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神鬼狂乱~女子高生陰陽師広報・安倍日月と荒覇吐の神~  作者: 杜宮みやび


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第四十五話:夜刀神の目指す場所

 荒覇吐神社の神域で猫神が覚醒する少し前。東北歴史博物館旧館の前で、ようやく日月と電話がつながった玲愛は安堵のため息を漏らした。


「日月ちゃん達、無事ですか?」

 横から心配そうに麗子が玲愛を見る。


「安心せい、2人とも無事や言うとったわ」

 受話器を離し麗子に答えると、スマホの画面に緊急霊圧変化速報が表示された。画面が真っ赤に光る。警告表示だ。


「姉さん覚悟してぇな。もう一発、でかい霊気の波が来るで」

 言ったとたん、霊視メガネが異常値を検出しアラートを鳴らした。

 霊感のない玲愛ですら、肌をチリチリと焼かれるような気の力を感じる。妖怪口裂け女である麗子はより強力にその影響を受けていた。

 龍脈の霊気は妖怪に力を与えるが、無限に力を得るわけではない。それぞれに受け付けられる限界というものが存在する。


「うっ……」

 霊気を受けた麗子は妖怪の姿に戻り苦しそうにうずくまる。


「姉さん大丈夫かいな」

「え、ええ。霊気の濃度があまりに濃すぎて気分が悪くなっただけです」


「食べ過ぎみたいなもんか、現代でこんな霊気を一度に受けることなんか普通はあらへんから仕方ないわ」

 玲愛が肩を貸して立ち上がらせる。


「姉さんはこの量の霊気を受け止めきれへんかったみたいやけど、さっきの奴らは……」

 そう言って目の前に建つ旧館を眺める。


「……玲愛、すぐそっちに向かうから電話はこのままつないでおいて……」

 手のなかでつないだままのスマホから日月の声が響いた。

 しかし玲愛にはそれに答えている余裕はなかった。

 大きな音を立てて旧館の建物が内側から爆発するように破壊されたからだ。

 すぐに異変に気づいた麗子が玲愛を小脇に抱えて破片の飛び散る外まで飛び退った。


「ありがとう姉さん」

 麗子の腕のなかで玲愛が礼を伝えた。

 高濃度の霊気にも多少慣れてきた麗子が旧館から飛び出した存在を眺めて呟く。


「玲愛さんの心配が現実になっちゃったみたいね」

 崩れる旧館のがれきを突き破り、角を持つ巨大な蛇が姿を現す。周囲に建物の破片をまき散らしながら、次々とその姿を現実のものとしていた。

 一体、二体ではない。

 何十もの大蛇が絡み合いながら天へ伸びあがっていく。その光景はまるで神話に語られる八岐大蛇のようであった。


 つないだままにしていたスマホから日月の心配する声が引き続き聞こえている。

 崩れる建物の中から、さながら怪獣映画のように伸びあがる角のある蛇を見上げて玲愛は呆然と事実を伝えた。


「これは、ちょっとヤバいで……博物館に封じられとった夜刀神が復活したんや」

「何のんびり眺めてるんですか!逃げますよ」


 玲愛を引きずるようにRX8の後部座席に押し込むと、自身も運転席に飛び乗りエンジンをかける。一気にアクセルペダルを踏み込むとロータリーエンジンがうなりタイヤを急回転させる。

