Special Lunch 思い出パンケーキ①
今日からアセルスたちの過去についてのお話になります。
思い出のパンケーキを召し上がれ!
「むほほほほほほほほ!!」
『長老』の下で、嬉しい悲鳴が上がっていた。
声を上げたのは、もちろんアセルスだ。
ディッシュの家の外にあるテーブルに着き、ガツガツと頬張っていた。
本日のメニューはディッシュ特製の焼きそばだ。
まずブライムベアの臓物を先に焼き、脂を出させる。
いい感じに臓物が焼き上がった後、その脂を取っておき、そのままディッシュのお手製の太麺を軽く炒めていた。
そこに先ほど取った臓物の脂を絡めたソースを振りかけ、麺に馴染ませ、満遍なくソースの色になった後、産みたてのバジリスクの卵を大胆にも2つ載せる。
最後に、たっぷりの葱と臓物をちりばめれば……。
ゼロスキル特製モツ焼きそばの出来上がりだ。
「ふおおおおおおお!!」
アセルスが目を輝かせたのは、想像に難くない。
側にいたウォンも毛をモフモフにして、涎を垂らす。
早速、実食した。
ズゾゾゾゾゾゾゾゾゾ……。
豪快な音を響かせる。
「くーーーーーーーー!! たまらんっ!!」
ブライムベアの臓物の脂が入った濃厚なソースがピリッとしていてたまらない。
そこにディッシュが作った麺がよく絡んでいた。
太麺は腰があり、食べ応え抜群だ。
シャキシャキとした刻み葱の食音は、小気味良く響き、濃いソースに溺れる口内で、一服の清涼感を与えている。
とどめは、産みたてのバジリスクの卵である。
アセルスは箸で黄身を割る。
トロリとこれまた濃厚な黄身が、火山から流れるマグマのように垂れていった。
箸でよく麺と絡めると、アセルスの実食が再開される。
ズゾゾゾゾゾゾゾゾ……。
「ぬはっっっっっっっ!!」
たまらん!
黄身がかかったことによって、濃厚なソースがマイルドに変化する。
太麺とも絶妙に絡まり、箸で持ち上げた時に黄金色に光る様がまた食欲をそそる。
口の中に入れると、黄身が潤滑油となってすべりツルツルと、アセルスの腹の中へと収まっていった。
完食はあっという間だ。
ウォンも銀毛に、ソースと黄身を付けながら満足そうに口元をペロペロとなめていた。
「ごちそうさまだ、ディッシュ」
「おそまつさまでした。うまかったか、アセルス」
「うむ。いつも通り、おいしかったぞ」
「そいつは良かった」
食器を洗い、一息吐いたディッシュは、頭に巻いていた布を取る。
すると、ぼさぼさの蓬髪がピョンと勢いよく飛び出した。
「ディッシュよ。随分、髪が伸びたんじゃないか?」
「ん? そう言えば、そうだな」
「いつもどうしてるんだ?」
「自分で切ってるよ」
「危ないだろう」
「丸刈りだから大丈夫だよ。慣れてるし」
「ま、丸刈り!?」
アセルスは脳裏に、丸刈りにしたディッシュを思い浮かべる。
なんだか修行僧の弟子みたいだ。
山での恰好もお世辞にもよろしくない。
ディッシュは頑なに「このままでいい」というのだが、せめて頭髪だけはまともであって欲しかった。
それにたとえ丸刈りであっても、自分で自分の髪を切るのは大変危険だ。
「ディッシュ、私が切ろう」
「アセルスが? 髪なんて切れるのか?」
「これでもよく孤児院と軍学校では、よくフレーナやエリザの髪を切っていたのだぞ」
「へぇ……――って、フレーナとエリザも孤児院にいたのか?」
前にアセルスが孤児院にいたことは聞いたが、まさかあの2人も孤児だとは知らなかった。
「私と同じ孤児なのはエリザだな。フレーナとは軍学校で出会った」
「軍学校にも通ってたのか。どおりでみんな強いはずだ。じゃあ、軍学校からパーティーを組んでいたのか?」
「ああ……。もう8年になるな。所謂、腐れ縁ってヤツだ」
こうして話している間にも、アセルスは着々と準備を進める。
ディッシュを椅子に座らせ、首の周りに布を被せた。
雨乞い人形みたいになったディッシュの背後に立つと、道具袋から鋏を取り出す。
手慣れた様子で、ディッシュの髪を切り始めた。
「8年か……。昔のアセルスたちってどんなだった?」
「そうだなぁ。ディッシュが興味を引くことといえば、フレーナが意外と料理が上手いということだな」
「ええ? フレーナが!!」
ディッシュは思わず声を上げた。
フレーナに抱くイメージと言えば、やはりスキル【炎帝】だろう。
あの炎のスキルは、本当に凄まじい。
ディッシュが見てきた中でも、最強の攻撃力を誇るといっても過言ではない。
