第十一話:隣の口裂け女
「「本当に、申し訳ございませんでした」」
可愛らしい装飾で飾られた隣室のリビングで日月と陽翔は、この部屋の住人、口裂け女の鹿島麗子に深々と頭を下げて謝罪していた。
「も、もういいわよ。頭をあげて。ケガも直してもらったし大丈夫よ」
逆に申し訳なさそうに麗子が困り顔をする。
麗子の怪我は日月の召喚した朱雀によって治療されていた。再生の象徴である朱雀の炎には、傷を癒す力もある。
ボロボロになるまで焼かれた麗子の腕もきれいに再生されていた。
今はマスクを外しているが、口裂け女の特徴である裂けた口ではない。赤いリップが大人っぽい、普通の女性の姿だ。
「誰だって、まさかとなりに口裂け女が住んでるなんて思わないわよね」
そういって二人にコーヒーを進める。
昨夜、麗子が仕事を終えて帰宅すると、アパートに強力な呪力をもった陰陽術師がいた。
人間として普通に暮らしている彼女に、やましいことはなかったが、できることなら関わりたくはない。そう思って隠れているうちにアパートは結界で覆われてしまった。
術を行使した日月はすでに立ち去ってしまっており手が出せない。仕方なく朝を待ったが、翌朝も強力な結界で守られたまま学校に向かったため声をかけることができなかった。仕方なく学校が終わり陽翔が出てくるのを校門の前で待ち構えていたということらしい。
「一晩帰れなかったことで、私も精神的に不安定になっていてうまく人間に化けることができなくなっていたの。陽翔くんも脅かせてしまって申し訳なかったわ」
日月が加茂に遅れる旨を連絡してから、三人はアパートへ向かった。
今度はアパート全体ではなく、陽翔の部屋に範囲を限定した結界を張りなおしたため、無事に麗子も自分の部屋に帰ることができた。
今は自然な笑顔で微笑む麗子に日月が尋ねる。
「何でこの部屋に帰ると麗子さんは人化の術が使えるようになるんですか?」
「知りたい?」
結界が解除されて部屋に帰った時、麗子は一目散に奥の部屋に駆け込むと、そのまま閉じ籠り、数分すると人間の姿に化けて晴れやかな顔になって出てきたのだ。陽翔もあの奥の部屋に何があるのかは、ちょっと気になっていた。
「じゃあ、教えてあげる」
いたずらっ子ような表情を浮かべた麗子は、ゆっくりと扉を開く。
その部屋には、若い男性アイドルの等身大ポスターや雑誌の切り抜き、グッズが所狭しと並んでいた。
「彼はね、私の推し、『桧山蓮人』くん。エリア51っていう去年デビューしたばかりの5人組アイドルグループの一員なんだけど、もうチョーかわいいの!」
個性的な五人組アイドルグループの中で、一番小柄な栗色の髪をした少年に麗子は熱れつな視線を送っていた。確かに弟属性が強く、とくに年上のお姉さまに支持されそうなビジュアルだ。
麗子は等身大ポスターに恋する乙女のような視線を向ける。先ほどまでの冷たい美女の面影は何処へやら、すっかりファンの顔になっていた。
「私は彼に出会ったことで、自我を保って生活できるようになったの」
麗子は思い出すように遠い目をして話し出す。
「ちょっと前まで、私は街をさまよっては人を脅かす、忘れかけられた都市伝説妖怪だったわ。でも、去年の年末に鹽竈の町をさまよい歩いていた時、いきなり大量に流れてきた霊気を浴びて自我を持ったの。その時、目に飛び込んできたのが、彼ら『エリア51』のポスターだったの」
「一目ぼれだったんですね」
日月が共感を表す。
「そう、運命を感じたわ。自我を得たと言っても私は妖怪。人間のお金なんて持っていなかったわ。私は何とかコンサートに行くためアルバイトをしたの」
過去を懐かしむように麗子は目をつむる。
「アルバイトですか?」
妖怪なら人を驚かせて金品を盗むこともできただろうにと、陽翔は驚く。
「やっぱり人様に迷惑をかけて手に入れたお金で押し活はできないじゃない」
麗子は照れくさそうに笑う。
「コールセンターの仕事をしていたの」
「コールセンターですか?」
「そう。マスクで顔を隠したまま働けるからね。ほかにも清掃のバイトなんかでお金を稼いで、彼のグッズを買いそろえていくうちに彼に会いたい思いが募っていったわ。そうしたらいつの間にか、人間の姿に化けられるようになっていたの」
明るい笑顔で微笑む。押しのことを話す麗子は一段と輝いて見えた。
「妖怪としての姿を隠せるようになったおかげで、今はもっとお給料のいい受付のお仕事に就くことができたし、こうして家も借りれた。彼は私の恩人なの」
好きな人のことを語る彼女は陽翔から見てもとても魅力的に思えた。
「麗子さんは桧山蓮人君への一途な思いを糧に人化の術を行使しているんですね」
毎晩聞こえていたミュージックビデオがこのグループの歌だったのだと陽翔は気づいた。
人の思いこそが妖怪を存在させる力の源だ。妖怪自身の思いもまたその力になるのかもしれない。
「そうね、だからさっきは彼に会えない焦りから、口裂け女の力が暴走しかけていたのね。本当にごめんなさい」
「いえいえ、麗子さんは悪くないです」
頭を下げる麗子に陽翔は慌てて手を振って否定する。
「そうです。私達、陰陽寮の仕事は妖怪を退治することではなく、人間と妖怪の安定した世界の構築なんですから」
「先輩、はじめは俺のこと退治しようとしていたじゃないですか」
横目で日月を見て陽翔がチクリと言う。
「う、、、あのね、人を戦闘狂みたいに言わないでよ。確かに妖怪を退治するのは好きだけど、消滅させるわけではないわ。あくまで人間に害する行為を止めさせるのが目的なのよ」
「はあ、」
「何よその気のない返事は。ほ、ほら、某ゲームアニメの主人公が口癖みたいに言ってるじゃない『バトルしようぜ』って。あんな感じよ」
ふたりのやり取りを見て麗子がくすくすと笑う。
「二人とも仲がいいのね。うらやましいわ」
麗子の言葉に日月は顔を赤くする。
「ち、違うわよ。陽翔君は監視対象なだけ!そ、それだけよ……」
しりすぼみになる言葉をこぼし、平然を装うように日月はコーヒーをすすった。
神鬼狂乱~女子高生陰陽師・安倍日月と荒覇吐の神~
スタートします。
ブシロード小説大賞応募予定のため、7月19日までに完結予定。原稿はすべて書きあがっているので、最終話まで一気に駆け抜けます!
少しでも気に入ってもらえたら、作品フォローと評価、なにとぞよろしくお願いします!




