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26話

楽しい時間と辛い時間、時の流れはどちらも同じ。


----------


 夜通し馬を走らせウィバリムの街に着いたのは明け方。

 

「勇者の手の者だ!街道を戻った所に商人と賊が居る、馬を連れ迎えに!」

「この馬は休ませてあげてくれ。」

 入り口にいた衛兵に告げると、苺を背負い走って町に入り医者を探す。

 

 

 あそこだと教えて貰った家の戸を乱暴に叩き、中の住人を叩き起こす。

 

「すまない!娘が大変なんだ!助けてくれ!」

 寝ぼけ眼で出てきたお爺さんに事態を説明すると、そうかそうかと呑気に返事をする。

 

 ちょっと待ってろと戸口で待たされ、焦る気持ちはまだ収まらない。

 

 

「ほれ、1日2回これを飲ませて、こっちを塗ってやれ。大したこっちゃない。心配しなさんな。」

 失礼を侘び頭を下げてお礼を言う。

ホッとして体の力が抜ける感覚を味わう。



 宿を借り、苺をベッドに横たえると気がついたようで、薬を飲ませ、塗り薬を塗り込む。

 

「…一緒に寝よ?」

 辛さからか少し甘え気味な苺に腕枕をしてやると、俺の手を掴み頬の傷に当ててくる。

 

「パパの手、ひんやりして気持ちいい。」

 熱を持つ傷に丁度良かったのか、落ち着くと再び寝てしまった。

 

----------


 昨日あれから起きれば夕方で、苺はまだ辛そうだった。

少しだけ食事と薬を取らせ、朝までぐっすりだ。


 日が明けてみれば、元気な苺が見られた。

傷のほうも、閉じて薄皮が貼っていた。


 あの医者は何者だろう。

 

「傷跡が少し残るかも知れないな。」

「お嫁に行けなかったら、パパのお嫁さんになってあげるよ。」

 俺は滑り止めか。可愛いやつめ。

 

----------


 大事を取って苺は宿に残し、市場を眺める。

日用品を馬車に置きっ放しにしているので、間に合わせの物を購入する。


 それと、着る物もそろそろ買い替えの時期だ。

俺はともかく苺が着たきり雀なのは頂けない。


 苺の物は殆どアイシス(コーンの嫁)さんに任せていたから、勝手が分からない。

服はなんとかなるにしても、下着はな…。

高難度すぎて、ダンジョンの方がまだマシだ。


 苺の様子を見て元気になってから、市場で一緒に買うのもいいかもな。


 昼頃、宿で待つ苺の元へ戻るとお腹が空いたとせがむので、市場の出店を思い返し、二人で行ってみる事にした。

 

「も~パパお肉しか食べてない。野菜もちゃんと食べて!」

 俺の母親にでもなったかの様な事を言う。

そう言えば、杏子にも似たような事を何度も言われたっけ…


 日が落ちるまであれこれと町の中を散歩して宿に戻った。

恐らく明日には残してきた商人と荷物も着くだろう。お礼も言わないとな。


----------


「お~い、あんた。そこのあんただよ。」

 翌朝、一人で宿を出ると衛兵に呼び止められた。

悪いことはしていない…勇者(セイ)の名前を勝手に使ったけどそれくらいだ。


 聞けば山賊退治の報奨金が出るという話しなので、貰える物は貰っておこう。

着いた先は、衛兵の詰め所。まあ当然か。


 そして中に通されて出会ったのが、筋肉さん2号。


「初めまして。私がこの街の衛兵長だ。この度はご苦労だったな。」

 顔も体格も筋肉さんそっくりなこの人は、聞けば筋肉さんの双子の兄。

遺伝子の神秘と脅威を感じざるを得ない。


 お名前はクロオ・ノトロウ。クロオさん。

心の呼び名は兄筋。


 その後セイ達が着ているか確認をしてもらったが、未だ到着の連絡は無いそうだ。

多少の誤差は承知のうえ。しばらくは苺と二人で過ごそう。


 詰め所から出ると、商人さんにも再会し、お礼を述べて、荷物を受け取った。

苺の事を随分気にかけてくれていた。


----------


 宿に戻り、どうするかを決めかねる。

元々セイ達が先に来る予定だった為、俺達が先に来た想定をしていなかった。


 ダンジョンに進みたいが、苺を一人置いていくのは心配だ。

かと言ってダンジョンに連れて行くのは危険が大きい。


「また一人で考えてるでしょ!」

 そうだ。苺の意思や考えを聞いてなかった。

家族なんだ、話し合いと相談を忘れたら駄目だよな。


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 これもいいな、あれもいいなと目移りする。

ダンジョンへ行く為の買い出しは、いつになっても面白い。



 あの後の家族会議で、苺と二人でダンジョンへ行く事にした。

とはいっても、最深部は目指さない。低層でここダンジョンを把握するに留める。


 ゾクウに貰った魔素を弾く毛布も念の為に持っていくが、苺の魔素が溢れては困る為、殆どが日帰りになるだろう。

寝ずの番を一人で続けるのも無理があるしな。

ダンジョン内で正確な時間は分からないので、体感頼りではあるけど。


「私退屈~」

「もうちょっとだけな。」

 買い出しの為、苺を連れてきたのだが、興味が無いのか入口の脇に座って足をブラブラさせていた。

 

 苺用の装備も必要だ。

ナイフにプロテクター、そしてバックパック。最低限それくらいは無いと困る。


 バックパックを見繕いながら、そういえばランドセルを買ってあげられなかったとシミジミ。

今なら小学3年生か…


 新学年のランドセルに手足が生えて歩いてる。

そんな情景を思い浮かべ、ちょっと口元が緩む。尤もそれはもう叶わないけど。


 一通り買い揃え、次に向かった先は、服飾店。

苺の着る物を買い替えたくて、以前場所だけは下見してあった。


 それほど広くはない店内に、ズラリと並んだ棚の中に畳んだ商品が陳列されていた。

そういえばこの世界でハンガーを見ていない。


 洗濯物は縄を捻ってより戻し、出来た隙間に挟んで留める。

見てすぐ出来るものではなく、熟練の主婦達には頭が下がる。


 陳列された商品はどれも色彩豊かなとは、お世辞にも言えない地味な色ばかり。

布も染料も貴重な物だ。工業化の進んだ地球とはまるで価値観が違う。


 苺はあれもいいな、こっちもいいなと、子供向け商品の置かれた一角で手に取り品定めをしている。

 

「どっちが似合うかな?」

「こっちでいいんじゃないか?」

 実際どっちも大差なく、俺が言うのもアレだけど、苺は何を着てても可愛い。

しかしそこは乙女の心か、でもなぁと別の商品へと手が伸びる。


「まだか~?」

「もうちょっと!」

 今更ながらに思い出した、女の買い物は非常に長い。

杏子とショッピングモールの品選びで半日潰れるのは当たり前だったな。と思い返して苦笑いを浮かべた。


 3時間程だろうか、いくつかの下着の替えとベージュ生地に黄色に染められたリボンの着いたワンピースを一着が決まった所で勘弁してもらえた。

 

 カリエマには大きな商店街があるけど、そこには苺と行かないようにしないと…

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