第二十三話:お泊り
「さてと、じゃあうちらも明日に向けて休むとしまほか」
玲愛が腕を伸ばして伸びをする。
「あ、じゃあ俺も家に帰りますね」
「何言うとんねん!あんさんは朝まで安静や」
ベッドの手すりに手をかけて起き上がろうとする陽翔に玲愛がデコピンをかます。
たったそれだけで、陽翔はベッドに再び倒れてしまう。衝撃が全身に伝わり、今までに感じたこともないような痛みに陽翔は顔をしかめる。
横になった陽翔に、玲愛の叱咤が響く。
「そんな体でどうやって家まで帰るねん!無理に帰ったって途中で妖怪に襲われるのが落ちやで」
確かに、体を起こすにも関節がさび付いたかのように動かない。
これではまともに歩けるかどうかも怪しい。
「阿弖流為の意識は封じたけど、この前以上に陽翔君の体からは霊気の残滓があふれてるの。今この部屋から出るのは危険よ」
日月も心配そうにのぞき込む。
今の自分の状態は思っているよりもヤバイみたいだ。明日日月先輩たちは神社モールとやらに行くというのに、とても一日で回復するようには思えない。
「今日はこのまま泊まっていきや。おとなしくしてれば明日には回復してるやろ」
そんな、この痛みが一晩程度で回復するとはとても思えない。
そう思っている陽翔の横で、玲愛は自分のノートパソコンに携帯プリンターをつなぐ。
映し出された画面のフォルダには、お札のアイコンがずらりと並ぶ。その中の一枚をダブルクリックで選ぶと、すぐさま毛筆で描いたような札が印刷されてきた。
「体内の気の循環を増幅する札や、これ貼っとけば明日にはかなり楽になるはずやで」
「っていうか、そんなプリントした札で効果あるんですか?」
はっきり言ってありがたみがない。どう見てもただの印刷した紙だ。
「陽翔はん、バカなこと言ってもらっちゃ困るわ。何をもって札が効果を発揮してると思うてるねん」
印刷したお札をひらひらと振りながら玲愛が尋ねる。
そういわれても、陽翔もはっきり言葉にすることはできない。ただ一般的に考えれば、プリントされただけの紙にありがたみを感じろと言うのは無理があるだろう。
「それはやっぱり、修行をした術師が念を込めて……」
「じゃあ、その『念』ってなんやねん」
陽翔は答えに詰まる。
「術師が札を書く時込めるエネルギーは言霊、いわば情報のエネルギーや。紡がれる言霊は術者の体内の『陰』のエネルギーと『陽』のエネルギーをめぐり、筆から和紙に墨によって固定される」
玲愛は札に込められるエネルギーの流れを説明してくれた。
「陽翔はんはパソコンで出力する言霊にはエネルギーはないと思ったんやな」
陽翔はうなづく。おそらく多くの人は同じ意見だと思う。
「でもな、パソコンは人なんかよりよっぽど大きなエネルギーを秘めてるんやで、なんてったってインターネットっている化け物みたいな情報エネルギーの塊にアクセスできるんや。筆がプリンターに、墨がインクに変わっただけやねん」
「でも、人とパソコンは違いますよ。陰と陽のエネルギーだって玲愛さんも言ってたじゃないですか」
「何言うてんねん、パソコンは陰陽の思想そのものや。パソコンの基本構造は『0と1』、つまり『陰と陽』。パソコンも人間も活動原理はおんなじや」
玲愛は陽翔が反論する前に、パシーンと印刷された札を陽翔の胸にたたきつけるように張り付ける。
「難しく考えんと、はようおやすみぃ」
陽翔は急激な眠気に襲われ、意識が途切れた。
*
陽翔は窓から差し込む朝日を感じて目を覚ました。
見慣れない天井に、いつもより寝心地のいいやわらかいベッド。だんだんと思考が活性化していく。
「そうだ、昨日は日月先輩の家で寝てしまったんだった……」
ゆっくりと体を起こす。手のひらをグー、パーと動かしてみるが、昨夜のような痛みはない。恐る恐る伸びをする。血液が巡り体の各部も目覚めていく。
陽翔の胸から昨夜貼り付けられた札が剥がれ落ち、役目を終えた札は端から少しずつ黒ずみはじめ、まるでお線香の灰のように散っていった。
「本当に効果あるんだな」
そこに奥のリビングからエプロン姿の日月が顔を出して声をかけた。
「あ、陽翔君おはよう、体はだいじょうぶそう?今朝ごはんできるからその前にシャワーでも浴びてきて」
白いブラウスの上につけた、淡いミントグリーンのエプロン。胸元には小さなレースが施されていて、普段のクールな彼女からは想像がつかない乙女チックな姿に陽翔は言葉をなくす。
料理のため長い黒髪は一つに束ねられ、普段影のある印象の横顔が不思議なほど柔らかな印象を与える。
「な、なによ、似合わないっていうんでしょ」
恥ずかしそうに背を向けると、エプロンの後ろで結ばれたリボンが縦むすびになっている。
ふだん着慣れていない様子を物語るその姿に思わず吹き出す。
「あーやっぱり!」
「ち、違いますよ、すごくお似合いです。でも背中のリボンが縦になっていますよ」
陽翔の指摘に手を後ろにまわして確認し、顔を赤くする。
「もう、ちゃんと確認してもらったのに。玲愛のやつ、わかっててそのままにしたわね」
「夫婦漫才、ももええですか?」日月の背中から玲愛がひょっこりと顔を出す。
「玲愛!後で覚えてなさい!」
日月はさらに顔を赤くするとスリッパの音を響かせリビングに戻っていった。
「つうわけで、シャワーは一番奥の扉や、汗臭い男は嫌われるでー、着替えはそれ着てや」
玲愛もひらひらと手を振って朝食の準備に戻る。
枕元にはきれいにたたまれたタオルと作務衣がおかれていた。タオルは少し日月先輩の香りがするような気がした。
神鬼狂乱~女子高生陰陽師・安倍日月と荒覇吐の神~
ブシロード小説大賞応募予定のため、7月19日までに完結予定。原稿はすべて書きあがっているので、最終話まで一気に駆け抜けます!
少しでも気に入ってもらえたら、作品フォローと評価、なにとぞよろしくお願いします!