 強い力で押しだされたRX8の赤い車体は正面の道路に飛び出した。運よく他に車はいなかったためそのまま仙台方面に向け速度を上げる。


「これからどうしますか」

 後部座席の窓から夜刀神の動きを見つめている玲愛に質問を投げる。


 バックミラーに移る巨大な蛇は二手に分かれて移動を開始していた。二体だけが北西に向けて進み、他の大量の夜刀神は玲愛たちを追うように仙台方面に向かって進んでいた。


「えー、これもしかして私たちを追ってきてるんですか?」

 電柱ほどのサイズに巨大化した夜刀神はその巨体で周囲の建物を破壊しながら一直線に玲愛たちの方へ向かってくるように見えた。

 しかし……


「待ってや、あの蛇さんたち動きがなんか妙やで、なにかを探してるんか?」

「そんなことより逃げなきゃつぶされちゃいますよ!」


「待って、姉さん、次の角で曲がってちょっと車を止めてえな」

 後部座席のヘッドレストにつかまり、夜刀神の進行を見つめていた玲愛が言った。


「そんなことしたら追いつかれちゃいますよ!」

 麗子が耳まで裂けた口で悲鳴を上げる。


「いや、たぶん大丈夫や」

 窓の外から視線をはずさずに玲愛が答える。


「もう、知らないからねっ」

 麗子が目にもとまらぬ速さでハンドルを回す。同時にブレーキとアクセルを絶妙なタイミングでつないだ。

 RX8の車体は地面に吸い付くような滑らかな動きで直角にまがると、広い路側帯にぴたりと止まった。

 麗子は恐る恐る背後の蛇の群れを眺める。

 すると、夜刀神の群れは麗子達など気に留めることもなく一直線に仙台市街地の方へ向かって行った。


「あ、あれ?」

 呆然とする麗子とは対照的に玲愛は何かに気づいたようだった。


「やっぱりや、奴らなんか目的があるんや」

 他のものには目もくれず、ただひたすら一直線にどこかを目指す夜刀神を見つめ玲愛がつぶやく。

 その時、玲愛の耳に日月の呼ぶ声が響いた。


 スマホの通話口からではない。上空からだ。

「玲愛~」

 玲愛が見上げると、そこには雄々しい黒いたてがみをなびかせた大きな獅子の姿があった。




 天から舞い降りた漆黒のたてがみを持つ獅子。その背中にはたてがみに隠れて二つの人影がある。

 日月と陽翔だった。

 二人を乗せた獅子は、まるでそこに道があるかのように宙を駆け下りて路肩の脇にとまるRX8の元へ立った。


「日月、なんやえろう立派な聖獣に乗っての登場やな」

 車の外で日月たちを迎えた玲愛が、雄々しいたてがみの獅子を見つめて驚く。


「そうにゃ!もっとあがめてもいいにゃよ」

「え?その声、まさか猫神様かいな、こらまた立派に育ったもんやな」

 その正体がハチワレ柄の猫神だと気づくと玲愛は興味深そうにその姿を観察した。

 退魔の槌で殴られたトラウマのある猫神は、どれだけ立派な姿になっても玲愛は苦手なようで首を縮こめる。


「日月ちゃん、無事でよかった」

 運転席から降りた麗子も日月たちとの再会を喜ぶ。


「あれ、麗子さん。なんで玲愛と一緒にいるんですか?」

「行きがかり上ちょっとね、こんなことになるとは思っていなかったけど」

 いつもの人間の姿に戻った麗子が苦笑を浮かべて答えた。「二人はあの蛇を追っているの?」

「いえ、私たちは荒覇吐神様の荒魂(あらみたま)を探しに行くところだったんです。そしたら玲愛のスマホからすごい爆発音が聞こえたから急いで飛んできたんです。あの蛇は何なんですか?」


 その日月の疑問に答えたのは玲愛ではなかった。

『あれは夜刀神(やとのかみ)荒覇吐神様(あらはばきのかみさま)眷属(けんぞく)の蛇神だ』

 顔にうっすらと蝦夷(えみし)の刺青が浮かび、陽翔の口を通して阿弖流為(あてるい)が話し出した。


「出たわね阿弖流為」

 日月が腰に下げた錫杖に手をかけ警戒を高めるが、すぐに陽翔の声が続いた。


「日月先輩大丈夫です。俺の意識もあります。荒魂の捜索に阿弖流為も協力してくれるそうです」

 同じ口から今度は阿弖流為の声が続く。


母禮(もれ)にも頼まれているからな、ひとまずはお前たちに力を貸そう。今後我がどうするかはひとまず荒覇吐神様の荒魂を見つけてから考える』

 それがいろいろ考えて出した阿弖流為の結論なのだろう。ひとまずは多くの妖怪が力をつけているだろうこの状況で敵対しないで済むというのは非常にありがたい。


「ほなら阿弖流為はん、まずはあの夜刀神を止めたいんや。どこに向かっているかわかるか?」

 今はまだ田畑が多く被害は少ないが、このまま進めば本格的な市街地に入る。そうなれば住宅やそこに暮らす人々にも甚大な被害を与えかねない。


『簡単なことだ。夜刀神の目指すのは荒魂の封印された場所。この進行方向にあり、我や母禮ともかかわりの深い場所だ』

 日月はこの地域の地理を頭に思い浮かべる。

 

 阿弖流為(あてるい)母禮(もれ)、つまりその魂を宿す陽翔や日月にかかわる場所……


「まさか、学校!?」

 思い返してみれば陰陽寮の占いで日月が通うことになったのも、陽翔が無意識的に呼び寄せられたのも二人が通う七北田高校(ななきたこうこう)だった。そしてその学校は霊的にも特異的な場所に立っていた……


「あの学校が霊的に特殊だったのはどこかに荒覇吐神様の荒魂が封じられていたからだったのね」

 当時最高峰の陰陽師たちが封じたのであろう、日月であってもまさかその場所に日本の古代神の荒魂が封じられているなどとは思ってもいなかった。


「下手に社なんか立てたら信仰が集まって復活するかもしれん。せやから神社にはせんかったんやろな」

 玲愛はスマホで土地の変遷を確認しながら続ける。「学校が立ったのはけっこう最近やな。それまでは国の管理地でただの空き地やったみたいや」


「絶対に蘇らせちゃいけない存在だったんですよね、それなのに空き地のままで大丈夫だったんですか?」

 それほど危険な存在だったのと言うのに、あまりに警戒が薄いのでないかと陽翔は心配する。


「忘れられるっちゅうことは、神や妖怪にとって最も恐ろしいことなんや。実際こんな事件起こらへんかったら、荒覇吐神は後数年で消滅していてもおかしく無かったで」

 1300年という時間はいかに偉大な神であろうと消滅させるには十分だったはずだ。


「せやけど、当時においても絶対に蘇らせるわけにいかない古代神だったはずや。相当しっかりした強固な封印が施されているんは間違いない。けど、今の状況では、その封印もどこまで耐えられるかわかったもんじゃないな」

 玲愛は真剣な表情でつぶやく。


 あれだけ厳重だった夜刀神の封印ですら簡単に解かれてしまったのだ。どんなに力のある結界師であっても、荒魂の復活を抑えることはできないだろう。

 そうしている間にも、夜刀神は田畑をつぶしながら一直線に七北田高校を目指し進んでいた。

 

 学校には超常現象研究部の仲間がいる。それに、もしかしたら部活動で登校している生徒もいるかもしれない。


「みんなが心配だわ、急いで学校に向かうわよ」

 日月は再び猫神の背にまたがって叫んだ。




神鬼狂乱~女子高生陰陽師・安倍日月と荒覇吐の神~


ブシロード小説大賞応募予定のため、7月19日までに完結予定。原稿はすべて書きあがっているので、最終話まで一気に駆け抜けます!


少しでも気に入ってもらえたら、作品フォローと評価、なにとぞよろしくお願いします!

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