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神鬼狂乱~女子高生陰陽師広報・安倍日月と荒覇吐の神~  作者: 杜宮みやび


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第一話:白いトラネコを乗せた少女

 たくさんの生徒でにぎわう廊下を一人歩く女生徒の頭には、白く大きなトラネコが乗っていた。


 彼女が歩くたびに長い黒髪が揺れるが、頭上の白猫はまるで王座に座るように悠然としている。


「見つけた」


 少女は小さくつぶやく。

 間違いない。昨日、七北田川で出会った少年だ。

 しかし、今日はあの時感じたまがまがしい霊気を感じることはない。ずいぶん抑えられているように感じる。


 おかしいわね、憑りついていた霊が離れたのかしら?

 あのまま放置すれば、もう一回くらい襲われるかと思ったんだけど……


 思惑が外れてしまったのは仕方がない。別のアプローチから調査するしかない。

 少女は、まっすぐ陽翔のほうへと歩み寄っていった――。



 

          *

 カッパに襲われた翌日は、照井陽翔(てるい はると)がこの春から通う七北田高校の入学式だった。

 

 式が始まるのは午後からのため、午前中のうちに必要な準備を済ませた陽翔は簡単な昼食を済ませて家を後にした。

 

 学校までの通学路。

 川沿いの遊歩道を歩いてきたが、今日はカッパに出くわすことはなかった。


 あの怪しい警察官――加茂とかいう男から受け取ったお札が効いているのか、それとも昨日のことが夢だったのか。

 

 そんな考えも入学式を終え教室に戻るころにはすっかり忘れ去っていた。



 陽翔のクラス、1年A組の担任となった新藤八千代が明日からの時間割を配る。

 今日は入学式ということもあり、ピシッとしたレディースのパンツスーツを身に付けている。


 自己紹介では30歳前半と言っていたが、体育教師らしく短くまとめられたスポーティな髪型のせいかもっと若く見える。釣り目がややきつい印象を与えるクール系美人という印象だ。


 今後の予定や注意事項を説明している間も年上好みの男子生徒からあこがれの視線を送られていた。


 「……はい、今日はここまで。明日からは本格的に授業が始まるからね」


 一通り明日からの予定と注意事項を話し終えた新藤先生は、若くはつらつとした、鋭い声で終わりを告げる。


「起立、注目、礼」

 出席番号で初日の日直に命じられた生徒が号令をかけた。クラスの生徒たちは荷物をまとめ帰りの準備を始める。

 陽翔も配られた資料などをカバンに詰め立ち上がろうとするが、そこで新藤先生がクラスの生徒全員に声をかけた。


 「あ、あとこの後は、ちょっと大変かもしれないけど、みんな頑張って」

 

 担任の言葉にクラス全員が疑問の表情を浮かべる。今日の予定はすべて終わったはずだ。

 あとは入学式で説明されていた部活動の見学に行くか、予定の無い生徒は帰るだけのはずなのだが……


 意味深な言葉を残し、担任教師はにこやかに教室を退出する。

 開け放たれた廊下の様子を見て、陽翔は理解した。


 ああ、なるほど。これは確かに大変かもしれない。

 

 廊下はすでに戦場だった。

 ユニフォーム姿の上級生たちが、世界の仕組みをまだ知らない新入生を次々と囲い込んでいく。

 一足先にホームルームを終えた隣のクラスから出てきた生徒が、あっという間に三人の笑顔を張り付けた先輩に挟まれ、部室の方角へ連れ去られていった。

 岩手の小さな中学では見たことのない光景だ。

 

 そして陽翔には、自分でも自覚のある致命的な弱点がある。

 

 押しに、とことん弱い。

 

 陽キャな先輩に捕まったら終わりだ。そのままどこかの部室へ拉致されてしまうだろう。陽翔はそっと扉を閉め、まだ人の残る教室の中に引き返した。嵐が過ぎるまで、ここで息を潜めるしかない。

 

 自分の席に座って早く勧誘が落ち着かないかと廊下の様子を教室の窓から眺めていた陽翔の目は、ふと一人の少女に釘付けになった。


 周囲がスポーツユニフォームであふれる中、彼女は普通の制服姿だった。

 たくさんの生徒でにぎわう中、不思議と彼女の存在だけが陽翔の目にしっかりと写りこんできた。

 

 この学校では、男子はネクタイ、女子はリボンの色で学年を区別する。陽翔たち1年生は若竹色、2年生は茜色、3年生は山吹色だ。

 彼女のリボンは茜色、2年生であることを示していた。


 整った顔立ちに、やや紫がかった長い黒髪。肩まで伸びる髪は輝きを放ち、前髪が斜めに流れて彼女の表情に影を落としている。

 左サイドに編み込まれた4本の三つ編み。

 歩くたびに揺れるその先端には、それぞれ別の色をした星形の髪飾りが揺れている。


 陽翔は彼女の顔に見覚えがあった。

 昨日河川敷で出会った少女だ。


 陽翔が昨日の少女に間違いがないと思う根拠がもう一つあった。彼女が連れている白いトラネコだ。

 でっぷりとしたおなかの白虎柄の猫が、今日はなぜか彼女の()()()に乗っていた。


 彼女の顏よりも明らかに大きな体をもった大きな猫だ。

 それが顔の小さな彼女の頭の上にデデンと乗っている。

 バランスを崩したら彼女の細い首などぽっきりと折れてしまいそうだ。


 重くないのだろうか?


 そんなことを考えていた陽翔だったが、次の瞬間、凍り付いた。


 今まで細めていた猫の目が、急に見開き、まっすぐに陽翔を見据えたのだ。


 白い綿穂のような尻尾をピンと立て、「な~ご」と低く響く声をあげる。


――え?


 そのとき陽翔は気づいた。


 美少女が頭に大きな猫を乗せて校内を歩いているというこの異様な光景に、誰一人として関心を示していない。


 周囲の喧騒が途切れ、世界がモノクロに変わる。まるでこの世界に二人だけしかいなくなったかのような錯覚が陽翔の頭をよぎった。


 彼女が学校で有名な変わり者なのかもしれない。だが、猫の存在感ある声が扉を閉めている教室中にまで響いたというのに、誰も振り向かない。いや、むしろ誰一人として猫の声など聞こえていないようにさえ見えた。


「見つけた」


 少女は小さくつぶやく。なぜかその声は陽翔にだけはしっかりと聞こえた。


 頭にネコを乗せた少女は、まっすぐ陽翔のほうへと歩み寄ってくる――。


 躊躇なく教室の扉を開き、そのまま教室の中に入ってきた。教室の中には陽翔のほかにもまだたむろしている生徒はいるというのに、他の者たちは彼女が入ってきたことにすら気づいていないようだった。


 部活への勧誘を行っていいのは教室の外だけ、という決まりがある。そのため教室の中にまで入ってきて勧誘をする部活動はなかったのだが、彼女は別に気にしていないようだ。

 

 突然の出来事に、陽翔はその場で硬直したまま動くことができなかった。


「ねえ、あなた、不思議な出来事、超常現象に興味はない?」


 頭に白い虎模様の大きな猫を乗せた少女が、直立のまま固まった陽翔に声をかけてきた。


 両手を腰にあて陽翔の目の前に仁王立ちしている。頭にはのんきに前足で顔を洗う白い猫が乗ったままだった。

 



神鬼狂乱~女子高生陰陽師・安倍日月と荒覇吐の神~


スタートします。


ブシロード小説大賞応募予定のため、7月19日までに完結予定。原稿はすべて書きあがっているので、最終話まで一気に駆け抜けます!


最後までお付き合いお願いします。

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