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神鬼狂乱~女子高生陰陽師広報・安倍日月と荒覇吐の神~  作者: 杜宮みやび


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第三十四話:導かれる阿弖流為

 鎮守の森(ちんじゅのもり)に前に残された陽翔(はると)は森の周囲を回りどこかに入口がないか探していた。


 魂を激しく消耗した日月は、近くの岩に腰を下ろし体力の回復を図っている。

 日月の周囲は猫神と白虎が警戒していた。


 誓詞(せいし)がうまく引き付けてくれているのか、今のところくねくねが襲ってくることはない。

 しかしいくら加茂誓詞と言えど、見るだけで命を吸われる七体もの妖に対して無事でいられる保証はない。

 逃げる出口すらわからないこの空間では、もう何とかして荒覇吐神(あらはばきのかみ)に会うしか道は残されていなかった。


「くそっ、どうやって入ればいいんだ」

 陽翔はどこか侵入できる場所はないかと、鋭い枝葉で侵入者を拒む森の周りを何度も右往左往する。

 森を囲う茨に手を伸ばすが、鋭い棘で覆われたつるが何重にも重なり、腕の一本を通す隙間もない。

 

 普段の陽翔であれば、霊気の揺らぎのようなものを感じて、結界の緩い場所を探ることができるのだが、今はこの胸に張られた札のせいか第六感が全く働かない。

 それどころか、さっきからまるで吐き気をもよおした時のように、なにか重いものが体の中で渦巻いている。

 体の奥底でむかむかした、気持ちの悪い感覚だけが次第に高まっていき、息苦しい。

 

 陽翔は胸に張られた札を見つめる。|

 阿弖流為あてるいの暴走を抑えるというのは確かなのだろう。今は霊的な力が完全に遮断されている。しかし、この札を張られてからというもの陽翔は体の中に、何かどす黒いタールのような黒い意識が貯まっていくのを感じていた。

 

 体の中の重さが限界に近づいた、その瞬間だった。

 陽翔の胸に張られていた封印の札が突然、炎を噴き上げ消失した。



「陽翔君!」

 様子を見守っていた日月(ひづき)も慌てて立ち上がり駆け寄ってくる。


「だ、大丈夫です。札が燃えただけで俺はなんともありません。それより、この札が消失したってことは、まさか加茂さんに何かあったんじゃ……」


 そう言った時、体の中を何かがうごめく気配を感じた。

 たまりにたまり、今まで押さえつけられていた何かが、その箍を破りあふれ出しそうな感覚。

 右腕を起点に陽翔の体を光が急速に覆っていく。


 体中に広がった文様のような刺青が青白い光を放つ。

 陽翔はこの感覚を知っている。阿弖流為が発現する予兆だ。札によって押さえつけられていた阿弖流為の意識が、濁流のように陽翔の自我を侵食していく。

 

 駄目だ。

 

 日月はほとんど行動不能だ。ここで意識を阿弖流為に明け渡したら、奴が何をしでかすかわかったものではない。最悪の場合、日月を傷つけてしまうかもしれない。

 

 そんなことは絶対にさせない!


 陽翔は自身の体の中であふれ出す怒りの奔流に必死に抗う。

 体の主導権が奪われていく感覚の中、必死に自我を保つ。しかし、1300年募った恨みの念に対抗するには、十六歳の陽翔の意識はあまりも無力だ。


 「しっかりして、陽翔君!意識を渡しちゃダメ」

 悲鳴にも似た叫びが耳に響いた。


 日月が陽翔の左腕をつかんで必死に語り掛ける。消耗しきった体で、それでも手放さない。

 かすれていく意識の中で、その手のひらの温かさだけに陽翔は集中した。

 

 『うるさいぞ小娘!』

 陽翔の意識の奥底で怒号が響いた。

 

 阿弖流為の意識が日月への拒絶を示す。

 陽翔の左腕を握る日月の手を振りほどこうと、阿弖流為は陽翔の右のこぶしを握り締め振り上げる。

 青白い刺青が右腕を覆い、光が強くなる。

 持ち上げられたこぶしが、日月に向かって振り下ろされようとしている。


 その瞬間——陽翔は意識の奥底から全力で叫んだ。


「阿弖流為!彼女を傷つけることは、俺が絶対許さない!」

『なんだとっ?』

 阿弖流為の振るったこぶしは、日月に届く寸前で動きが止まった。

 奪われかけていた主導権が、陽翔の手に戻ってくる。

 アテルイの驚きと戸惑いが、陽翔の意識に伝わってきた。

 

 その瞬間だった。

 

 今まで陽翔たちを拒み続けていた森が、音もなく開いた。

 鋭い枝葉が左右に分かれ、そこに奥へ続く一本の道が現れる。


 その道の先から、温かい気が流れてきた。

 懐かしい気配だった。言葉にはできないが、陽翔も確かに感じる。

 陽翔の体の中で、阿弖流為の怒りが静まっていく。


『あ……あ……荒覇吐神様……』


 はじめて聞く、アテルイの呟きだった。怒りではなく、それは——安堵だった。

 怒りだけが支配していた阿弖流為の意識が震える。長い旅路の果てに、ようやく帰る場所を見つけた子供のように阿弖流為は森の奥に導かれる。

 阿弖流為の意識に引きずられ、陽翔の足が道の奥へ進み始めた。


「陽翔君、待って!」

 日月が足をもつれさせながら後を追う。猫神が駆け、白虎がはねた。


 全員の姿が森の中に消えると、茨は静かに戻り、道を閉じた。




 


神鬼狂乱~女子高生陰陽師・安倍日月と荒覇吐の神~


ブシロード小説大賞応募予定のため、7月19日までに完結予定。原稿はすべて書きあがっているので、最終話まで一気に駆け抜けます!


少しでも気に入ってもらえたら、作品フォローと評価、なにとぞよろしくお願いします!

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