25話
目に見えない物は恐ろしい。
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ウィバリムへ向けて馬車に揺られ、間もなくに9月に入った。
恒例の誕生日は、二人だけのささやかなお祝いになったが、苺は9歳になった。
「あんたウィバリムへはダンジョンかい?」
「ああ、約束があってね。」
ボウムル、ウィバリム、カリエマを結ぶ定期馬車が無いのは、商人の往来が多いからだと。
ボウムルの森で薬草など、森の素材。
ウィバリムでダンジョンから、魔物の素材。
カリエマで生産加工をし、再びウィバリムとボウムルへ運ぶ。
「この辺りは賊も出るからね。こっちは用心棒代が浮いて助かるよ。」
このルート、特にボウムル・ウィバリム間は山賊が稀にでる。
聞けば恐らく、ボウムルの森は魔物が少ない。商人がよく通る。ボウムルには防衛隊が無い。という事が原因だろうと。
ボウムルは宗教都市といった感じだった。
冒険者も殆どおらず、魔物の発生は魔法で抑制してる。
確かに山賊にとっては有り難い土地だろう。
商人にとっては全然有り難くはないだろうけど。
苺には風の魔法を使わせて、目立たないようにさせている。
そよ風程度なら魔法を使っているとは分からないだろう。
山賊の目印にされても困るしな。
日が暮れてからは体を動かし、左手がある事に慣れる訓練中だ。
今まで左手が使えない分、庇うような動き方になっていたので、折角使える左手を使ってない事に気がついた。
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「へへ、荷物は諦めて馬車ごと置いていきな!」
山賊に囲まれて、商人のおっちゃんはオロオロしている。
やっぱり出るのか山賊。
それとも命も置いていくか。と抜身でジワジワ近づく。
御者台に座っていた苺とおっちゃんを荷台に移し、馬車を降りる。
相手は五人。恐らく勝てない相手じゃない。
アラフォーの言葉が見え隠れする年齢だが、これでも勇者の弟弟子だ。
問題は、人間相手に戦った経験が殆ど無い事。
勿論、訓練での立ち会いは数え切れない程した。
でもこうして殺気を向けてくる人間と、相対するのはこの世界で初めての経験だ。
人同士での命のやり取り。できれば経験したくはなかった。
とはいえ、そうも言える状況ではない。苺を守るためにも、やるべき事は決まってる。
決心が付き、動き出せば早かった。
踏み込み一瞬で、一人二人と鞘のついたまま剣を振るい、打ち倒す。
馬車に目が行き、何が起こったのか分からなかった三人目は、膝を横から薙いで崩れた所で頭に一撃。
苺が荷台からガオーっと魔法の炎で威嚇し、怯んだ瞬間もう一人を組み伏せる。
残り一人。もう諦めてくれるかと思った。
俺は、少し気が緩んでしまったあの時の俺をぶん殴りたい。
山賊は馬車の影にもう一人潜んでいた。
事もあろうか、そいつは苺の首に腕を回し持ち上げると、右手のナイフを苺の顔に這わせる。
「怪我させたくなかったら、大人しくするんだな。」
抱えられた苺が、悲鳴を上げながら大きく暴れ、腕が緩む。
苺の顔が左右に振られ、ナイフが苺の右の頬を割いた。
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「---め、パパ駄目!パパ!」
我に返ると目の前には、俺の剣に肩を貫かれ岩に押し付けられた山賊と、泣きながら俺の腰に抱きつき、必死に制止する苺の姿があった。
もう一人の賊は片足を失くし、這いずって逃げようとしていた。
「苺、ごめんな…ありがとう。」
これで苺を泣かすのは二度目か。
すぐに気が動転してしまうのは俺の良くない所だ。
直さなければ。
もう苺を泣かせてしまうのは懲り懲りだ。
頬を見れば、縫う必要が有りそうな傷の大きさ。
生憎と裁縫道具は俺も商人も持ち合わせていない。
商人が薬草を分けてくれ、コーン直伝の湿布を作って苺を手当した。
ウィバリムまではもう3日程という事なので、そこできちんと治療を受けさせたい。
賊は連行する決まりで、全員縄で手を縛り、片足を失くした奴は荷台、他は馬車に繋がれ後ろを引っ張られるように歩いて着いてくる。
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山賊襲撃から2日目、苺の容態が急変した。
昼から熱が下がらず、ぐったりしたまま苦しそうに喘いでいる。
食事は僅かに食べたが、すぐに戻してしまった。
すぐに思い浮かんだのは毒だ。
だが、これはすぐ否定された。
山賊は毒など使っていないというし、即効性の毒ならまだしも、遅効性の毒を山賊が使っても意味が無い。
次に浮かんだのは、細菌。
破傷風なんかの類かと思う。
この世界、どこまで地球の常識が通用するか分からない。
けれど、無くはない。そして、もしそうであれば一刻を争う。
商人に無理を言って馬車の馬を借り、苺を抱え日暮れの街道を駆ける。
悪い予感は当たらないで欲しい。




