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40話

 木の精霊に問題の解決を知らせ、下山は少し手間取った。

ドンちゃんがあまりにも大きすぎる為、出来るだけ森を傷つけないルートを教えて貰い、ゆっくり下った。


 下山してからは、再びドンちゃんに振られ、道中の村の人を随分驚かせ、申し訳ない気持ちで帰路を辿った。

 

 その間、杏子は目を覚ます事は無かった。

苺はママは生きていると強く言う。


 実際、死んでいるようには思えない。

ただ、呼吸も脈拍もなく…




 あの日、病室のベッドの上で、息を引き取った時のまま、時間だけが、凍りついたように…





----------


 ウィアクティオンに到着し、コーンに事情を説明すると、まだ復旧も終わっておらず、まともなベッドも数少ない中、ベッドを杏子の為に用意してくれた。

 

 翌日、アイシスさんが出産。名前はアーキ。アーキ・アンキド。

元気な女の子が誕生し、復興の新たな活力となった。


 トルンとカイは、お兄ちゃんになったと息巻いている。

今まで以上にしっかりしてくれると嬉しい。


 女手がジュレさんだけなのを気遣ってか、苺は率先して手伝いをしてくれている。

 

 大きくなりすぎたドンちゃんは、土の精霊に頼むと土に還してくれた。

土人形に自我はなく、どの個体も同じだと、新たに手の平サイズの土人形を苺に与えてくれた。


 今回限りだと、苺には強く言い聞かせた。

飼えなくなったペットを捨て、新しいのを与えるような気分だ。


 数日が過ぎ、杏子は未だに目を覚まさない。

何が原因なのか、そもそも原因などなく、手遅れだったのか、俺にそれを知る術はない。



----------


 ある年の春、セイとカイが挨拶に来た。

 

「コーヘー、僕はカイを連れて、行くよ。」

「何処へ行くんだ?」

「決まっているじゃないか。」

 そう、杏子を救う手掛かりを探しに。だ…。

 

 先日、先生に目覚めない理由について聞かされた。

魂が囚われている可能性をがあると。


 先生とゾクウが色々調べた末、そういう憶測が立ったのだと。

確定ではないが、あの二人の調べた末ともなると、可能性は高い。


「おっと、そういう話しなら俺もいくぜ。」

「父さんが行くなら僕もいくよ。」

 コーンとトルンだ。


「貴方達だけだと、誰が身の回りの世話をするの、私も行くわ。」

 ジュレさんまで。

 

「俺は……」

「コーヘーにはアイシスとアーキを頼みてえ!なっ、頼むわ相棒。」

「コーン…」

 行けないと言う積りだった。

それを見抜いていた、コーンの優しさに胸が痛い。


 杏子を見つけ出して6年が経ち、俺ももう戦える年ではなかった。


 いや、…違う。

実際は杏子から離れるのが、怖くて堪らなかった。


 目を離したら、また何処かへ、また俺の元から離れてしまう。

臆病になってしまったのかも知れない。




「…すまない、皆。杏子の事、…宜しく…お願いします。」

「おう、任せとけ。」

「最近魔族も出ないけど、これでも勇者だからね。」

 俺は踏み出せなくなった。

この世界に来て、ずっと人に頼りっぱなしだ。





「苺、お前も行くのか。」

「…う…うん!ママは任せてよ!絶対、ぜ~ったいママを起こす方法を探してくるから。」

「そうか…」

 苺にも随分と気を使わせていた。


「もうっそんな顔しないで!私、パパとママの娘に生まれてきて、すっごく幸せだよ。」

「…苺…俺は…俺も、苺の父親になれて、本当に良かった。」

「……パパ、絶対ママ助けてくるから。待ってて。」

 苺を腕に抱きしめ、涙が溢れ止まらなかった。



----------



「皆、本当にありがとう。必ず生きて戻ってきてくれ。」

「任せてよ、おじさん。僕だって勇者の息子なんだ。」

「言うじゃないか、カイ。僕にいつも負けるくせに。」

「はいはい、そこまで。」

「期待しとけよお。」

「留守番しっかりね。」


「じゃあいっくよ~。ドンちゃんおっきくな~れ。」

 ドンちゃんがムクムクと膨れ上がって、5メートル程になる。

馬車の馬が居なかったのは、そういう事か。苺のやつめ。


「苺、これを持っていけ。」

 バーンさんに頂いた刀を、苺へ投げ渡す。

剣を学んでいない苺の、役に立つかは分からない。


 けれど、俺の代わりに連れて行って欲しかった。

 

 

「パパ、いってきます!」

「ああ、いってらっしゃい。」





「苺、死ぬな。必ず帰ってこい。」

走り去った後に、そう呟いた。

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