「後はがさつそうってところかな」
「ふふ……」
「間違ってるか?」
「いや、合ってるぞ。昔から細かい作業が苦手だったな。よく物を燃やしすぎて、教官に怒られていた。私もよく怒ったな」
「へぇ~。今は、仲が良く見えるのに」
「喧嘩は今でもするぞ。ディッシュが私とフレーナの仲が良いところしか見ていないからだ。…………ふふ」
アセルスは手を止め、また笑った。
「なんだよ、思い出し笑いか。気持ち悪いぞ、アセルス」
「すまんすまん。パーティーを組んだ時、私とフレーナの喧嘩は日常茶飯事でな。たまに大げんかすると、お互い何日も口をきかなかったりすることがよくあった」
「それ……。かなりの大喧嘩じゃないのか?」
「で――。決まって何日かしたら、フレーナが持ってきてくれるのだ」
「何を……?」
「パンケーキだよ」
ちょきん……。
アセルスはディッシュの髪を切る。
1度手を止め、過去に思いを馳せた。
すると、ペロリと舌を出す。
思い出してしまったのだ。
あのパンケーキの味を……。
「パンケーキ? フレーナ、パンケーキを作れるのか?」
ディッシュは興味津々だ。
他ならぬ料理のことである。
まさかこんな近くに料理人がいるとは思わなかった。
「うむ。あの味は――――」
「なに、勝手にあたいの話をしてるんだよ」
唐突に声が聞こえて、ディッシュとアセルスは肩を震わせた。
ちょきん、と鋏を入れる音が響く。
何やら不穏な音がしたが、アセルスは慌てて振り返った。
聞き覚えのある声と口調だと思ったら、やはりフレーナだ。
側にはエリーザベトもいて、軽く手を振っている。
「お前たち、どうしてここへ?」
「どうしたもこうしたもないよ。いつまで昼休憩してるつもりだ、アセルス」
フレーナはムスッと頬を膨らませる。
ジト目でパーティーのリーダーを見つめた。
「あ…………」
アセルスの口から声が漏れる。
実は、今日アセルスは休みではない。
魔獣の狩りの途中だったのだが、昼休憩ということで単独でディッシュのところにやってきていたのだ。
「なんか遅いな~って思ったらぁ。ま~た、2人でいちゃついてぇ」
エリーザベトはニヤニヤと笑う。
「ま――。いいんじゃね。ディッシュがアセルスを押し倒してる現場とかに遭遇するよりマシだろ」
「いえいえ~。それを言うならぁ、アセルスがディッシュくんをぉ押し倒してるかもしれないですよぉ」
「かもな」
「お前ら――――!」
アセルスは鋏を持ったまま烈火のごとく猛る。
その顔は真っ赤っかだ。
何がなんだかわからないディッシュは、キョトンとしていた。
【光速】の聖騎士が怒り狂っても、仲間達は全く悪びれる様子もない。
むしろフレーナは居直って、アセルスに対抗した。
「けけけ……。勝手に人様の話をするからだよ」
「でも~……。フレーナのぉパンケーキはぁ、うふふふふ……。思い出しますねぇ」
「ちょ! エリザまで! 気持ち悪いなあ」
フレーナは一転して困り顔だ。
余程何かあったのだろう。
「なあ、フレーナのパンケーキはどうだったんだ? うまかったのか?」
「じゃ~あ、ディッシュくんに昔話をしてあげましょ~。むか~しむかし、あるところにとってもシャイで無口――だけど後に聖騎士になる女の子がいましたぁ」
エリーザベトは唐突に昔話を始める。
「え? シャイで無口? それで聖騎士って誰だ?」
ディッシュは首を傾げた。
その横で、アセルスが震えている。
苦笑いを浮かべながら、白状した。
「わ、私だ……」
「ええええええええ! アセルスが、シャイで無口!! 嘘だろ!?」
「ホントですよぉ。昔はぁ、と~~っても無口で、お人形みたいに可愛かったんですから」
「確かにそうだな。昔のアセルスはなんか……いけ好かないヤツだった」
フレーナもまた回顧する。
「いけ好かないとはなんだ、フレーナ」
「事実を言ったまでだ」
「ほらほら~、2人とも喧嘩しない。喧嘩は昔話の中でするんですから」
そしてエリーザベト、さらにアセルスとフレーナが加わり、昔話が始まった。
それは辺境最強パーティーの始まりの話であった。
本日コミックス『ゼロスキルの料理番2』の発売日になります。
ついに魅惑の魔獣料理が解禁です。
今配信されているすべてのお話が詰まっております。
是非ともお買い上げ下さい。
ちなみに今回の過去編は、少しだけ2巻に掲載されている内容と、
かぶるところもあります。
コミックス2巻とともに、是非ニヤニヤしながら楽しんで下さい!







