10話
「ダンジョン広すぎるだろ…」
ウィコンティの宿で、勇者がダンジョンに居る事を確認し、追跡中だ。
「流石、高難度ダンジョンだな。ここまでとは思ってもみなかったぜ」
もうかれこれ2週間、ダンジョンの中を彷徨っている。
簡単な地図はあったが、書き記された範囲が極わずかだった為、今は手探りだ。
「もう中層に入ってるよな。」
「そうだなぁ、魔物は全く見当たらないけどよ。」
勇者が蹴散らした後なのか、魔物に出会う事は今のところ無かった。
今なら馬頭の魔物くらいは倒せる自信がある。コーンも俺もカリエマで十分な鍛錬を積んだ。
「もうトカゲは食いたくねぇなぁ」
「仕方ないだろ。持ち込んだ食料はとっくに無いんだし。」
何ヶ月も篭もる冒険者は、一体どうやって食料を確保しているのか不思議でならない。
俺もコーンも野外の依頼ばかりで、ダンジョンの経験が圧倒的に少ないのがネックだ。
水は至る所に湧いている為、水筒さえあれば困らない。
----------
ダンジョンに入って一ヶ月程経っただろうか。
コーンも俺も地底人かドワーフか。そんな有様だ。
「コーヘー、もう勇者は死んじゃってるんじゃないか?」
「俺もそんな気がしてきた。俺達も帰れるのかこれ…」
もう諦めて引き返そうか。
そんな気持ちが高まっていた時に、ようやく希望が見えてきた。
「おいこの音って」
「戦ってんのか?」
金属音が微かに聞こえ、音の鳴る方へ足を進める。
音源の開けた場所に到達すると、そこには二人の剣士風の男女。
そして以前戦った馬頭の魔物より二回りは大きい、牛頭の魔物が戦っていた。
「どっちが勇者だろう?セットで勇者なのか?」
「強い方が勇者じゃねぇの?」
伝説の装備を身に纏いし勇者。
そんな物はこの世界には居ないのか、普通の冒険者と見た目は変わらなかった。
コーンの言葉を借りれば、こき使われる箒だしな。
そもそも彼らが勇者か分からない。ただの冒険者かも知れない。
彼らの戦いをじっくり見させてもらう。
危なげな所は見当たらず、牛頭の魔物を阿吽の呼吸で翻弄していた。
「うーん。パッとしねぇな。」
「圧倒的な戦いではないな。」
所詮は人の身。人智を超えた何かでない限り、強さの到達点はそこまで高くはないんだろう。
それでも自称か他称か分からないが、勇者を冠するだけはある。
恐らくコンドビア隊長より遥かに強い。
「なんか引っ掛かんなぁ。見たことあるような…」
実は俺もなんとなく妙な感じがしていた。
女性剣士に、お会いしたことがありませんか?等とナンパの定番をするつもりはないが、男性剣士に既視感を感じる。
結局加勢する様な状態にはならず、牛頭の魔物は地に伏せた。
「やあ、君たちは冒険者かい?こんな奥まで珍しいね。」
キラキラと光る白い歯を見せ、爽やかスマイルな男性剣士に声を掛けられる。
あれだけの戦いを終えたばかりだというのに、呼吸は全く乱れていない。
勇者を探しにダンジョンの奥まで追跡中だと事情を話すと、やはり彼が勇者だと。
「なるほどね。それは苦労を掛けたね。」
なんて爽やかな労いを貰う。女性ならチョロくやられてしまうかも知れない。
色々と話しをした結果、彼は勇者セイ・シュビアイウス。セイさん。
もう一人の女性剣士は、ジュレ・コビ。ジュレさん、駆け出しからの相棒らしい。
そしてカリエマの件は、ここの調査が済んだ後に向かうとの事。
コーンの話しでは、各地を渡り歩いている上に、街々の首長とも顔が利くという。
折角なので、杏子の事を聞いてみる。
「すまない、分からないな。」
半分予想はしていた通り、残念な返事が返ってきた。
「じゃあ、僕達は先に進ませて貰うよ。」
俺達も依頼を終え、引き返す事にした。
のだが…頭を過ぎる可能性の言葉。
二つ目の可能性が翻訳と仮定した場合、この世界で出会った人の誰かが杏子を救う可能性に繋がるのだと。
俺の出会いが杏子を救う。
コーンに出会い、俺は世界を知った。
ゲイン先生に出会い、俺は世界を渡る為の術を得た。
筋…シクオさんに出会い、信頼を得た。
そして今勇者に出会った。これはただの出会いなのか分からない。
けれど杏子を探す上で、今までの誰よりも強力な出会いじゃないか?
勿論仮定の上での話しだ。見当違いかもしれない。
それでも何か、確信めいた物が自分の中に花開いた。
「セイさん、俺達も同行していいか?」
コーンに確認する前に、俺の口は動いていた。
----------
「ズオリャァ!」
コーンは相変わらず気合の一撃を入れる際に叫ぶ。
そうしないと、気分が乗らないのだと。
勇者一行となった俺達は、何度か牛頭の魔物を倒し、随分と奥まで進んでいた。
「いやぁ、君たち結構強いね。冒険者は長いのかい?」
「セイさんには敵わないけどな。」
「セイでいいよ。」
先生の教えが良かったんだろう。
俺もコーンも、それほど足を引っ張る事なく、ついて行けた。
「これを食うのかぁ…」
久しぶりの焼肉を目の前に文句を言うのは、コーンだ。
燃料は魔物の脂肪。焼かれた肉は牛頭の肉だった。
「魔物の肉を食べると魔物になるってのは迷信だよ。ほら、美味しいから。」
ダンジョンの冒険者では、割りと常識なんだと。
「うおおおおおおお」
「うわああああああ、なんだってんだ。」
食べ終わって、一服していた俺の目の前でうぞうぞと牛頭の残骸が動きだし、驚きのあまり声を上げる。
コーンは俺の声に驚いて声を上げる。
「こうやってダンジョンに還るんですよ。」
クスクスと、そう教えてくれたのはジュレさん。
死んだ魔物や冒険者は、ダンジョンに吸収されるのだと。
----------
「もうすぐ最深部のはず。気を引き締めよう。コーヘー達はいつでも逃げられる心積もりを。」
セイがそう言いながら先導する。
最深部に何があるのか聞いていない。調査がなんなのかは口外出来ないそうだ。少なくとも俺達を庇う余裕はないのだろう。
「見えた。」
セイを先頭に薄暗い開けた空間に出る。
中央には台座のような物と、台座に座る球体が見える。
「何も居ないようだけど…?」
ここが何なのか分からないけど、若干ダンジョンのボスとか期待していたので肩透かしを食らう。
「これはなんだ…?」
セイが奥で何かを見つけたようで、皆の視線がセイの先に向く。
そこには黒い1メートルほどの固まりがあった。
例えるなら繭のような。
「割ったら中から悪魔でも出てきそうだな。」
皆が俺にそんな冗談やめてくれと視線で釘を刺す。
場を和ませるのは失敗したようだ。
セイが恐る恐る繭に触り、俺とコーンはやや離れた位置に移動する。
繭がセイによって徐々に解かれ、中身が暴かれる。
「…子供だ。」
「あら、ほんとう。可愛らしいわね。」
セイとジュレがそう言う。ここからじゃちょっと見えない。
「あっ」
「気づいたみたいよ。」
セイが抱き上げ、繭の中に居た子供をこちらに見せてくれた。
キョロキョロと辺りを見渡した、1~2歳の裸の女の子は、こちらを見るとこう言った。
「パパ~!」
えっ。




