゴと言う地鳴りとともに、地球の奥底から何かを引きずりだすような揺れが弁太郎たちを襲う。
「なんだかヤバそうですね」
明らかな異変を感じ、押しだすように八千代を外に出すと、慌てて自分も扉をくぐる。
校舎へ続く渡り廊下を八千代の手を取って走る。その後ろで体育館から上がった赤黒い光の柱の中に何かがせりあがってくるのが見えた。
「なにあれ、赤い柱?いえ、塔?」
あまりの光景に足が止まる。角のある蛇たちのあけた穴から伸びあがったのは、人が二人で抱えても届かないほどの太く赤黒く光った柱だった。
その柱はなおも伸び続ける。すでに三階建ての校舎の高さを超えた。二十メートルはあるだろうか。それでもなお、天へ向かって伸び続ける。
「……違いますよ」
高く伸びあがった柱の頂点を見上げて弁太郎が言った。
「先端に口があります」
弁太郎の言葉に八千代は目を凝らした。
確かに。
柱だと思っていた先端には、雲を飲み込む勢いで開かれた口のようなものが見えていた。
「それにあの黒光りしているのはうろこです」
信じられなかった。いや信じたくはなかった。
「あれは――巨大な蛇です」
神鬼狂乱~女子高生陰陽師・安倍日月と荒覇吐の神~
ブシロード小説大賞応募予定のため、7月19日までに完結予定。原稿はすべて書きあがっているので、最終話まで一気に駆け抜けます!
少しでも気に入ってもらえたら、作品フォローと評価、なにとぞよろしくお願いします!




