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34話

デウス・エクス・マキナ


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 ウィエダの町は、一瞬にして恐怖と絶望の底に落ちた。

そうさせたのは、空を悠然と飛び、咆哮を轟かせるあの影。




 ドラゴンだ。



 コーンに昔聞かされた話しを思い出す。

世界を何度も滅ぼせる存在。


 聞いた当時は、そうなんだ、へー。

と、それくらいにしか思わなかった。


 ゲームや漫画でもよく見る存在。

そしてその多くは、人でも敵う相手で、深く意識する事はなかった。


 けれど今、それを目にしてみれば、あれは…




 怯えなのか、諦めなのか、俺の体はピクリとも動かない。

本能が意識を凌駕して、邪魔をする。…動かせない。


 俺の顔が今、どういう表情なのか分からない。

きっと、青ざめ、諦め、心臓を掴まれ苦悶するような顔をしていると思う。


 町中は騒然とし、悲鳴を上げながら逃げ出そうとする人、腰を抜かしガタガタと震える人、様々だ。

 

 魔族は必死に羽ばたき、逃げようとしている。

浮いてはフラフラと墜落を繰り返して、焦りを隠せない。


 苺は…?苺はどこだ…?

ここで終わってしまうとしても、安心させてやりたい、守ってやりたい、傍にいてやりたい。


「パパ!」

 良かった。苺は無事だ。

本能が邪魔する俺の体に、動け、動け、とひたすら命令し、一歩また一歩、と苺に歩み寄る。


「パパあれは…?」

「…ドラゴンだね。」

 見上げていた影は急に大きくなり、影を追う俺の視線は下がり、大地が鳴動する。

 

「ゴオオオオオオオオオオオ。」

 咆哮と共に、降り立ったそれは、突風を巻き起こし、その存在を十分に見せつける。

 

 運が悪かったのか、狙われていたのか、それが降り立った先に居た魔族は、突風に煽られ地面に転がされた。

 

 鎌首を擡(もた)げ開いた顎は、ヨタヨタと転がる魔族に向うと、バクンと音をたてて閉じた。

 

「あれほどの魔族でさえ一呑とは…」

 筋肉さんが感嘆ともとれる言葉を発するけど、あれが次に向かうのは俺達だ。

逃げなければと、ずっと考えているけど、あれは逃げられないと本能が告げる。


 ドラゴンは魔族を呑み込んだ後、動こうとしない。

このまま昼寝でもしてくれれば、その隙に逃げられる。


 次にどうするのか、俺達はどうするのか、思考を巡らせながら、ドラゴンの一挙手一投足を凝視していた。

 

 ドラゴンの影に人の姿を見つける。

ポンポンと、ドラゴンの前足に労うように触れ、人の影は村の中へと歩を進める。




「先生!」

「なんじゃ、お主も居ったのか。」

 ゲイン先生だ。

何がどうなっているのか分からない。


「先生こそ何故、あの…ドラゴンは?詳しく教えてください。」

 この町は未曾有の大パニックだ。

説明責任を果たしてもらおう。


----------


 ボウムルの巫女様、キヌアさんがゲイン先生の元を訪れていた事。

 

 キヌアさんが、南に魔族の気配を察した事。

 

 ゲイン先生は、北の山脈に住むドラゴンと古い知り合いだった事。

 

 先生とキヌアさんが、ドラゴンでここまで飛んで来た事。

 

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 もう色々と無茶苦茶だ。

先生は一体何者なんだ。どう考えてもただの元冒険者じゃない。


「ドラちゃんは頼り甲斐があるわね。」

 ドラゴンの背から降りてきたキヌアさんが、撫でながらそう言う。

その呼び名は止めて欲しい。


 町のパニックは、筋肉さんが中心となり収めている。

流石、神に仕える神官。人望(胸板)厚い有能な人だ。あの筋肉は伊達じゃないな。


「すごいねっ!ガオーっだねっ!」

 苺は憧れ?のドラゴンを間近で見れて大興奮だ。

魔法の炎が思わず漏れている。




【人の子にしては面白い、美味しそうだ。】


「…む、娘を、…食べないで…ほしい。」

【人理(ひとのことわり)の者が我の言葉を解すか。父娘揃って面白い。】

「…少し訳あって。」

【まあいい、人は食べぬ。ドエルが煩いからな。】

 そう言うと、ドラゴンはゆっくり首を大地に下ろし、大きな瞼を閉じた。

フーッと胸を撫で下ろし、ひとまず安堵する。


 先生達の待つ村の中へ戻り、今後の事を考えよう。

ちょっとだけ股に湿り気を感じながら、村へと入った。

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