第十八話:阿弖流為
宙に投げられた五芒星の髪飾りが光を放ち、四体の聖獣へと姿を変えた。
青、白、赤、緑。
光が弾けて、四聖獣が港の石畳に降り立った。
「ゲンちゃん、島民のみんなを守って!」
「むきゅー!」
日月の声にこたえ、玄武はしっかりと四肢を大地におろす。
陽翔が切り付けようとした島民の前に、翠玉のような輝きを放つ結界が立ち現れる。
突如目の前に現れた光の壁に阻まれ、陽翔は戸惑い動きを止めた。
陽翔は右手の剣を構えたまま、ゆっくりと視線を日月に向ける。
憤怒に染まった陽翔の顔を見て、日月は表情を曇らせる。
抱えきれないほどの怒りが、いつもの幼さの残る陽翔の表情を覆いつくしている。
日月の知っている優しい少年の顔ではない。
狙いの対象が島民から日月に変わった。
獣のような咆哮をあげながら陽翔が切りかかってくる。
「アオちゃん、スーちゃん、陽翔君を止めて。シロちゃんは陽翔君の霊気を分析」
日月の声に、四聖獣が動いた。
上空から青龍と朱雀が雷と炎を交互に放つ。あの丸っこい体からは想像もつかない素早さで二匹は連携して陽翔を翻弄する。
しかし、その攻撃は一つも当たらない。
しなる柳の枝のように優雅な動きで攻撃を避けていく。
その隙に白虎は日月の頭に飛び乗り、尻尾の毛を逆立て周囲の気の流れをつかむ。日月の感覚が研ぎ澄まされ、周囲をただよう霊気の波動をより細かく感じ取れるようになる。
視線を凝らし、陽翔の中の霊気を注視する。
今までにない大量の霊気を放出する陽翔の中。その魂の本質を探る。
白虎の力で研ぎ澄まされた感覚が、陽翔という肉体の中にある魂の本質を見つけた。強い霊気を放出する魂核。しかしいくら探してもそれ以外の魂のかけらが見つからない。
「おかしいわ。あの体の中に魂の本質は一つだけしかない。やっぱりいま暴れているのは陽翔君本人だっていうの?それとも、もう消滅させられてしまったの?」
魂核。
命の本質を宿す核。
憑依された人間なら本人とは別に、もう一つ別の魂核が存在するはずだった。
しかし、いくら探しても今の陽翔の中には魂核の存在を一つしか感じることはできなかった。
「どういうことなの?」
憑りつかれた人間を助けるには、その体から別の存在である魂核を引き離し、退治する。
しかし、引き離す存在がわからないのでは対処のしようがない。
日月が魂の分析に時間をかけている間にずいぶんと間合いを詰められてしまっていた。
青龍と朱雀の攻撃をいなし、陽翔の攻撃が戸惑う日月に向けて振るわれる。丸腰の日月には受ける術がない。
「うにゃー!」
日月の頭の上から白虎が飛び出し体当たりをかける。弾き飛ばされた陽翔は空中で体をひねり難なく着地した。
すぐに戦闘姿勢をとった陽翔の前に青龍と朱雀が再び対峙する。
日月の足元には白虎と玄武も戻り、いつでも飛び出せるよう体勢を整える。
お互い間合いを計った状態で一時膠着状態となった。
「ありがとうシロちゃん。助かったわ」
日月は足元に戻った白虎に声をかけた。
何とか回避したものの、対人戦闘能力は陽翔に取り付いた何者かの方が上だ。まともにやりあったらいずれは日月の方が傷つくのは間違いない。
膠着状態が続く中、防波堤の陰で何かが動いた。
健太だ。
健太は陽翔の背後から、音もなく石畳を這って迫っていた。
陽翔と青龍・朱雀の視線が交差している。その隙に、健太がじりじりと陽翔の背後に回り込んでいく。
日月はそちらに視線を向けないよう注意して健太の準備が整うのを待つ。
真後ろに回り込んだ健太が残った片目で日月に合図を送る。
健太が陽翔の足首に両手を伸ばした。
「今です!」
健太が足首を掴んで引く。陽翔の体が崩れた。
「何っ!貴様ぁっ」
バランスを崩しながらも健太の背中に剣を突き立てた。
つるりとした健太の強化プラスチックの背中に深々と剣が突き立てられる。普通の人間なら致命傷になりかねないが、健太は片目になった顔を陽翔に向けてニイッと笑って言った。
「無駄ですよ!今僕の体は空っぽですからね」
猫たちに襲われた健太の内臓は全部零れ落ち、文字通り骨と皮しかない。胴体をいくら攻撃されても大きなダメージにはならなかった。
陽翔の顔に驚愕が浮かぶ。足を引っ張られた陽翔はその場に倒れこんだ。
「ゲンちゃん!押さえつけて!」
玄武が動いた。バランスを崩した陽翔の体を、すかさず玄武の甲羅から伸びた蛇がからめとる。蛇はそのまま光の環となって陽翔の身体を拘束した。
「放せっ!我は二度と騙されんぞ。朝廷の犬どもめ、我らは決して屈しない!」
陽翔の口から発せられる声は、明らかに別人のものだった。
「この力、尋常じゃないわ……。ゲンちゃん、私も力を貸すから踏ん張って!」
「むむむむきゅー!」
日月は玄武に自身の霊力を流し込み、暴れる陽翔を必死に抑え込んだ。
健太も体に剣を突き立てられたまま両足にしがみついて必死に抑え込む。
両手両足を縛り上げ、ようやく動きを止めた陽翔の顔を、日月は見つめる。
顔立ちこそ陽翔のものだが、頬から耳にかけて青い刺青が浮かび上がっている。額には古代の文様を思わせる装飾が刻まれ、瞳は野生の獣のように鋭い光を放っていた。
「あなた、何者?本人の意識を奪って何をしているの。早く陽翔君に体を返しなさい」
日月の声には怒りと焦りが混じっていた。
ここまでしても陽翔の存在を感じられない。
「貴様の指示など受けん。我は戦士、蝦夷の民を守るためなら命すら惜しくはない」
陽翔に憑依した存在は、その眼差しだけで相手を射抜かんばかりの激しさで日月を睨みつける。
「蝦夷って、あなた何者なの?」
「我は阿弖流為...…」言葉が途切れ、その瞳に怨念が浮かぶ。「蝦夷の民の誇りを守るため戦う戦士長だ」
神鬼狂乱~女子高生陰陽師・安倍日月と荒覇吐の神~
ブシロード小説大賞応募予定のため、7月19日までに完結予定。原稿はすべて書きあがっているので、最終話まで一気に駆け抜けます!
少しでも気に入ってもらえたら、作品フォローと評価、なにとぞよろしくお願いします!




