じいちゃんへ会いに
「はぁ、お腹空いた。こんなことならやっぱり、アニエスと一緒にくれば良かったわ」
「お前なぁ……」
のっけから愚痴を漏らすのはリリ。中央を出発してまだ数分しか経ってない。中央は、今の場所からでもすぐ見える所にある。
「夜更かしでもしたの? ……はい、これ」
アメルが取り出したのはサンドイッチだ。リリは何も言わず、それを一つ手に取り食べ始めた。
「……アンタにしては、用意がいいじゃない」
「どの位歩くか分からなかったから、一応ね」
そう言われて気付いた。そうだ、村までの距離とか全く説明してなかったな。
「ごめん、どの位の距離か説明してなかったね。どうだろう、このままいけば、大体昼過ぎには着くと思うよ」
それを聞いたリリは、嫌そうな顔を隠すこと無く発言してきた。
「いま朝よ? どんだけ歩くのよ……」
まぁ、そうなるよな。二年間、帰ろうと思えば帰れたけど、そうしなかったのは村までの距離だ。あの村、絶妙に遠いんだよな。もうちょっと近ければといつも思っていた。だが、今の俺は違うぞ。
「ここまでくれば良いだろ。ライム、四人だ。いけるか?」
「おー!」
ライムは返事をして、二体へ分かれた。スキル、分裂だ。そのまま決めポーズを取る。
「「へんっしん!!」」
二体の身体が光を放つ。そのまま姿を変えていき、現れたのは月狼だった。言わんとしてる事を汲み取ってくれるライム。頼れる相棒だ。俺はライムの背に跨る。
「リリとアメルはそっち、イッカクはこっちでいいよね?」
「イヤ、俺ハ歩イテ行ク。コノ辺リハ行動範囲デハ無カッタ。少シ、景色ヲ見タイ」
「そういうことなら。このまま道なりに真っ直ぐ行くと、分かれ道が出てくる。直進すると南へ、曲がると少しして村が見えるから」
「分カッタ」
イッカクも、景色を楽しむ一面があったんだな。やっぱり希少種って面白いもんだ。さて、と意識を切り替える。
「じゃあ俺達は先に──」
「アンタこの間一緒に乗ってたでしょうに! 今度は私の番よ!」
「そ、それはそうだけど! それはそれ、これはこれなの! わ、私もカイルさんと一緒がいいの!」
「なんか背中がモゾモゾするー」
声を掛けようとしたら、ライムの背で二人が言い合っていた。
「……先、行くか」
「おー」
二人が言い合っているのを横目に、俺達は先に村へと進んだ。少しして、後ろから猛スピードで二人を乗せたライムが追いついてきた。
「ちょっと、置いていくとかありえないんですけど?」
「び、びっくりしちゃいました……」
「いや、二人共なんだか楽しそうだったからさ」
「あれが楽しそうに見えるなら、アンタ一回医療班の世話になりなさい」
リリはそう言ってそっぽを向いた。そ、そこまで言わんでも……。
歩けば昼まで掛かったであろう分かれ道まで、ほんの数十分で着いた俺達は分かれ道を曲がり、村へと進んでいく。二人は大人しくライムに乗っていた。油断すると、すぐ楽しそうに飛ばし始めるから中々に緊張するよね。今も駆け出しそうになるライムを、アメルがゆっくりで良いからね? と慌てて窘めていた。
「お、見えてきたな」
曲がり道からは、割とすぐ村が見える。小さい村だし、あまり良い思い出も無いけど……俺が育った大事な場所だ。開けている場所に、家が十数軒ある程度のこじんまりとした村。
基本的には自給自足を掲げている村で、家畜や麦、野菜等を軸にして生活していた。勿論、それだけではままならない時もあるので、住民は時折中央へ買い出しへ行ったり、商人が中央と南へ行く前に立ち寄った時に買い物をしていた記憶がある。
少し東へ歩いていくと森が見える。じいちゃんに怖がらせられた迷いの森。そう考えると、フォレイトスの領域って大きいんだな。
「よし、いいぞライム。止まってくれ」
「はーい」
村前でライムから降りる俺。草を踏む感触が心地良い。二人も降りた所で、ライムが擬態と分裂を解き、俺の肩へ登ってきた。
「ありがとなライム、疲れてないか?」
「んーん! 大丈夫!」
ライムは何の気無しに言うが、三人を同時に長距離移動なんて。少しは疲れてもおかしくないはずなのに……相変わらず凄いな。
「ここに、カイルさんのお爺さんが居るんですね」
「じいちゃんの家は、村の奥側にあるんだ。行こう」
「ここで好印象を得れば、勝ち確よ!」
リリが何を言ってるのか分からなかった。勝ち確?
村の中へ入ると、住民が珍しそうにこちらを見ている。中には嫌そうな顔も見受けるが……まぁ、いつも通り。ここは変わらないな。
「お前……カイル、か?」
声がした方を向くと、この村には珍しい青年が。体躯の良い彼は、驚いた顔をしながらこちらを見つめていた。
「ジャイか、久しぶり」
「……おう」
そう言うなり、ジャイは俺から視線を外し、歩いていってしまった。
「なによあれ、感じ悪いわね」
「まぁ、この村ではこんなものだと思ってるよ」
そのまま奥まで進んでいく俺達。そこに外で作業をしていた見覚えのある姿が。俺は久しく見た嬉しさに思わず駆けてしまった。
「──じいちゃん!!」
「!? カイルか!?」
じいちゃんは俺の腰を両手で掴むと、そのまま持ち上げてきた。
「うおぉ!?」
「ははは! デカくなったか!? 少しは冒険者らしくなったじゃないか!」
そのままぐるぐると回される俺。相変わらずなんつー力だ! 視界の隅に、二人が呆然としてこちらを見てた気がする。
「じ、じいちゃんストップ! 仲間も一緒なんだ! 紹介させてくれ!」
「ん、そうなのか? よいしょっ、と。お、別嬪さんが二人も居るじゃないか。隅に置けないな、このこの」
俺を降ろしたじいちゃんは、二人を見ると肘でつついてきた。二人は、この様子を見て尚固まったままだった。




