第四十八話:七北田高校
一方そのころ、荒覇吐神の荒魂が封印されているとされる七北田高校にも龍脈破壊により影響が出始めていた。
日曜日ということもあり授業は休みだったが、学校内には部活動を行う生徒の姿も多く見られた。
もちろんスポーツに汗を流す生徒たちは、この学校の敷地に古代の忘れられた神が封印されているなど知るはずもない。
龍脈の封印が破られ、目には見えない霊気が校内に満ち始めていたが、校庭には部活動に励む生徒の声が各所で聞こえていた。
幸い、太古の昔に張られた強力な封印はそう簡単には揺らがない。
そのうえここは日月が自分たちの活動を守るために強力な結界を張ってある。悪意を持った妖怪が活性化したとしても、そう簡単に侵入することはできない。
いま、まさに人と妖怪の立場が逆転するかもしれないというこの瞬間であっても。 普通の生徒たちにとっては、いつもと何も変わらない穏やかな日曜日だった。
ただ、ごく一部、人間ではない存在である彼らは、次第に濃くなっていく霊気の流れを敏感に感じていた。
「あれ?なんだが体の関節の動きが滑らかになってきていませんか?」
みんなのカップに紅茶を淹れ終えた動く人体模型の健太が首や腕をコキコキと動かしながら言った。
化学室には超常現象研究部のいつものメンバーがそろっている。とはいっても健太のほか、トイレの花子さん、ベートーベンの肖像の三人だけだ。
いつもは額縁に納まって自由に宙を舞うベートーベンも今はお茶を飲むため半透明の青白い零体の体でいすを並べて座っていた。
ほんとうなら昨日の田代島での事件について部活のみんなにも共有する予定だったが、日月からは朝方「陸奥総社の宮に寄ってから登校する」との連絡があったため今は学校に常駐している三人だけでテーブルを囲んでいた。
「そ、そうですね、私もなんだかいつもより力が出るような気がします」
花子さんがむんと腕をあげ力こぶを作る。細い腕に力こぶは多少は膨らんだのかも知れないが、濡れそぼった制服のせいで全くわからない。それでも、いつもより少し顔色がいいように思える。
「うむ、そうだな。今なら本気で歌えば窓ガラスぐらい割れそうだ。まままま~」
腹に手を当ててベートーベンが発声練習を行うと教室の窓ガラスが共鳴してがたがたと揺れる。
「や、やめてくださいよ。本当に割れたら日月さんにどやされますよ」
健太の言葉に慌てて口を手で押さえ押し黙る。「す、すまん」
ベートーベンも本気で起こった日月は怖いのだ。
「これは、周囲の霊気が濃くなってきているみたいですね。こんなに急激に霊圧が変化するなんて普通じゃないですよ」
手を顎に当て健太は真剣な表情で考える。
「一度、部長に連絡したほうがいいんじゃないですか」
花子も心配そうに提案する。学校で何か問題が起こった時の連絡用に健太はスマートフォンを日月から預かっていた。今まで使う機会はなかったがまさに今がその時だろう。
体の中央から胃袋のパーツを取り外し、その中に入ったスマホを取り出すと、なれない手つきで画面を必死に操作する。
「ああ~!なんてこった!」
画面を操作する健太が悲鳴を上げる。
「どうした」
「どうしたんですか」
ベートーベンと花子の声が重なる。人差し指を立てたまま悲しい表情で健太が二人を振り向く。
「強化プラスチックのぼくの指じゃ画面が反応しません……」
二人はガクリと肩を崩す。
「ベートーベンさんは零体だから、私がやります」
スマホを受け取った花子が通話操作を行う。
慣れた手つきで指を滑らせコールするが、呼び出し音が鳴るだけでいつまで待っても日月が出ることはなかった。
「つながらないですぅ」
「部長も忙しいのかな」
そう話している間にもまわりを包む霊気はどんどんとその濃度を濃くしていく。
「いや、日月部長が電話に出れないのと、この霊気の変化は無関係じゃないかもしれんぞ」
珍しくベートーベンも神妙な面持ちだ。
健太もどうしたものかと外を眺める。
化学室の窓からは校庭で練習を続けているサッカー部の姿があった。健太はその先に異様な光景を目にした。
校庭の先、学校の敷地への入り口がある校門に大量の妖怪が押し寄せている。
校門には何十体もの人ならざる者が積み重なるように取り囲んでいた。
まだ存在があやふやなためか、半透明な姿の妖怪も多い。霊能力の高い人間でなければ視認することはできないだろう。
しかし、妖怪は確実にそこに存在している。
日月の結界に阻まれ学校の敷地内には侵入できないようだが、今もその数はどんどんと増している。
「な、なんなんですかあれ」
健太の叫びを受けた花子たちも外を見て絶句する。
見回すと校門だけではない。校庭を囲うフェンスの周囲にも多様な妖怪が顔を押し付けて校舎の中を見つめているのだ。
「なんだかとんでもないことがおこっているようだな」
「ど、どうしましょうぅぅ」
そうは言ってもどうすることもできない。まだ気づいていない生徒たちに知らせるにしても、自分たちの姿も妖怪なのだ。逆にパニックになりかねない。
そうしている間にも霊気濃度は上がり続けている。
「うっ……」
口元を押さえて花子がしゃがみこむ。
「花子さん、大丈夫か」
健太が優しく背中をさする。そうしながらも健太自身も急激な霊気の変化で頭がくらくらしていた。
人ならざる者が霊気の急変に体がついていけない状態——
いわゆる霊気酔いだ。
「二人とも、あれはやばいんじゃないか?!」
窓の外を見ていたベートーベンがこわばった声をあげる。
何とか体を起こし、外を見ると土煙をあげて何か巨大なうねりがこちらに向かって進んでくる。
「蛇、ですか?」
口元を押さえながら花子がつぶやく。確かに蛇の群れに見える。しかしその大きさは二階建て住宅の屋根よりも高い。そしてすべての蛇の頭には一本の鋭い角が生えていた。
神鬼狂乱~女子高生陰陽師・安倍日月と荒覇吐の神~
ブシロード小説大賞応募予定のため、7月19日までに完結予定。原稿はすべて書きあがっているので、最終話まで一気に駆け抜けます!
少しでも気に入ってもらえたら、作品フォローと評価、なにとぞよろしくお願いします!




