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神鬼狂乱~女子高生陰陽師広報・安倍日月と荒覇吐の神~  作者: 杜宮みやび


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第三話:超常現象研究部の仲間たち

『科学室』

 どうにか確認できた教室の案内にはそう書かれていた。

 どうやらここを部室として使用しているようだ。


  扉が開かれ陽翔は荷物のように引きずられていく。教室の中で一段高くなった教壇がおかれる黒板の前に陽翔はおろされた。


「あ、部長。その方が例の調査対象の方ですか。 いや~ほんとに来てくれたんですね。ちょっと嬉しいな」

 頭の上で声がする。さわやかなイケメンボイスだ。

 どうやら超常現象研究部のほかの部員はすでに集まっていたようだ。簀巻き状態の陽翔が見上げると、声の主もこちらを覗き込んでいた。


「#$%&&$&#!」

 猿轡をはめられた陽翔は声にならない悲鳴を上げる。

 なぜなら、陽翔を覗き込むその顏は半分だった。


 いや正確には、まともな状態が半分、というべきだろう。髪や眉毛は無く、見開かれた眼球が陽翔をとらえている。顔の右半分はむき出しの表情筋が覆う。首から下につながる体も、本来それを隠すはずの皮膚や肋骨が取り除かれ、赤黒い内臓がむき出しになっていた。人間の体のつくりを観察する人体模型。それが目の前で動いている。


「こら、さわがないの。今解放してあげるから」

 そういって玄武に陽翔を拘束していた光の輪を解除させた。

 体の自由を取り戻した陽翔はしりもちをついたままバタバタと手足を動かしこの場を逃げ出す。


 「落ち着きたまえ~、そんな時は歌うんだ~ままま~」

 這うように科学室の扉に向かった陽翔の前を、額縁に入った肖像画が飛んできて進路をふさぐ。

 重厚な声量のある声。

 ベートーベンの肖像画が歌っている!?

