17話
忘れ物を気づいた時にはもう遅い。
----------
「全く何が何なのか、訳がわからないよ。」
「同感だ。」
「ゲホッ、死ぬかと思ったぜ。」
あっという間の出来事で、何がどうなったのか。
分かる事といえば、白ローブが潰されて無かった事。
そして目の前に、見るも無残な魔族が転がっている事だけだ。
コーンは魔族に一撃を貰っていて、苦しそうだが、見た限り大丈夫そうだ。
俺の義手は使い物になりそうにない。…仕方がない。諦めよう。
「ふ~ん、なるほど。それで?」
「そうか、そうか。」
白ローブはまだ息のある魔族を、ウリウリと虐めながらも何かブツブツと話しをしている。
正直あれを一瞬でも見た以上、白ローブに迂闊な真似は出来ない。
あいつは規格外だ。
苺に異変が起こった時、斬り掛からなくて良かった。
白ローブ曰く、苺の命に別状はないと。
ゴーレムが抱き上げ、白ローブが毛布の様な物を掛けてくれた。
「まずこの子、魔素を吸ってるんだ。あまりダンジョンには入れない方がいい。」
お前が連れてこさせたくせにと言い掛けたが、後から判明した事を言っても仕方ない。
魔族から聞き出した結果、魔吸緋と呼ばれる魔素を吸収する石が苺には植えられている。
魔族の手によって。
胎内で石を植えられ、ウィコンティのダンジョンで繭を揺り籠として苺は誕生した。
コンティはその時、又はそれ以前に害された可能性がある。
石を植えられた異界の胎児は苺以外にもいるそうだ。
白ローブの推測では、魔族は基本的に直接この世界に干渉出来ない。
よって、別の世界に干渉してこちら側に押し込んだ可能性があると。
理由の一つは恐らく先程の世界と魔界を繋ぐ穴。
繋ぐ理由は分からない。侵略なのか、インフラ事業なのか、通商締結なのか不明だ。
世界の共通認識として、魔族と人類は敵対している。
決して良いことではないだろうとセイは言う。
石が溜め込める魔素の量は膨大で、魔素が溢れ逆流すると、世界の隔絶に綻びが生まれる。
魔素が境界を歪めるのだと。
「なんでダンジョンなんだ?見つかりにくいからか?」
繭が何故ダンジョンにあったのか?
魔素を吸うからダンジョンには入れるなとはなんなのか?
以前にも気になった覚えがある。
ダンジョンってなんなんだ?
ダンジョンだろ。とコーンに言われたっけ。なんて思い出す。
「…面倒だがダンジョンの成り立ちから話そう。」
これまた長い話しかもしれん。失敗だったか。
----------
要約すると、世界に漂う魔素は、淀むと魔物に変質する。
形状は擬態なのか、模倣なのか近くに生息する動物に似せられる。
魔物となった魔素は、死んでも魔素に還る事はなく、土に還る為、魔素の浄化として機能している。
しかしこれは無秩序で無計画で、人々の手を煩わせた。
どこに生まれるかも分からない。
どれだけ生まれるかも分からない。
成り行きまかせで不安も募る。
そこで賢人が大規模な魔素の浄化施設として、ダンジョンを世界各地に作った。
ダンジョンは魔素を吸収し、魔物を生成する。
魔素の吸収量、内部の構造、魔物の生成量などを、ダンジョンの管理人。
ここの白ローブを初め、いわゆるダンジョンマスターが管理する。
生まれた魔物は、死んで初めて浄化のサイクルが完了する。
よってより多くの魔物を倒してもらう為、マスターはダンジョン運営に頭を悩ませるらしい。
ダンジョンのお陰で、野生の魔物は徐々に減り、人の暮らしが安定したという。
ダンジョンにはより多くの魔素が集まる。
その集まった魔素を石に吸収させるため、繭がダンジョンに置かれたのだろうと。
そして、苺の魔素が溢れさせない為に、ダンジョンには入れるなという事だ。
----------
「ここに入って急に苺ちゃんの逆流が始まったのはなんでだ?」
確かにコーンの疑問は尤もだ。
今までなんの兆しも無かった。ここに何かあるのか?
