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神鬼狂乱~女子高生陰陽師広報・安倍日月と荒覇吐の神~  作者: 杜宮みやび


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第三十六話:稗田玲愛、黄金の龍を目撃す

 時は少し戻る。


 誓詞の企みによって消失した札は、狙い通り陽翔の中の阿弖流為の力を再びよみがえらせることに成功した。

 あれだけ強固な結界の中に閉じこもっていた荒覇吐神も、かつての自分の臣下があらわれたことで自らの元に招き入れた。

 誓詞があの場所にいたら警戒されて潜り込むことは不可能だったかもしれない。


 狙い通りだ。


 禍々しい恨みの気を放つ阿弖流為も、荒覇吐神の元ではまるで借りてきた猫のようにおとなしい。

 その様子を陽翔の肩に忍ばせた蟲式神を通して見ていた。


「なるほど、ここに残っているのは荒覇吐(あらはばき)和魂(にぎみたま)だけでしたか。どおりで反応が薄いわけだ。いったい荒魂(あらみたま)はどこに封じられているのでしょうね」


 煙に映し出される結界内の様子を見て誓詞は首をひねる。

 話の流れを見る限り、もし知っていたところであの和魂は教えてはくれはしないだろう。


「やはり、龍脈を完全に決壊させて霊気の奔流でたたき起こすしかありませんね」

 知りたい情報は得た。

 そうとわかれば、荒魂を制御する可能性のある荒覇吐神の和魂は邪魔でしかない。あわよくば阿弖流為の力も利用できるかと考えていたが、このまま和魂に懐柔された場合この後の計画に支障をもたらす危険があった。


 大きくため息をついた加茂誓詞が指を鳴らす。

 画面の中では制御を離れた蟲式神が、土蜘蛛本来の姿に戻って陽翔を押さえつけていた。


「土蜘蛛、そいつらが結界を出ると面倒だ。適当に相手をしておけ」

『ワ、ワカタ……、ク、クッテもイイ……カ……』

 土蜘蛛からの念話が誓詞の意識に流れ込んできた。機械音声のような耳障りの悪い声に誓詞は眉を顰める。


「そうですね、そっちの荒覇吐に用はありません。お好きにしてください。全部食べちゃってもいいですよ。ただ、日月ちゃんはまだ使い道があります。できるだけ傷をつけずに制圧してください」

『ワ、ワカタ……、ヒヅキ、タベナイ……』

 念話に乗って土蜘蛛の飢えが伝わってくる。


 そういえば、奴を従えてからというもの、数年間餌をやっていなかった気がする。

 加茂の制御を離れた土蜘蛛が、どこまで命令を効くかは疑問が残るが、これからのことを考えればそれは些事に過ぎない。

 ここで死ぬならその程度の存在だったということだ。今から行われる令和の百鬼夜行の中では到底生き残ることはできないだろう。早いか遅いかの違いでしかない。

 

 誓詞は、ふっと煙を吹き消し、日月が切りつけられる映像を消した。


 頭の中に、もう彼らのことは残っていなかった。これからもう一度鹽竈神社へ出向き、今度こそ龍脈を完全に開放しなくてはならない。

 本来ならとっくにあふれ出してもおかしくなかったものを、小癪な神々が霊気の噴出を抑えているせいでいまだに効果が限定的だ。

 龍脈を解放するなら、妖の力が最も高まる新月の今日がもっとも好ましい。

 

 この前の龍脈の封印を襲った時とは違う、鹽竈神社の神々も今度はかなり警戒を強めているだろう。

 それに、あそこには日本最強の軍神『武御雷(たけみかづち)』がいる。

 まともにやりあったら、日本中の神鬼の中でも勝てるものはいないだろう。しかしそれでも、やらねばならない。


 龍脈の完全開放。


 加茂誓詞の目指す未来にそれは絶対不可欠なのだ。

 吸いかけの煙草を放り捨てると、パチンと指を鳴らす。誓詞の体が黄金色の光に包まれる。

 次の瞬間、雷鳴がとどろき神域の空が裂けた。


 地面から黄金の龍が空へ登る。

 黄金音龍は体をくねらせ、空の亀裂の中へとその姿を消した。

 地面に残されているのはキャメル色のジャケットと吸いかけの煙草だけだった。


 *


 東北歴史博物館を後にした玲愛(れあ)は、案内をかってでた鹿島麗子(かしま れいこ)に案内されて施設の駐車場に来ていた。


「こちらです」

 麗子は駐車場の隅にとまる真っ赤なスポーツカーの扉を開けて玲愛を促す。


「はえ~、おっしゃれなくるまやなー」

 鋭く流れるような輪郭、車高を低く落とした走りに特化したスタイル。今では珍しい純粋なスポーツカーというフォルムだ。


「ありがとうございます!この子はRX8と言ってマツダのロータリーエンジンが……」

「あーあー、そういうのええから」

 玲愛の言葉にオタク心を刺激された麗子が早口で車の解説を始める。慌ててそれを止めて先を促す。


「その話はまた今度、日月にでもしてやってんか。今は急いで、その旧館とやらに案内してほしいねん」

「そうですかぁ……」

 明らかにしょんぼりとする。そのとき車に乗り込もうとする二人は北の空に光る何かを見た。


「なんやあれ?!」

 助手席の扉に手をかけたまま、あんぐりと口を開けて玲愛は上空を見上げたまま固まる。距離が遠く、霊視レンズのサーチの範囲外のため詳細は分析できない。しかし、その輝きと大きさは、明らかに普通の生き物のものではなかった。


「龍……でしょうか?」

 同じく空を見上げた麗子もつぶやく。


 『黄金の龍』つい先ほど陸奥総社宮で聞いたばかりだ。鹽竈神社の龍脈を破壊した根源。方向的に向かっているのは――鹽竈神社の方角だ。


「やっばいで、今度攻撃を受けたら完全に封印が破壊されてまう。姉ちゃん急いでや」

 今から向かう旧館に何があるのかわからないが、もし龍脈から霊気があふれ百鬼夜行が始まったら、のんびり調査などしていられなくなってしまう。


「わ、わかりました」

 なんだかわからないが、玲愛の焦りから状況が切羽詰まっていることを麗子も感じ取った。

 体を包み込むようなバケットシートに身を鎮め、シートベルトを締めると同時にエンジンを始動させる。ロータリーエンジンの咆哮【エグゾースト】が車内の玲愛たちにも響く。


「行きますよ!」

 麗子がアクセルを踏み込む、加速によるGが玲愛の体をシートに押し付けた。


「は、え?」

「舌噛まないでくださいよ」

 いつの間にか、口を大きく引き裂く『口裂け女』本来の姿に戻った麗子は口元に笑みを浮かべ、前のめりになってさらにアクセルを吹かし、ありえない速度でハンドルを回す。


「ひょえ~~」

 玲愛の悲鳴はうなるエンジン音にかき消される。スピンするように方向を変えたRX8は、アスファルトを切り裂さきながらテールを振ってゲートを飛び出した。


  

 

 

 



神鬼狂乱~女子高生陰陽師・安倍日月と荒覇吐の神~


ブシロード小説大賞応募予定のため、7月19日までに完結予定。原稿はすべて書きあがっているので、最終話まで一気に駆け抜けます!


少しでも気に入ってもらえたら、作品フォローと評価、なにとぞよろしくお願いします!

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