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神鬼狂乱~女子高生陰陽師広報・安倍日月と荒覇吐の神~  作者: 杜宮みやび


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第二十六話:鹽竈神社の武御雷神

 コツン、という澄んだ音が響くと、彼らの周りには不思議な静けさが広がり、時間さえもゆっくりと流れているように感じられた。


 陽翔は音の広がりとともに境内の景色が変わるのを見た。


 細いコンクリ敷きの参道が、広く磨き上げられた御影石の参道に変わる。

 広がった参道の周りには立派な鳥居を構えた、形も様々な社殿が軒を連ねる。神明造り、大社造り、流造りなど建築様式も様々に縁日の出店のように連続して総社百を数える社が姿を現した。空は薄明るく、昼とも夜ともつかない色をしていた。


 満たされる空気が違う。ここが八塩じいによって作られた聖域であることを肌で感じていた。


「はえー壮観やなぁ」

 玲愛も手でひさしを作り、珍しそうに周囲を見回す。


「すごいですね」

 陽翔も並び立つそうそうたる社を見て驚く。しかしこんなにあると別の問題も浮上する。「でもどうやって探しますか?全部のお社に声をかけていたら何時間もかかってしまいますよ」

 地平線まで連なる社の列をみて陽翔は難しい顔をした。


「ほっほっほ、たくさんあるが今も信仰されて力を保っている神はそれほど多くないさ。その上、社を飛び出して田代島まで神託をあたえにいける神など片手で数えるほどしかおらんて」

 八塩じいは杖をついて一行をいざなう。


「そうじゃのう、まずは鹽竈神社(しおがまじんじゃ)武御雷(たけみかづち)に聞いてみるかの」

 そう言うやコツンと杖で大理石の床を突いた。するとまるでベルトコンベアーのように大理石の通路が動き、陽翔たちをひときわ大きな社の前まで移動させた。


「さあ、行くかの」

 八塩じいに促され鳥居をくぐると世界が変わった。正面には大きな鎮守の森の木々に包まれた真っ赤な社がそびえる。


「ここは?」

「鹽竈神社じゃよ。あの聖域の社は現実世界の神社とつながっておるからのう」

 玲愛の疑問に八塩じいが答えた。


 一行が立っているのは拝殿を望む、唐門を入ったばかりの場所だった。

 周囲には一般の参拝客も多い。何もない空間から現れた陽翔たちに驚きもしないということは、おそらく姿隠しの術が使われているのだろう。

 

 陽翔が見渡すと正面にはひときわ大きな拝殿が立ち、それとは別に右手にももう一つ別の拝殿が備えられている。


「なんでここの神社は拝殿が二つあるんですか?それに正面の拝殿は、左右に分かれていますよ」

 陽翔の疑問には日月が答えた。


「鹽竈神社には三柱の神様が祀られているからよ。正面の拝殿は武御雷神(たけみかづちのかみ)様と経津主神(ふつぬしのかみ)様、右の別宮は八塩じいを祀ったものよ」


 日月の説明に八塩じいは顎髭を撫でながら笑う。

 「ふぉっふぉっふぉ、わし人気者じゃからな、いろいろな社で引っ張りだこなんじゃよ」

 好々爺の笑顔で陽翔にウィンクを返すおちゃめな神様だ。


「鹽竈神社はすぐ隣に志波彦大神(しわひこおおかみ)様を祀った志波彦神社もあって、昔からこの地域の重要な神社なのよ」

 ここだけでも相当な広さなのに、さらに別の神社まで同じ敷地にあるとは、陽翔の知っている神社の中でも格段に大きい。

 

 陽翔が荘厳な作りに目を奪われていると、奥の社から一柱の大きな神が歩いてくる。

 鋭い眼光と太く吊り上がった眉、髪は荒々しく広がり、黒々とした口ひげが顔の半分を覆っている。全身には格子状に編まれた鎧をまとい、腰には大ぶりの剣を下げていた。

 その存在感は圧倒的で、神に詳しくない陽翔が見ても相当上位の神様であることは理解できた。

 まだまだ新米で神としての存在感は比較にもならない猫神は日月の腕の中で失神寸前だ。


「八塩道老翁神、この忙しい時に何をしている」

 低く大地を震わせるような声でその神は言った。


「おお、久しいのぉ、武御雷よ」

 いつものひょうひょうとした様子で鎧姿の神に声をかける。

 武御雷神と言えば古事記の国譲り神話で大国主の息子、建御名方神(たけみなかたのかみ)と力比べをしてねじ伏せた、日本神話最強の軍神だ。それほど古事記に詳しくない陽翔でも聞いたことのある有名な神様だ。


