Special Lunch 思い出パンケーキ②
大変お待たせしました。
ちょっと今までのお話と毛色が違いますが、
どうぞご賞味下さい。
アセルス・グィン・ヴェーリンの出発点は、孤児院の扉の前だった。
魔獣の突然の襲撃に怯えなければならない昨今において、孤児というのは然して珍しくもない。
こうした孤児を国がどう支えていくかは、どこの国も常に付きまとう課題だった。
アセルスの場合、運が良かった。
国や場所によって、劣悪な環境の中で子どもが育てられることも多くないにもかかわらず、彼女が身を寄せた孤児院は比較的穏やかな場所だった。
今でこそ信じられないかもしれないが、アセルスの幼少期はどこにでもいるおとなしい子だったという。
野山や孤児院の庭を駆け回るよりも、院の中で人形遊びやおままごとを好む少女だったらしい。
らしいというのは、彼女自身が全く自分のことを語りたがらないからだ。
とにかく無口な子どもで、孤児院の職員たちは当初喋れないんじゃないかと思ったほどだったという。
そんな無口なアセルスだが、【光速】という自分のスキルには、一定のコンプレックスがあった。
未発達で筋力もない幼少期の少女にとって、「光の速さで動ける」というスキルは凶器以外に何者でもない。暴れ馬に幼児を乗せるようなものである。
故にアセルスは人前では決して【光速】を使わなかった。
あまり外に出て、友達と遊ばなかったのも、スキルが暴走した時を恐れたからだ。
ただアセルスが他と違ったのは、子どもは子どもなりに、どうにかして対処しようとしたことだろう。
そのため孤児院の本を片っ端から読んで、孤児院を出て行く前にはすべてを読破してしまった。
そのアセルスが1番興味を引いたのは、王子と王女様が出てくる英雄譚であった――というのは、非常に子どもらしい結果と言わざるえない。
さらに面白いのは、彼女が憧れたのが王子様という点である。
故に、アセルスが10歳の時に、スキル【光速】の噂を聞きつけた軍関係者から軍学校に入らないかと誘われた折、二つ返事で応じたのも、王子様への憧れがあったからだ。
そうしてアセルスは、同じくスカウトを受け、孤児院で一緒に暮らしていたエリーザベトと一緒に軍学校に入学する。
全寮制の軍学校の寮で、同室だったのが、フレーナだった。
フレーナは孤児ではなかったが、その生活は裕福ではなかった。
兄弟4人の長女。父は炭鉱夫で、毎日朝から晩まで働いて、身体を真っ黒にして帰ってくる。
それでも兄弟達は父の仕事を誇りに思い、炭鉱夫になることを目指した。
フレーナも女だったが、想いは一緒だ。
しかし、その夢は物心ついた時から諦めなければならなかった。
彼女のスキルは【炎帝】である。
炎のスキルだ。
炭鉱夫にとって、炎ほど厄介なものはない。
兄弟達が盛り上がる横で、フレーナはそれを見つめていなければならなかった。
ある日、父が炭鉱夫を辞めることになった。
理由は簡単だ。鉱山から魔法鉱石がでなくなったからだ。
父の収入はなくなり、病気がちだった母親は、病に抗えずあっさり亡くなってしまった。そのショックで、父は酒浸りになり、ある夜ふらりといなくなってしまった。
幸せだった家庭は一気にどん底へと突き落とされた。
そこに降って湧いたのが、フレーナの軍学校入学依頼だ。
アセルスと同じく、フレーナもまたその【炎帝】というスキルに目をかけられ、軍関係者からスカウトされる。
学校に入れば、無料で教育を受けることができ、さらに些少ながら給金も出るという。些少といえど、子どものフレーナからすれば大金だった。
フレーナは即決し、兄に兄弟達を任せて、軍学校に入学する。
そこで運命の出会いを果たしたのだった。
とはいえ、アセルスもフレーナも最初から仲が良かったわけではない。
【光速】と【炎帝】――。
2人は希有なスキルの持ち主だ。
軍の評価も近いものがあったが、その性格は真反対だった。
堅実に着実に任務をこなすアセルス。
積極的で1発の爆発力に優れたフレーナ。
いつしか周りは、彼女2人をライバルだと思うようになった。
フレーナにも意識があったらしい。
いつか明確にアセルスを追い抜きたい。
それは今1歩、自分がアセルスに後塵を拝しているということを認めるようなものだった。
確かにアセルスの成績は、学科においても実地においても優秀だ。
対してフレーナは実地は良かったが、学科においては今ひとつだった。
学科の教科において、アセルスはほとんど満点を叩き出していたため、抜くことはほぼ不可能。
ならば得意の実地でアセルスを明確に追い抜かすしかない。
特別な成績を出せれば、月の成績優良生として選ばれ、給金にボーナスが付く。
毎月の仕送りに色を付けることができるのだ。
フレーナは必死に頑張った。
それでも、アセルスの壁は高い。
毎月の成績優良生は、いつもアセルスだった。
そしてついにフレーナはある賭けに出る。
「アセルス、賭けをしないか?」
「…………」
それは単純にしてシンプルなものだった。
今日の実地訓練でどちらが多く魔獣を倒せるか、というものだ。
多く倒した方が、パーティーのリーダーを譲る。
リーダーはパーティーの自主投票で決められるが、責任ある行動が求められる。リスクはもちろんあるが、うまく立ち回れば成績を上げることができる。
アセルスを抜き去るチャンスが生まれるかもしれないのだ。
アセルスはとても真面目だから、そういう賭けには乗ってこないと思っていたが、あっさりと応じた。
そしてその日、2人の勝負は始まった。
本日コミカライズ版『ゼロスキルの料理番』の最新話更新日になっております。
ヤングエーズUP様で絶賛連載中です。どうぞ応援の方よろしくお願いします。
ちょっと日程が立て込んでおりまして、
次回の更新ですが、9月4日の予定です。
今しばらくお待ち下さい。







