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神鬼狂乱~女子高生陰陽師広報・安倍日月と荒覇吐の神~  作者: 杜宮みやび


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第三十話:荒覇吐神社への道

 八塩じいは龍脈の崩壊阻止に力を貸すため武御雷神(たけみかづちのかみ)に連れていかれてしまった。

 日月たちは八塩ばあに連れられ陸奥総社宮(むつそうしゃのみや)まで戻っていた。

 社務所の一室でお茶をふるまわれながら、日月たちは今後の予定について話をする。


荒覇吐神(あらはばきのかみ)に会って、俺たちは何をすればいいんですか」

「まずは黄金の龍の正体を探ることや。本物の荒覇吐神なのか、何者かが荒覇吐神の名をかたっているのか?もしそうなら本物の荒覇吐神は今どうしているのか、これが重要や」


「もし本当に荒覇吐神が要石を破壊して自身の完全復活をもくろんでいたら……」

「説得。できればいいんやけどな。阿弖流為(アテルイ)の魂持つ陽翔はんが頼りや」

「そんな、俺ですか?」

「もっともまずいのが、阿弖流為と荒覇吐神が一緒に暴走したら、もうお手上げやな」

 玲愛は両手をあげて万歳をする。


「そんな……」

「だから陽翔はん。自分の意識をしっかり持つんや。阿弖流為に主導権を握らせたらあかん。陽翔はんが抑えられなかった時には、日月が最初にその被害にあうことになるんやからな」

 真剣なまなざしで陽翔を見つめる。


 田代島での記憶がよみがえる。

 日月を傷つけられたことで怒りが心を満たした。その隙をつかれて阿弖流為に体を奪われた……

 蝦夷の村を焼かれ、怒り狂い暴れる荒覇吐神の映像が重なる。


「大丈夫よ、私がそんなことはさせない。今回は加茂さんも一緒に来てもらうから大丈夫よ」

「はぁ~、日月ぃ、いい加減あの男のこと信じすぎるのはやめときや」

 玲愛がため息をつく。


「なんでよ。加茂さんは優しいわよ。玲愛はいつも意地悪ばっかりするから」

「はいはい、わかったわかった。とにかく十分注意してな。ひとまず本部から持ってきた装備一式わたしとくわ」

 玲愛はリュックの中から大量の退魔札と田代島で壊れてしまった代わりの錫杖、そして式服を取り出す。


「麻の巫女服や妖術に対抗する術糸が編み込まれとる。それに陽翔はんが作務衣なのに、洋服じゃカップルとしてバランス悪いで」

「カップルじゃないわよ!衣装をそろえる必要はないじゃない!」

 日月は赤い顔で式服を受け取ると着替えのために部屋を出ていった。八塩ばあも手伝いに日月について部屋を出た。


 そんな日月を見送り玲愛が念を押す。

「陽翔はん、日月の事まもってやってぇな。あの通り、あの子は加茂誓詞(かも せいし)について警戒心が無さすぎやねん。奴ことは信用しすぎちゃあかんで」

「わかりました」

 陽翔は真剣な表情の玲愛にうなずいて答えた。


 着替えを終えた日月が八塩ばあとともに戻ってきた。


 月明かりをそのまま織り込んだかのような、細かい刺繍の施される真白い絹の式服。それを紫の薄衣が包み込んでいる。その姿はまるで神話の世界から舞い降りた巫女のようであった。


 言葉を失い見つめる陽翔の視線を感じ、日月は長く広がる袖をあげて赤くなる自分の顔を隠した。

 「そ、そんなに見つめないでよ」

 袖の陰から顔をのぞかせ陽翔に言った。

 菫を思わせる薄紫は、日月の黒髪をいっそう美しく引き立てていた。


「ちょっと、聞いてる?」

 いつもの三つ編みに、四色の髪飾りが揺れている。

 やっとの思いで言葉を紡ぐ。


「あ、はい、日月先輩に似合っていて……、その、すごく素敵です」

 この衣装は日月のためにあるのだと、陽翔は確信する。


「あ、ありがとう……」

 お互いほほを染めた互いの顔を見て、二人は慌てて視線をそらした。

 初々しい二人を生暖かい目で見つめながら玲愛がパンと手をたたき声をあげた。


「準備も万端や。荒覇吐神の神さんに会いにいきまひょか」

 

 *

 

 八塩ばあに見送られて三人と一匹は陸奥総社宮を出た。

 駐車場に戻ると、来た時と同じままで山吹色のBe-1が停まっていた。

 窓ガラスには玲愛が貼った結界の札がまだそのまま残っていた。

 

 運転席では加茂誓詞が煙草を吸いながら本を読んでいた。車内は煙で白く霞んでいる。


 玲愛は車に近づくと、しぶしぶ封じていた札を剥がして扉を解放する。

 きしむ車のドアを開くと、たばこの煙とともに加茂誓詞がおりてくる。おじいさんにはなっていないが、まるで浦島太郎みたいだ。

 狭い車の中からやっと出られた加茂誓詞は、タバコを咥えたまま腕を突き上げて延びをする。


「お帰り。随分かかったね。お、日月ちゃん久しぶりの式服姿だね。ということは今からどこか行くのかな」

 首をコキコキとならす誓詞に日月が伝える。


「加茂さん。荒覇吐神神社に行くことになりました」

「ほう、蝦夷の神に会いに行こうっていうのかい」

 加茂は一瞬だけ目を細めるが、すぐにいつもの笑みに戻る。


「一緒に来てもらえますか」

 誓詞はチラリと玲愛の表情を確認すると大仰に言った。


「もちろん、可愛い日月ちゃんの頼みだ、どこにだってついて行くよ」

 玲愛が強く日月の袖を引いた。


「日月」

「わかってる」日月が静かに言った。「さっきも陽翔君が阿弖流為の記憶に引き込まれました。もし荒覇吐神神社でもう一度同じことが起きた時でも、加茂さんなら抑えられるでしょう?」

 日月の質問を受けて加茂はチラリと玲愛を見る。視線が合った玲愛は加茂を睨んだ。

 加茂は涼しい顔で煙草を携帯灰皿に捨てる。


「そうだね、賢明な判断だと思うよ」

 それだけ言って、玲愛に向けて軽く肩をすくめた。

 玲愛が長い沈黙の後、大きく息を吐いた。


「……わかったわ、頼んだで。でも日月たちに何かあったら承知せえへんからな」

「肝に銘じておくよ」

 玲愛にウィンクを返し、後部座席の扉を開けた誓詞は執事さながらに日月たちをエスコートする。

「じゃあ、早速参りますか」 


 二人が猫神を抱いて席に乗り込むと、加茂は後部座席のドアを閉める。

 玲愛が加茂の顔を間近でじっと見た。

「必ず二人を無事に帰してや」

「もちろん」

 加茂が屈託のない笑顔で答える。


 玲愛はそれ以上何も言わなかった。

 加茂が運転席に乗りこみ車が走り出す。


 玲愛の姿がバックミラーの中で小さくなっていった。

 

 Be-1は末路わぬ神『荒覇吐神』が眠る多賀城荒覇吐神社に向かって、そのうるさいエンジンをうならせ進んだ。

 

神鬼狂乱~女子高生陰陽師・安倍日月と荒覇吐の神~


ブシロード小説大賞応募予定のため、7月19日までに完結予定。原稿はすべて書きあがっているので、最終話まで一気に駆け抜けます!


少しでも気に入ってもらえたら、作品フォローと評価、なにとぞよろしくお願いします!

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