 武御雷神は迷惑そうに陽翔たち一行を一瞥する。

「いやー、どこかの神がこの猫神に命令してこの娘たちを襲わせたというからの、それを調べに来たんじゃ。おぬし何か知らないか?」

 不穏な空気を吹き飛ばすように八塩じいが言った。


「龍脈の封印が破壊されてそれどころではないのは知っているだろう。お前も人間などにかまっていないで手伝え」

 八塩じいが太い腕に捕まれ連れていかれそうになるのを玲愛が遮る。


「ちょ、ちょいまってえな、龍脈の封印が破壊されたってどういうことや」

 鹽竈神社の龍脈の封印と言えば陰陽寮でも有名だ。


 日本には血管のように大地の霊気を流す龍脈という管が幾重にも走っている。時にその一部が地上に露出し、霊気があふれ出してしまう場所がある。一般的にパワースポットと呼ばれる場所だ。その量がわずかであればそれほど問題ではないが、大量にあふれ出る場所となると話が違ってくる。

 大地の霊気は人ならざる者、妖や怨霊の力を増幅してしまう。それを防ぐため、そう言った場所には要石を置いて封印し、周囲を神社としてその場所を管理してきたのだ。


 それが破壊されたとなっては、陰陽師として看過できない。


「案ずるな人間。こちらの不手際だ。こちらで何とかする」

「せやかて、いったいなんでそんなことになってるのや」

 武御雷神はめんどくさそうに話す。


「去年の年末、この鹽竈神社の上空に黄金の龍があらわれて、龍脈の穴をふさぐ要石を破壊したんだ」

「黄金の龍?いったいそいつは何者なんや」

「お前らには関係ない」

「関係大ありや!龍脈からの霊気を浴びた妖は強大な力を得ることになるんやで。要石は完全に破壊されたんか?再封印はできそうなんか?」

 玲愛の質問を無視しようと目をそらした武御雷神だったが、八塩じいがたしなめたことでしぶしぶ現在の状況を話し出した。


「ここ数カ月、力を合わせて抑えてきたがもう限界だ。要石の崩壊は近い。今は経津主神(ふつぬしのかみ)志波彦大神(しわひこおおかみ)が抑え込んでいるが、代わりの封印につかえる要石を用意しないともう持たない」


「全然大丈夫じゃないやないか!封印が決壊して霊気があふれ出したらこの辺一帯の妖が暴走して人間の世界は終わるで」

 恐怖で体を震わせながら玲愛が抗議する。


 日月も事態の深刻さに眉を寄せる。

 いまいち事態の深刻さを理解できていない陽翔がたずねる。

「それってそんなに大変なんですか?」

「たいへんなんてもんじゃあらへん!龍脈からあふれる霊気は言ってみれば覚せい剤入りの濃厚なエナジードリンクみたいなものや。妖が強大な力を得て本能のままに暴れだすで。神さんたちが抑えてくれているうちはええけど、いつまで持つことやら……」


 少し考えていた日月だったが、あることに気づいた。

「あ、たしか口裂け女の玲子さんが覚醒したのも鹽竈って言っていたわ。もしかして、もう影響が出始めてるってこと?」

「抑え込むにも限界がある。多少漏れ出した霊気が周囲の妖怪を活性化させているのは事実だ」

「やっぱり!全然大丈夫じゃないやないか!」

 玲愛の悲鳴が響く。


「なんとそこまでひどかったんか」

 驚く八塩じいにあきれ顔で武御雷神が語る。

「爺さんはのんきだな。だから言っていただろう、要石が崩壊すれば、明日にでも令和の百鬼夜行が起こると言ったであろうが」


 百鬼夜行。大量の妖怪が群れを成して街を練り歩く。妖の力が強かった平安の時代は夜な夜な繰り返されていた。人々は扉を固く閉ざし、行列が過ぎ去るのを待つしかなかった。現代に起ったらどうなってしまうのか。


 皆が不安を抱く中、猫神だけが、違う部分に反応していた。

「お、黄金の龍にゃと……」


 日月の腕を抜け出して、逃げ出そうと暴れる。はたから見ても異常におびえていることがわかる。

「ちょっと、猫神様。どうしたの?」

 異常な様子に気づいた武御雷神が猫神に怒鳴りつけるように尋問する。


「おい、猫の神。貴様、あの龍について何か知っているのか?!」

 かたくなに口を閉ざしていた猫神だったが、武御雷から聞かれれば答えないわけにいかない。恐る恐る振り向き、武御雷神に答える。


「にゃ……、そ、その龍にゃ。そいつがわしに日月たちを襲うように命令した神にゃ」

「あの龍が神だと?確かにただの妖怪にしてはけた違いに高い妖気を放っていたが神とは違うと思うぞ」


 妖怪も神格を経て祀られることで神に至ることはある。人間の中でも菅原道真や平将門など神格を持って神に成りあがったものは多い。しかし、あの龍には神としての神格は感じられなかったと武御雷は語る。


「間違いないにゃ、あいつは自身のことを荒覇吐神(アラハバキノカミ)と名乗ったのにゃ」

 



神鬼狂乱~女子高生陰陽師・安倍日月と荒覇吐の神~


ブシロード小説大賞応募予定のため、7月19日までに完結予定。原稿はすべて書きあがっているので、最終話まで一気に駆け抜けます!


少しでも気に入ってもらえたら、作品フォローと評価、なにとぞよろしくお願いします!

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