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11話

親が居なくとも子は育つ。でも生まれはしないと思う。


----------


「本当に心当たりはないのかい?」

「素直に白状しちまえよ。」

 カツ丼を出されてしまいそうな、空気の中。

俺は膝の上で寝息を立てる女の子を抱えながら、尋問されている。


 女の子は裸だった為、セイのマントに包まれてる。


「コーンが一番良く分かってるだろ。ずっと一緒だったじゃないか。」

「まぁそういやそうだな。」


「そもそも、その繭はなんなんだ?」

「なんだろうね。今までこんなのは見たこともないんだ。」


「色からして、魔素に関係してそうだよねぇ。」

「そうです…ね、この子も魔族に関係が有るかもしれません。」


 スヤスヤと安心しきって眠る女の子に、警戒と嫌疑が掛かる。

俺の事をパパと呼ぶのは、鳥の様に刷り込みかも知れないが…

最初にこの子の目に映ったのは、セイやジュレさんだ。可能性としては低いだろう。


「ここに留まっていても仕方がない。恐らくこのダンジョンは既に死んでるし、早めに出た方がいい。」

 セイはダンジョンが死んでいるという。ダンジョンは生き物だった説浮上。

 

----------


 急いだとは言え、帰り道もひと月以上の工程になった。

その間、女の子の世話は俺に託された。


「いやぁ。パパがいいの!パパ、パパ~。」

 と、ジュレさんが抱き上げるとグズりが酷かった。

なんで俺なんだ。


「参ったね、やっぱりダンジョンは死んでいるね。魔物が全くだ。」

「その死ぬってのはどういう事だ?」

「ダンジョンのマスターが居なかったろ?ほら繭を見つけた部屋にさ。」

 管理人不在でダンジョンが機能不全というような事らしい。

管理人の行方は分からないみたいだ。そうか、そういう仕組なのか。


「またトカゲかよぉ~、肉喰いてぇ!」

 あれだけ嫌がってた魔物の肉をせがむとは。

魔物が出ない以上、小動物や虫で食いつなぐしかない。


「セイ、そろそろ油が。」

「おっと、参ったね。思ったより掛かったとは思ってたけど。」

 松明の油が無くなれば、真っ暗のダンジョンを手探りで進まなければならない。

いかに戦いに慣れた冒険者や勇者といえども、無事に出られる訳がない。


「最悪は各々の服でも何でも燃やすしかないね。」

 そうセイが言うとジュレさんがマジかよ…みたいな顔をしてた。

いいよ、いいよ~是非やろう。


「パパ~、見て見て、ほらっ」

「ええっ」

 女の子の指先がほんのり輝き、先を照らしだす。

 

「こりゃあ驚いた。魔法が使えるのか、この子は。」

「これが魔法…」

 聞くとこの世界の魔法は、呪文や魔法陣などの概念は無く、なんだいそれは。と逆に聞かれてしまった。

魔素を使い思い描いた現象を具現化する物が、この世界の魔法らしい。


「にしても、益々魔族が関係してそうだね、この子。」

「今まで見た限り、害はなさそうですけどね…」


----------


「やっと出られたね。おつかれさん。」

 外は雲一つない晴天で、いつかの様に目が眩む。


 柔らかい日差しと、冷たい風が季節を感じる。

もうすっかり冬到来という時期だ。


「一度宿に戻ろうか、話したい事もあるからね。」

 セイ達に連れられて、宿の一室で向かい合う。

 

「それで、その子の今後なんだけどね?」

 あまり良くない話しかも知れない。

 

「コーヘーに懐いているのはよく分かるんだけど、君に預けるのは不安というかさ…」

「魔族絡みの危険もあるし、こちらの監視下に置かざるぶっ」


「やー!パパと一緒にいるの!」

 そう言って、指先から水をピューと出してセイに浴びせる。

あらあらとジュレさんが手ぬぐいでセイの顔を拭う。


「うーん、困ったねぇ。勇者としては手荒な真似はしたくないんだ。」

 セイが普段の爽やかさから、真剣な表情に切り替わる。

恐らく拒否権など無く、この場は合意の上ですよ。という建前上の話し合いなのだろう。


 セイが本気を出せば、俺やコーンはなんの障害にもならないだろう。

ただ、俺をパパと呼ぶこの子が、泣いて連れ去られるのは、なんとも目覚めが悪い。


 ここは一つ可能性に賭けてみる。俺の可能性に。

 

 

 

「…セイ、実は話していない事があるんだ。」


「長くなるが聞いてくれ。」



 そう告げて、杏子が病院に入院した頃からの今までを全て打ち明けた。

 

 

 

 

 

 彼女のお腹の中には…

 

 新しい命が宿っていた事も。

 

 

 

 そう、可能性としては無くはない。

但し年齢の計算は合わない。俺と杏子の子であれば、4歳。


 生憎子育ての経験はないが、今まで見てきた子供を基準に見れば、4歳にしてはこの子は幼すぎる。


 それでも可能性としては有る。


 それは時間のズレだ。


 俺の最後の地球の記憶は大晦日の夜だ。

この世界で目が覚めた時、春だった。時間のズレは確実に存在する。


 この子が本当に杏子に宿った子なのか確信はない。

それでも、幼いこの子を放っておくのは杏子に叱られる気がした。


----------


「なるほどね。いや俄(にわか)には信じられない話しなんだけどさ?」

 セイは疑いの表情でそう口にする。そりゃ信じられないよな。

横でコーンがぐずぐず泣いてる。お前は以前に聞いただろ…


「それで、コーヘーはこの子をどうするつもりだい?」

 どうする…どうもしないよ?…あれ?どうするんだ俺は。


 しばらく預かって…うーん。

養女として育てる?


 幼女だけにってか。

ワッハッハ。座布団全部取り上げて。


「どうもしないさ。この子が大人になるまで育てて、この子の人生を歩ませる。」

 もう乗りかかった船だ。俺が育ててみせるさ。

 

「そういう事なら、コーヘーに託してもいい。但し…僕の目の届く土地で暮らしてくれ。」

「でもセイって、あちこち出歩いてんだろ?俺もついて回るのか?」

 よく聞けば、何か有った際にセイに情報が入るような土地という事だと。

そういう事なら、打ってつけの場所があるな。コーンもその方がいいだろう。



「こりゃ春まで足止めだね。」

「一つ問題も解決したし、のんびりしようじゃないか。」


 セイが心底ホッとした表情で窓の外を観ながらそう言う。

釣られて窓を眺めると少し早めの雪が舞っていた。

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