第四十六話:鹽竈神社の攻防
日月たちが夜刀神を追っていたのと時を同じくして、鹽竈神社の上空では壮絶な戦闘が行われていた。
「黄金の、貴様なぜこのようなことを……」
日本最強の軍神、武御雷神は悠然と宙をただよう黄金の龍に向けて剣を向ける。
日本刀よりもさらに古い時代に使われていた柄の長い両刃の剣を軽々と片手で振るい、ぴたりと正眼に構える。
龍の後ろにはもう一柱。
鹽竈神社に祀られる剣の神、経津主神が退路を断つように剣を構えていた。
ほんの数刻前、黄金の姿の龍は雷雲を伴って現れた。
武御雷が相対する間もなく、雷撃が龍脈を封印する要石を襲った。
敵襲に備え幾重にも重ねた強固な結界も、まるで和紙を破くかのようにいとも簡単に破壊し龍脈は解放されてしまった。
封印に使われていた要石は粉々に砕かれ、龍脈の開放を抑え込むため脇で術を行使していた志波彦大神も巻き込まれ気を失ってしまっている。
もはや、濁流のようにあふれる霊気の波を止めるものは誰もいなかった。
「最強の軍神を名乗りながらその様か、見るに堪えんな」
龍の口から低くくぐもった声が発せられた。
挑発ともとれる龍の言葉に武御雷は冷静に対応する。
「よもやこれだけの力があるならただ暴れるのが趣味ということもないだろう。貴様、なにが目的だ」
「我の願いはただ一つ。日本の強靭化。これは軟弱な世界を形作った人間への業なのだよ」
龍が言葉を切ると、空は黒い雲に包まれ雷鳴がうなりをあげる。
そこから何本もの雷が放たれ、武御雷神とその後ろの鹽竈神社本殿を狙う。
武御雷神も雷をつかさどる神だ。本来なら雷による攻撃など無効化することも容易いはずだった。しかし、この龍が放つ雷撃は、武御雷でも御することができない。同程度の雷を放ち相殺するのが精いっぱいだった。
剣を振るい、ほとばしる雷を飛ばし、襲い来る雷を相殺していく。
何本か打ちもらす雷は、地上で気絶した志波彦大神を解放していた八塩道老翁神こと八塩じいが杖からはなつ水流で撃ち落としていった。
「これ!武御雷神よ、危ないではないか。もっとしっかり守らんか!」
杖を振り上げ空中の軍神に抗議する。
「文句を言う暇があったら志波彦大神を起こしてさっさと龍脈の穴を何とかしろ!」
叫びながら黄金の龍に切りかかるが、龍はするりとその体を揺らしてかわす。大ぶりの武御雷神の剣は空を切る。
しかし、避けられることは想定内だ。大ぶりで剣を振るうことで、龍の退路を限定する。右上段から切りつけられる攻撃を避けるとおのずと左への警戒が薄くなる。そこに龍の背後から経津主神が切りかかる。
鋭い一閃が黄金の龍を捉えるが、龍はフツヌシの攻撃を想定していた。風に薙ぐ反物のようにその体はフツヌシの剣すれすれを避け、振り切って無防備となったフツヌシに口から雷撃を放つ。
「すまない、武御雷神……」
直撃を受けたフツヌシは全身を焼かれ、たまらず本来の姿に戻った。それは一振りの剣の姿。
神剣、布都御魂の剣それが経津主神の正体だった。
意識を失い剣の姿に戻った布都御魂の剣は自ら、相棒である武御雷神の元へ飛びその手の中に納まった。
「令和に生きる軍神の力は、この程度か?」
あざけるように武御雷神の周囲をたゆたゆ様に舞う。
「その減らず口、この布都御魂で切り裂いてかば焼きにしてくれる」
武御雷神は右手に布都御魂、左手に愛剣を構え不敵に笑う黄金の龍に対峙した。
「いくぞ」
気負いの声とともに武御雷神は二本の剣を構え龍に切りかかる。
左右から連続で放たれる攻撃を龍は器用にさばくが、さしもの龍もすべてをかわすことはかなわず、金の体にいくつもの傷を負っていた。
次第にきざまれていく龍のうろこに武御雷神は自身の勝利を確信する。しかし……
「先ほどに比べればまだましか。さりとて、やはりこの程度か……」
そうつぶやくと、黄金の龍は口から大量の煙を吐き出した。
武御雷の視界が遮られ、龍の姿を見失った。
「くっ、どこに行った」
剣を振るい風圧で煙を払うが、すでにそこに龍の姿はない。
龍からの奇襲を警戒していたが、ついぞその攻撃は訪れなかった。
「奴め、逃げたのか」
次第に煙が晴れ、視界が回復する。
そこで武御雷神は地上に急降下する黄金の龍の姿を見た。
「まずい!」
地上では龍脈から噴き上がる霊気が霧のように大地を覆っている。
発生源であるこの場所はもっともその濃度が高い。あの龍がこれ以上の力を得たら、武御雷神の力をもってしても一人で押さえつけるのは難しくなる。
「爺さん、その龍を止めろ!」
もっとも高濃度の霊気があふれる龍脈の穴の周囲で必死に結界を構築していた八塩じいに武御雷神の怒号が飛ぶ。
慌てて振り向くと、上空から急降下する龍の姿があった。高濃度の霊気をくぐり、きざまれた黄金のうろこは光をまとって再生していく。
そのまま龍脈に飛び込む勢いで向かう龍の眼前に白い壁があらわれ、龍は急に速度を落とした。
「龍脈のエネルギーを直接吸収する気じゃな。そんなことはさせんよ」
八塩じいは結界の構築を中断し、襲い来る龍を遮るため杖を振るってさらに『塩の壁』を作り出す。
龍の前に分厚い壁があらわれるが、それらはすべて龍の放つ雷撃でいともたやすく粉々に砕け散る。
いくら分厚く作ろうが、八塩じいの操れる塩で作る壁はしょせん岩塩ほどの硬さでしかない。
「うひょー、老人はいたわる者じゃって常識はないのかのう」
目前に迫る黄金の龍に向かい杖を構えるが、導きの神である八塩道老翁神に龍の攻撃を防ぐ手立てはもう残っていない。
「あれ?これわし死んだかも……」
半分あきらめかけた八塩じいの目の前の空間が揺らめく。地面から這い上がるように真っ赤な蛇が姿を現した。
「ほう、我の名をかたる不届きな妖はお前様か」
深紅の蛇、荒覇吐神の和魂は目前で動きを止めた黄金の龍を見据え呟いた。
黄金の龍が初めて警戒するように目を細めた。
神鬼狂乱~女子高生陰陽師・安倍日月と荒覇吐の神~
ブシロード小説大賞応募予定のため、7月19日までに完結予定。原稿はすべて書きあがっているので、最終話まで一気に駆け抜けます!
少しでも気に入ってもらえたら、作品フォローと評価、なにとぞよろしくお願いします!




