第二十九話:荒覇吐神社
「お前たちは一度、荒覇吐神の社に行く必要があるな」
陽翔が落ち着くのを待って武御雷神が腕を組んだまま言った。
「陽翔君の見た記憶が正しいのであれば、荒覇吐神は1300年前に封印されたんですよね。それがどうして現代まで消滅せずに残っているんですか?」
蝦夷が滅び、信仰が途絶えた神をあがめるものはいなくなったはずだ。信仰を失った神は消滅する。そう聞いていた。
朝廷の語る神の系譜にも含まれない神が今まで存在を維持し続けているのか。日月の疑問ももっともだった。
「荒覇吐神社を守るものがおったのじゃよ」
八塩じいが答える。
「滅ぼされたと言うても、蝦夷が皆殺しにあったわけではない。多くは朝廷側に従い徐々に同化が進められていったのじゃ」
日本の成り立ちは小国の融合によってなされていったと言われている。時に戦い、時に和睦を結びながら徐々に一つの国家へと集合していった。ほかの小国と同じように蝦夷も日本国の一員として時代とともに交わっていった。
「それでも、荒覇吐神に仕えていた巫女の一族は、細々と荒覇吐神への信仰を伝えてきた。ほかの多くの末路わぬ神たちは信仰の消滅とともに存在を消したが、荒覇吐神信仰だけはかろうじて現代まで生き延びてきたんじゃ」
「それで今も荒覇吐神をまつる神社があるのね。じゃあそこの神官さんに話を聞けば……」
八塩じいの説明に光明を見出した日月が目を輝かせるが、それはすぐに否定された。
「いや、それはできんのじゃ」
悲し気に八塩じいはうつむく。「荒覇吐神社を守っていた最後の巫女は少し前に死んでしまってのう。それ以来、荒覇吐神社は無人のままじゃ。荒覇吐神がどうしているかはわしらでは知ることはできん」
末路わぬ神の社に、衰退の原因となった朝廷側の神が出向くことはできないのだろう。八塩じいや武御雷神に知るすべがないのも無理はない。
「つまり、龍脈の封印を破壊し復活を画策しているかもしれない黒幕の元に直接乗り込むしかないってことね」
日月は険しい表情をしながらも行く気満々で言った。
「ちょ、ちょいまちーな、さすがに危険やろ!封印されておるゆうても、日本最古ともいえる神様やで」
いつもの無鉄砲な提案に玲愛は慌てて友人を止める。でも、陽翔も思いは同じだった。
「俺もあってみたいです」
珍しく陽翔が力強く自分の意見を言った。
「阿弖流為の記憶の中の荒覇吐神は、すごく穏やかな優しい神様でした。朝廷に恨みがあるからと言って、すべてを亡ぼすようなことをするようには思えないんです」
「せやかて、自分を信仰する民を殺され、国を奪われて1300年やぞ。恨み募ってっちゅうことも考えられるやろ」
そんな危険なところになぜ、阿弖流為の魂を持つとはいえただの一般人の陽翔や、新米陰陽師の日月がいかねばならないのか。玲愛の瞳には本気で親友を心配する様子が見える。
「陰陽寮の本部に応援をたのも。これは上級職の陰陽師で部隊を組んであたるべき案件や」
すぐに連絡を取ろうとスマートフォンを取り出す玲愛を日月が止める。
「本部の回答なんか待ってたら龍脈崩壊までに間に合わないわ」
「そうだな、龍脈の崩壊を抑えるのもあとどのくらい持つかもわからん。会いに行くなら早い方がいいだろう。特に今夜は月の戒めが緩む新月だ」
武御雷も同意する。
「ああ、もうわかったわ。うちも一緒に行ったるわ」
長い付き合いから日月が自分の意見を曲げることはないと知っているのだろう。
玲愛は頭をかいてしぶしぶ納得した。しかし、武御雷神はそんな玲愛のことを止めた。
「いや、お前はやめておいた方がいい」
「なんでやねん!」
気が乗っていた出鼻をくじかれ、関西のノリで神様にツッコミを入れる。
「今、荒覇吐神社は特殊な結界で包まれている。阿弖流為の力で守られた少年や、陰陽師の女はともかく、お前の霊力ではその空間内では体がたえられないだろう」
体から放出される霊気は周囲の一種のバリアのような役割もあると聞いている。どのような霊場が作られているかもわからない空間に入るには玲愛の防御力は貧弱過ぎる。それを武御雷神は指摘したのだろう。
「うちやて陰陽師や!そんなもん気合と根性で何とかして見せるわ!」
図星をさされ玲愛が武御雷神にかみつかん勢いで抗議する。しかし、それを日月が止める。
「玲愛。大丈夫よ。加茂さんにもお願いして一緒に行ってもらうわ」
「……余計心配やねん……」
「え?なんか言った?」
「あのおっさんが一緒じゃ余計に不安だっちゅうたんや!」
玲愛は日月の両肩に手を置いた。「あんたはただの広報部の新米陰陽師や、日月がそないな危険なとこ行く必要あらへん」
「ありがとう」肩に置かれた手に自分の手のひらを重ねる。「でも、これは私の直感でもあるの。今行かなくては後悔することになる」
日月の真剣な顔に玲愛は反論の言葉が出てこない。
「大丈夫よ、こっちだって神様に同行してもらうわ。ねぇ猫神様?」
「にゃに?!」日月の胸にしがみついて震えていた猫神が急に話を振られ、驚いた表情で日月を見る。
「わしの知ってることは全部話したにゃ、もうこれ以上お前たちに付き合う義務はないはずにゃ」
ニャーニャーと抗議の声をあげる。
「そう、じゃあ猫神様はここで待ってる?」
日月にいわれて猫神は周囲を見回す。
周りには猫神を見つめるそうそうたる神々の姿。
ここで待つということは、日本創生にかかわった武御雷神など古代の神々の中、一人で待つということになる。
「にゃ……、お前たちについて行くにゃ」
しょんぼりと耳を垂らす。
「そうと決まったらすぐにでも向かいましょう」
明るく声をあげる日月を玲愛が止める。
「また日月は、何の計画も立てずに突っ込んでどないするねん」
「そ、そうね」
玲愛がいてくれることで日月の暴走が抑えられて助かる。陽翔は息をつく。
「荒覇吐神についてはお前たちに託そう。我らは龍脈の封印を少しでも長く維持するために尽力する。頼んだぞ」
そういって武御雷神は八塩じいを連れて社の奥に消えていった。
神鬼狂乱~女子高生陰陽師・安倍日月と荒覇吐の神~
ブシロード小説大賞応募予定のため、7月19日までに完結予定。原稿はすべて書きあがっているので、最終話まで一気に駆け抜けます!
少しでも気に入ってもらえたら、作品フォローと評価、なにとぞよろしくお願いします!