 学校の怪談で必ず出てくる『歌うベートーベンの肖像画』がふわふわ浮かびながら陽翔の退路を断つ。


「だ、大丈夫ですか?お水飲みますか?」

 驚きに固まった陽翔に優しく声をかけられれた。

 コップに水をいれてもってきてくれたのは、おかっぱ髪の少女。陽翔と同じ学校の制服を身に着けている。やっと現れた普通の人間に陽翔はほっと息をつく。


 あれ?でも何かがおかしい。


 しかし学年を見分けるリボンはない。それになんだか全身がしっとり濡れているようだ。雨も降っていないのになぜだろう。


 高校生と言うにはやや幼く見える。前髪を長くたらし幸薄そうな雰囲気。だがよく見れば結構かわいい。

 なんで濡れているのか全身を観察する。

 視線を感じ顔を伏せる少女を上から順に視線を下ろしていく。

 その途中で陽翔の動きが固まる。


 彼女の膝から下は存在しなかった。代わりにそこには便器があった。

 少女は便器の中から生えていた。


「あ、あんまり見ないでくださいぃぃ」

 真っ赤になった顔を手で覆うと、タイヤでもついているかのように便器が床を滑り日月の背中に隠れる。


「こら、花ちゃんをいじめないの」

 日月に抱き着くおかっぱ髪の少女の頭をなでながら日月が言った。


「そんな状態じゃ話もできないでしょう、ひとまず座って」

 陽翔は人体模型に支えながら立ち上がると、ゆったり六人は座れる大きな黒塗りの実験テーブルの椅子に案内された。木でできた背もたれの無い椅子に座らされる。


「いや~この部活にお客様が来るなんて初めてです。僕は骨川健太(ほねかわ けんた)と言います。よろしくお願いしますね」

 そう言いながら動く人体模型は、香りのいい紅茶が注がれたカップを陽翔の前に置いた。見た目と違って人当たりのいいやつだ。


「ど、どうぞ」

 お皿に乗ったクッキーをおかっぱ髪の少女が差し出す。

「み、御手洗花子(みたらい はなこ)でひゅ……」

 噛んだ……

 顔を赤くして再び日月の背中に隠れる。なんだかハムスターみたいな子だ。


「そして私がベートーベンだ。ままま~」

 額縁の中で歌いながらベートーベンが宙を舞う。「ここで一曲……ま~~~~!」

 科学室中にまるでコンサート会場のような音楽が響く。


「う、る、さ、い!」

 日月の一喝で、教室中を歌いながら飛び回っていたベートーベンの肖像画は壁に張られた元素記号票の横に納まり口を閉じた。

 科学室にベートーベンの肖像画、場違い感はぬぐえない。


 教室は再び静かになった。

「いつまでも話が進まないでしょ。みんなも座って」


 日月が白虎を頭に載せたまま実験テーブルの横に立つ。陽翔の運搬という一仕事を終えた玄武は、窓から差し込む光のたまる場所でのんびり日光浴をしていた。


 陽翔の向かいには、花子と健太が座った。壁に張り付いたベートーベンは小声でハミングを続けている。これぐらいならちょうどいいBGMだ。


「え~、本日も部員全員がそろったので、超常現象研究部、本日の活動を開始します。今日は体験入部として、1年生の照井陽翔君にも参加してもらいまーす」

 体験入部のつもりはなくてどちらかといえば拉致されてきたんだけどな。

 そうは思いつつも、ここで陽翔の押しの弱さが発動し、仕方なくその場に立ちあがり自己紹介をする。


「今日からこの学校に通うことになった照井陽翔です、別に入部希望できたわけじゃないんですけど……」

「細かいこと気にしていたらこの部活ではやっていけないわよ」

「だから入部するなんて誰も言っていないじゃないですか。だいたい、他の部員の方はいないんですか?」

 日月のほかは動く人体模型と歌うベートーベン。便器から生えた小柄な少女は名前とその姿からトイレの花子さんだろうか。いずれも学校の怪談で有名な妖怪たちだ。


「ええ、これで全員よ」

「人間の生徒が誰もいないじゃないですか」

「失礼ね、私は人間よ」ほほを膨らませ日月が抗議する。


「いや、日月先輩以外の部員がですよ。みんなお化けじゃないですか」

 陽翔の言葉にひらめき、人差し指を立てて日月が笑いながら言った。


「これがほんとの幽霊部員ってね」

 首を傾けいたずらっぽく舌を出す。頭の上の白虎が傾きに堪えるように前足に力を入れた。

 

 あれってやっぱり傾いたら落ちるんだなぁ。そんな感想が頭に浮かぶ。

 いや、今はそんな話ではない。ちょっとかわいいしぐさにはぐらかされるところだった。


「ここって一応、学校の部活動なんですよね。いいんですか?」

 渾身のネタを無視された日月がムスッとしながら答える。


「仕方ないでしょ。一般の生徒が花ちゃんや健太君のこと見たらびっくりしちゃうじゃない。だから活動中は誰も入れないようにこの教室には人払いの結界を張っているのよ」

 ということは、学校に内緒で勝手に教室を使っているってことか?とんでもない闇部活だ。


「じゃあ、学校に認められていないのに勝手に教室使ってるんですか?入学早々学校のルールを破りたくないんで、やっぱり俺は帰ります」

 立ち上がり欠ける陽翔を日月が止める。


「ちょ、ちょっと待ってよ。学校にはきちんと許可ももらってるし、教室の使用許可もあるわ」

 実質部員が一人しかいないのに部活として存続できるのだろうか?


