24話
片手では掴めない、両手でしか掴めない物。
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「ご苦労さまでした。」
労うのは大神官さん。
土地柄か冒険者があまり来ないようで、魔物は教会が魔素を散らして予防策にしているのだと。
「では、こちらへ。巫女様が祈りを捧げて下さいます。」
大神官さんがさらに奥の祭壇のある一室へ通してくれた。
治癒の奇跡は大神官さんが行うのではないらしい。
「こんにちは。話しは伺っておりますよ。」
「宜しくお願いします。」
随分若い巫女さんだった。見た目20半ばという所か。
巫女と言っても巫女服ではなく、神官と同じ青と白のローブで、ちょっとだけガッカリだ。
巫女様の名前は、キヌア・ダヴィ。キヌアさん。
名前を伺うと、これでも随分長いのに私もまだまだねと微笑んでいた。
ユッキーみたいな事を言う。それにキヌアさんは言うほど歳じゃない。
多分、受けられる人が限られているから、名前を知っている人しか来ないんだろう。
指示に従い、祭壇の前にある石造りのベッドに左手首を乗せる。
苺は横で興味津津の表情だ。
キヌアさんがこちらに背中を向け祭壇に向かい合う。
言葉とも音とも判断出来ない祝詞を上げ、心地よいリズムが眠気を誘う。
5分程眠気と戦い、チクチクと痛みを伴うその感覚は遂に来た。
これは生える!手を生やした事は人生で一度もないけど、そういう感覚が俺を包み込む。
すでに皮膚が巻いていた手首の切り口が、ウゾウゾと虫が中で這うように蠢き出した。
「パパ気持ち悪い…」
その言葉は傷つくから止めて欲しい。俺のハートはデリケートなんだ。
確かに見ていて気持ちの良いものではない。
どう手が生えるのか、生えたら実は右手だったとか、不安と興味が尽きない再生の過程を、見逃す事のないようじっと見つめ続ける。
遂に皮膚を破って、枝の様なものが頭を出し、体内から出るというよりは、成長していく様に伸び始める。
そして成長しきったそれは、5本に枝分かれした細い木の枝。
「パパが木になっちゃう!」
不安そうな苺に、ならないよと否定したいがしきれない。
目の前の俺の左手はどう見ても木の枝だ。
苺の言葉に異変を感じたキヌアさんが、祝詞を中断して振り返る。
俺の左手に生えた枝と俺の顔を二度三度見直し、驚きの表情だ。
「貴方の背中を確認させて下さいね。」
キヌアさんはそう言うと、俺の背中を捲り上げ何を確認するのかじっくり観察を初めた。
俺の背中に悪魔の羽根は生えてないと思う。
「貴方は精霊達に好かれているようね。」
精霊に出会った事を話すと納得したように、心配ないわと祝詞を再会する。
再開した祝詞を受けてか、成長した俺の左手は、
沢山の蕾が膨らんでいき、雪のように白い綺麗な花を咲かせる。
「パパ綺麗!」
どうせならカッコイイと言って欲しい。
満開の花々は見れば手の形に添って咲き乱れ、まるで枝が骨で花が手の様に。
パッと花びらが舞い散ると、随分久しぶりに再会する、俺の左手がそこにあった。
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治癒の奇跡の神事は終わり、左手の具合を確かめ、キヌアさんと少し話をした。
精霊達に好かれているというのは、加護と呼ばれる物が俺には付いていると。
いつそんな加護をくれたんだ。ユッキーは本当に説明をしないな。
滅多に貰える人は居ないけど、加護自体は大した物ではないと。
精霊にとっては目印の様なものじゃないかしら、とキヌアさんは言う。
精霊達の加護を受けた選ばれし大英雄。
残念ながら、そんな者はこの世界には居なかった。
杏子を救う事が目的なのだから、そんな者になれなくても構わない。
紹介状を書いた人、つまり先生の事をキヌアさんに聞かれ、ドエル村に住んでいる事を教える。
少し縁がある人なのよ。とキヌアさんは言うが、尋常ではない雰囲気を感じたのは気のせいじゃないと思う。
ごめんなさい先生、俺は選択肢を失敗したかも知れません。
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ボウムルでの用事は済んだ。
次はウィバリムで繭の捜索だ。
ウィバリムまでは歩けばひと月、馬車なら2週間ほどらしい。
定期馬車はない為、商人の馬車に乗せてもらう予定だ。
出てゆく商人が見つかり次第、出発する。
コーン達の予定に遅れが無ければ、ウィバリムに着くのは同じくらいだろう。
「パパもうやめてよ~」
元に戻った左手のお陰か、心も晴れやかに気分がいい。
苺の頬をむにむにと両手で潰して感触を味わう。
ようやく可能性に手が届く。そんな気になった。




