幕後1話
「コーちゃん…よね?」
「ああ、杏子…俺だ、康平だ。良かった…良かった…」
困惑する杏子を尻目に、俺は杏子が目を覚ました事で頭が一杯になって、思いきり抱きしめた。
苦しがる杏子が、俺に説明を求めてくる。
「そうだな、どこから話せばいいのか…」
「最初から、全部話して。」
この会話を切り取れば、浮気でも問い詰められているようだけど、そんな事はない。
最初から全部、余すところなく杏子に今までの事を話した。
話し終わる頃には、朝の陽射しを浴びて、杏子の頬には輝く物があった。
「コーちゃん、ありがとう。愛してる。」
「俺もだ。」
ちゃんと言いなさいよ。と昔一緒に住んでいた頃を思い出す。
「私ね、寝てるみたいだった。ハッキリとはしないけど、お腹にいた子をずっと感じてたんだ。」
杏子も苺と同じ様に、繋がりを感じていたらしい。
少しヤケてくるな。
「それで、どんな子?いい子に育った?ううん、分かってる。きっといい子だよ。」
「そうだな、俺と杏子の自慢の…最高の娘だよ。」
これも苺と同じように、存在を感じるだけだったみたいだ。
苺はまだ帰ってこない。
でも心配はそれほどしていない。俺も苺を感じているから。
「その子…娘、私達の娘の名前は?」
「苺だよ。草冠に母。」
理由を聞かれ、日記を読んだ事を言うと、なんで読むのよ恥ずかしい、とポカポカ叩かれた。
「こんな事言うのはアレなんだけど…」
「どうした?言ってみなよ。」
「あれね、苺って書いて『まい』って読ませるつもりだったの。」
出生届の名前欄に、間違った読みを書かれてしまい、不思議な名前になった奴の事を思い出し、俺もやってしまったか、と項垂れる。
「でもでも、いちごちゃんもいいよね!可愛いじゃない。」
間髪入れずにフォローしてくれる、杏子の優しさが沁みる。
「コーちゃん白髪もいっぱいだ。おじいちゃんになっちゃったね。」
「そうだな。長い間、待たせてごめんな。」
「ううん、これから一緒にいられるから。」
俺の頭を愛おしそうに抱きしめて、杏子の優しさに包まれた。
「こんなに若い奥さんでムラムラしちゃう?」
「バーカ。」
泣きそうな俺をからかい、ケラケラ笑う。
これから俺と杏子の、そして苺の家族揃っての生活を始めるんだ。
「あれ、あの子は…?まさかコーちゃん…私というものがありながら…」
気づけがアーキが部屋の外から様子を覗きに来ていたようだ。
ハラハラと芝居がかった杏子の誤解を解き、アーキとアイシスさんを紹介する。
うちのコーちゃんがお世話になりまして、と母親みたいな事を言う。
朝食を済ませ、街を二人で散歩した。
寝たきりの体だったとは思えないほど、若々しく元気だ。
馴染みの店の主人には、娘さん戻ってきたんだね。
と誤解され、杏子は満更でもない様子だった。
----------
陽射しが柔らかく、春を感じる頃。
空を覆い尽くす影が街に訪れた。
もう街の人も慣れた事で、それを怯える人は殆どいない。
俺は杏子と家の中から、その様子を見て杏子に教える。
杏子は慌てて身支度を済ませ、迎える心構えを整える。
「いつでもいいわよ!かかってらっしゃい!」
「何と戦うつもりなんだ…」
少し違う気もする杏子の心構えにツッコミを入れ、俺も迎える支度を済ませる。
「だって、心配なんだもん。」
「大丈夫だよ。」
家の戸が元気よく開き、最高の笑顔で飛び込んできた。
「パパ、ママ、ただいま!」
「おかえり、苺。」