「聞きたい?いやぁどうしようかな?教えようかなあ?」
白ローブは人をイライラさせる天才だ。
「私のダンジョンは優秀だからな!魔素の量も桁違いだ!」
自慢か。
ここの膨大な魔素を吸ってしまい、許容量を超えてしまったのだと言う。
「それと君、君はもしかすると異界の人なのか?」
「この世界とは別の生まれだ。」
結局白ローブにも洗いざらい聞かれてしまい、話すしかなかった。
あの魔族を見た後じゃ、全部話す以外になかった。
魔族の言葉が少し分かった事について、白ローブから答えは得られなかった。
人間には分からない言語であること。
ダンジョンマスターは人の理から外れ、言語の概念がなくなる事。
言語の概念がなくなり、相手の思考に乗るとか理解しにくい事を言っていた。
その条件で考えれば、俺は人の理から外れた存在になってしまう。
いつの間にか人間を辞めていた説が浮上しそうになるが、俺には心当たりがある。
恐らく俺の二つ目の可能性。
気持ちを伝えるための言葉。
----------
俺の事を一通り聞いたあと、私の名前はゾクウだと教えてもらった。
なんとなく予想はしてた。
ウィコンティのマスターはコンティ。
ウィゾクウのマスターだからゾクウなんだろうと。
「しかし参ったね。苺ちゃんの様な子が他にもまだ居るって事だろう?」
そうだった。他にも異界…地球を指すかは分からないけど、胎児がこの世界に送られているんだ。
「しかも話しを聞く限りじゃ、ダンジョンの中って事だよねえ…」
セイは心底困った様に呟く。
「世界にダンジョンっていくつあるんだ?」
「無数にあるよ。だから困るのさ。」
わらの中から針を探すか。途方もないな。
「私は知り合いのダンマスに、連絡をとって色々聞いてみるとしよう。」
ダンジョンマスター組合みたいな物があるんだろうか。
「僕はそうだね…西の街々の伝手を使って各地に呼びかけるよ。」
個人でどうにか出来る話しじゃなさそうだしな。使える伝手は使うべきだ。
ゾクウに外まで送ってやると言われ、セイ達は青ざめた表情のまま天井に押し上げられた。
そして俺と苺も送られる。
「この毛布はある程度の魔素を弾くから使うといい。」
「娘は魔法を学びなさい。魔法を使えば体内の魔素は減る。」
やけに親切なゾクウが逆に怖い。
「ありがとう、助かる。」
「なに、二人分の望みを叶えてないからな。」
そういえば、と思い出したときにはモグラになっていた。
----------
地上に出てみれば、フラフラの二人が待っていた。
「コーヘー達はどうするんだい?カリエマに帰るのかい?」
実のところ、これからの事はまだ決めてなかった。
ここに来たのも、生活費の為という情けない事情だったわけで。
ただ今回の一件で、自分の力の足りなさを心底味わった。
魔族には手も足も出ない。そんな状態だ。
魔族はセイに任せればいい。
以前はそんな気持ちも何処かにあった。
だけどあの魔族は苺を探していた。
また魔族が現れる事もあるかも知れない。
その時、セイが傍に居るとは限らない。
その時俺しか居ないかも知れない。
その時俺は…
苺を守れる強さが欲しい。
強さを乞う宛ては一人だけ。
俺とコーンの師匠、ゲイン先生。
俺達はあの頃から比べれば、十分強くなった。
だからこそ分かる、ゲイン先生は間違いなく一流の冒険者だ。
「先生の元に戻り、鍛え直そうと思う。」
「げぇ、まじかよぉ…」
コーンが酷い顔をする。先生もそうだが、カミラおばさんも居るしな。
「ジュレとカイも連れて行ってもらえないかな?」
西方各地へ移動するとなると、一人の方がいいと俺達に託す事に。
1年くらいはドエル村に滞在すると伝えると、滞在中にはドエル村に行くと約束をした。




