第十四話:島の駅
「いま私たちがいるのがここ、仁斗田港ね。ここから島の中央に向かって歩いていくと『島の駅』があるみたい。ここが一番猫たちが集まっている猫スポットなんだって」
マップを指でなぞりながら日月が説明する。
「あの、日月先輩、俺もすっかり忘れてましたけど、今回俺たちって化け猫調査に来たんですよね?」
陽翔の指摘に日月は一瞬きょとんとするが、すぐにはっとした表情で言う。
「も、もちろんよ!みんなも周囲の状況に気を付けてね」
日月は霊気を探るため白虎を呼び出そうと白い髪飾りに手を伸ばすが、周囲を見渡し動きを止める。
「ここだと人目が多いわね、シロちゃんを呼ぶのはもう少し森を進んでからにしましょう」
そういってすたすたと歩きだす。
「日月先輩、ちょっと待ってください」
「なによ、まだ何かあるの?」
「違います、あの、方向が逆です」
陽翔は日月の進んだのと反対の方向を指さして言った。「先輩ってもしかして……」
「そうなんですよね、部長は方向音痴でシロさんに誘導してもらえないととんでもないところにいっちゃうんです」
困った困ったと健太がうなずく。
「ちょちょっと!健太君変なこと言わないでよね!」
直前まで地図を確認していたのに、真反対に歩き出すなんて、かなりの重傷だ。陰陽師って結構方角とか重要なはずなのに、大丈夫なのかなこの人。
真っ赤になって戻ってきた日月を見て陽翔は心配になる。
「ほら、いくわよ!」
ごまかすように、日月は速足で山へ登る道を歩いていった。
*
島の中央にある『島の駅』までは一本道のため、さすがの日月も道に迷うことはなかった。
港からの道は舗装されてはいるものの細い山道で、ゆるやかな傾斜が続いている。一行は予定していたよりもだいぶ遅れて島の駅にたどり着いた。
遅れた理由は道が険しかったからではない。少し進むたびにかわいらしい猫たちが顔を出すので、ついつい撮影に時間を取られてしまう。
気づけば何度も足を止めていたため、進行が大きく遅れてしまったのだ。
島の駅に着くころには太陽は天頂を過ぎ、西に傾き始めていた。
「猫たちがかわいすぎて時間とられちゃったわね」
日月はお昼ご飯に注文した『にゃんカレー』を食べて笑いながら話す。ネコ型に切り取られたニンジンが添えられた島の駅の人気メニューだ。
「帰りの船の時間もあるから午後はちょっと急いだほうがよさそうですね」
帰りの出航時間と腕時計を見比べながら健太が答える。彼はおむすびセットを注文し、周囲の人に口元が見えないよう注意しながらおにぎりをかじっていた。
陽翔は健太の食べたものはどうなっているんだろうと気になりながら、自分の注文したきつねこうどんをすする。油揚げが猫の形に切り抜かれているのが愛らしい。
「でも、化け猫いませんでしたね」
「そうね、でもこの後行く『猫神社』には必ず猫神様はいるわよ」
「なんで、そんなことわかるんですか?」
陽翔も今までいくつもの神社にお参りに行ったことがあるが、神様に出会ったことなど一度もない。
「どんな神社でも社がある。ということは、必ずそこを守る神が存在するの。信仰する人が一人でもいれば神様はその存在を確立できる。逆に誰も祈るものがいなくなった社は朽ちて神も消滅するのよ」
手に持ったカレーのフォークを振りながら日月が説明する。
「じゃあ、猫神様には会えるんですね。何をお願いしようかなぁ」
食事を終え、不審者ルックに戻った健太が楽し気に話す。
「でも、さっきから妙なのよね」
日月の声に緊張が混ざるのを陽翔は感じた。
「日月先輩、何か感じたんですか?」
陽翔の質問に、髪飾りをもてあそびながら日月がぼそりとこぼす。
「私たちはこの島の神様にあまり歓迎されていないみたい」
日月は警戒のまなざしで周囲を見回す。
「さっきから召喚を試みているのだけど、私の式神たちの反応がないの。何かの力で封じられてしまっているみたいね」
陽翔も緊張を高める。
あれ?そういえばなんだかやけに周囲の音が静かになっている気がする。
広くはない島の駅の食堂では、日月たちのほかにも数人の観光客が食事をしているが、その誰もが声も発せず、無言で食事をしている。ショップの店員はカウンターに立ち、目を細めて軽く握ったこぶしで顔をかいていた。まるで猫が顔を洗うように……
そして陽翔は見た。
その顏にうっすらと猫のひげのようなものが張り出している。
ガタン、
音を立てて陽翔はその場に立ち上がる。体をびくりと震わせ、島の駅の中にいる人間たちがいっせいに陽翔の方を向いた。
無言で、同時に……
その顏には全員、猫のひげが生えていた。
「落ち着きなさい、陽翔君」
日月が袖を引っ張って陽翔を席に座らせる。
「な、なに落ち言ってるんですか!なんかおかしいですよ」
「わかっているわ、私たちはすでに猫神様のテリトリーに入っていたみたいね」
ストローでオレンジジュースをすすりながら日月がのんびりした口調で話す。
「どうするんですか?」
「大丈夫よ、別に戦いに来たわけではないもの。猫神様だって何かする気ならとっくにやっているわ、ひとまず猫神社に行ってみましょう。たぶんそこで会うことができるはずよ」
日月は一気にジュースを飲み干すと立ち上がる。
「さあ、行くわよ二人とも。気を引き締めてね」
*
猫神社は、観光マップによると島の駅から獣道を十分ほど登った森の奥にあるようだ。
自信満々に逆の方向に向かおうとする日月をたしなめ、地図を見ながら健太を先頭に舗装された道を進む。
「なんだか、さっきまでと雰囲気が随分と変わりましたね」
髪飾りをいじりながら健太に続いて歩く日月に、陽翔が声をかける。
島の駅に来るまではあんなに人懐っこく近寄ってきていた猫たちは、今は道の脇に座り、じっとしたまま日月たち一行を見つめている。
島の駅を出てからは観光客の姿も見かけなくなっていた。
「私たちはやっぱり歓迎されていないみたいね」
日月は髪飾りから手を放し、慎重な声で言った。三つ編みに止められた四つの星形の髪飾りがさらりと日月の肩にかかる。いつもは輝きを放つ髪飾りも今は暗く沈黙しまままだ。
「シロちゃんたちはやっぱり反応してくれないし。仕方ないわね。念のため装備を整えておきましょうか」
日月は健太に持たせていた荷物の中から呪符の入ったポーチと折り畳み式の錫杖を取り出す。
「うまく使えるかしら。私、あまり普段使わないからなぁ」
ポーチを腰に巻き、手のひら大までたたまれた錫杖を振ると、乾いた金属音とともに折りたたまれた軸が伸び1mほどの長さに戻る。
持ち心地を確認するように数回振り回す。そのたびに杖頭にはめられた遊環がシャランシャランと音を立てる。
「大丈夫なんですか?」
「まあ、何とかなるでしょう」
たくさんの猫たちに見つめられながら、日月たちは猫神社を目指した。
神鬼狂乱~女子高生陰陽師・安倍日月と荒覇吐の神~
ブシロード小説大賞応募予定のため、7月19日までに完結予定。原稿はすべて書きあがっているので、最終話まで一気に駆け抜けます!
少しでも気に入ってもらえたら、作品フォローと評価、なにとぞよろしくお願いします!