「日月先輩しか部員いないのに、学校は何も言わないんですか?」

「まあ、それは、ほら、精神干渉系の術で校長の記憶をこうちょいちょいっと……」

「帰ります!」

 立ち上がりかけた陽翔の腕をつかんで日月が懇願する。


「ちょっと待ってって!陽翔君が入部してくれれば部員も増えて、そんな裏技使わなくてもきちんと学校にも認められるようになるのよ!」

 その言葉を聞いて陽翔の動きが固まる。


「もしかして、俺をここに入れるために、わざとカッパに襲わせたんじゃないですよね」

 陽翔の中に疑惑が膨らむ。なんだかこの人ならやりかねない気がしてきた。

「それは誤解よ!わかったわ、正直に話す」

 日月が両手を上げて降参のポーズをとった。

 頭の上の白虎が迷惑そうに耳を伏せる。


「私はあなたを最初、岩手から仙台に侵入してきた大妖怪だと思って退治しに行ったの」

「退治?」

「そう。日本には大昔から霊的に日本を守る『陰陽寮』って組織があるの。私はそこの一員」

 その名前は陽翔も聞いたことがある。確か平安時代から江戸時代まで存在した国の組織だったはず。


「それって、確か明治時代に廃止になったんじゃ?」

「表向きはね、でも間違いよ。陰陽寮は今でも存在している。今でも秘密裏に国の行く末を占ったり、重要施設の結界や妖に対する防衛などの業務を行っているわ」


 都市伝説で語られる『山手線は東京を守る結界』や各地に残る妖怪や悪霊の封印。

 確かに日本という国は現代でも霊的に様々な面で守られていると言われている。都市伝説で片づけるにはあまりにも事実と符合しすぎるものが多いとは陽翔も感じていた。


「陰陽寮の主な仕事は、さっき言った『日本を霊的に守ること』そのためには、霊場の安定が必要なの」

「霊場の安定?」

「そう。日本列島は各地域ごとに、長い歴史の中でバランスよく霊気が分散されて配置されているわ。霊気って言うのはそうね、生命力のオーラみたいなものかしら。人間が持つのが霊力、妖怪なら妖気、神なら神気。本質は同じようなものね」

 自分のカップで唇を湿らせると日月が続ける。


「日本各地に神社があるのことがその証拠。そのおかげで、人が都心に集中してもそれほど問題にならないのよ。人間の持つ霊気なんてたかが知れているからね。ただし妖怪は別。強力な妖怪が動いた場合、地域の霊気バランスに甚大な影響をもたらすわ」


 日月の言っていることはなんとなくわかった。しかし自分がそのバランスを壊すよう様な存在であるとは到底思えない。


「俺にそんな神様や大妖怪に匹敵する霊力があるっていうんですか?」

 陽翔の問いに自分の顎に手を当てて日月は悩む。


「う~ん、そうなのよね。普通、現代の人間の持つ霊力なんてたかが知れているから無視できるんだけどね」

 そういって再び陽翔のことをじっと眺める。頭の上の白虎の瞳が怪しく光る。


「やっぱり霊気が昨日より上昇しているわね。カッパに襲われていた瞬間ほどの力じゃないけど、今でも中堅クラス以上の霊気を垂れ流しているのが視える。これは妖気や神気にも近いわ。ねえ、陽翔君の親戚に神様とかいる?」

「いるわけないじゃないですか!」

 お正月に集まる親戚の借を思い出す……いるわけがない。当たり前だ。


「だよね~」

 日月が視線をはずす。


「現代で大きな霊気の移動があるときは、大妖怪や闇落ちした神がほかの地域に侵攻してきた場合という可能性が高いのよ。それを防ぐのも私たち陰陽師の仕事ってわけ」

「もし俺が悪の大妖怪だったらどうなんですか?」

「そんなの簡単よ」

「かんたん、て?」

「君を殺すか、封印すればこの地域も日本も安心安全ってこと」

 日月は笑っていった。しかし、その瞳だけには本気の光が宿っていた。

 

 


神鬼狂乱~女子高生陰陽師・安倍日月と荒覇吐の神~


スタートします。


ブシロード小説大賞応募予定のため、7月19日までに完結予定。原稿はすべて書きあがっているので、最終話まで一気に駆け抜けます!


最後までお付き合いお願いします。

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